special

ポケット・ストーリー

『約束の夏、まほろばの夢』 共通ルート 1-2

第一話『それは出会いにも似て』 (2)




りんか 「[神宮/かみや]りんか」


    ようやく落ち着いたところで、彼女はそう名乗った。


涼太  「普通に名乗るんだな」


りんか 「どういう意味!?」


涼太  「“ふはーははは、我が名は神宮りんか! 世界はすべてあたしにひれ伏す!”とかさ」


りんか 「どういうキャラにしたいんだよ! 普通に名乗るよ!」


涼太  「ああ、悪い。ラノベとか好きな奴が身近にいるんで」


りんか 「人の趣味に文句はつけないけど、君も影響受けすぎなんじゃないかな……」


りんか 「……ていうか、君は初対面の人間相手にノリがよすぎない?」


りんか 「田舎の少年は、もっと純朴でいてほしかった……」


涼太  「そんな思い込みを押しつけられても……」


    田舎で育てば素朴なメンタリティが身につくなんてことはありえない。

    そんなの、どこで育とうが年頃の男子なんて、大して変わらないだろ。


りんか 「……あっ!」


涼太  「ん? 今度はなんだ?」


りんか 「ちょっと確認したいんだけど、ケータイ出してくれる?」


涼太  「ケータイ? 確認ってなにをだ?」


    純朴じゃない少年としては、個人情報のかたまりをうかつに人に渡したくないんだが……。


りんか 「……ケータイ、使えるよね、ここ?」


涼太  「当たり前だろ……」


    ここをどんな秘境だと思ってるんだ?


涼太  「もちろん、ほとんどみんなスマホ使ってるぞ」


りんか 「あー、パカパカやるやつじゃないんだね」


    パカパカって言い方も古めかしいな。

    ある程度歳がいった人たちはガラケー使ってることも多いけど、それは言わなくていいだろう。


涼太  「まあ、携帯電話が使えるようになったのは、ほんの数年前だけどな」



りんか 「マジでっ!?」


りんか 「半分冗談で言ったのに……今時、南極でもケータイくらい使えるのに……」


りんか 「ここは、南極以下の不毛の地だったの……?」


涼太  「そこまでボロクソ言われる筋合いもないが」


    あと、南極で使えるのは衛星携帯電話とかじゃないか?


りんか 「じゃあ、前はどうやって外部と連絡取ってたのかな……電報とか……まさか、伝書鳩じゃないよね……」


涼太  「…………」


    恐ろしく失礼な想像をしてるな、この子。

    固定電話は昔から普通にあったことを説明……いや、また変な方向に話が進みそうだから、やめておこう。


りんか 「まあ、いいか。スマホ使えるなら、ちょっと出してもらえる?」


涼太  「……だから、なんでだ?」


りんか 「だって……さっきのわたし、撮影されてるかもしれないし」


涼太  「いやいや、盗撮なんてしないって!」


りんか 「撮られた挙げ句に、ネットに流出でもされたら、わたしはもう生きていけなくなるから!」


涼太  「盗撮もしてないし、ネットにも流さないって!」




りんか 「人の善意など信じられるものか!」


涼太  「君の方が、どんな人生送ってるんだよ……。あと、口調がおかしいぞ」


りんか 「いいから、スマホをよこしなさい!」


りんか 「素早く奥まったフォルダに隠してるかもしれないから、初期化するだけ!」


涼太  「されてたまるか! というか、どんな早業だよ!」


    完全に常習犯の手口じゃないか。


涼太  「とにかく、盗撮はしてない。そんな趣味もない」


りんか 「そ、それならいいけど。えーと……」


    彼女の問いかけるような視線に、自分は名乗っていなかったことに気が付いた。


涼太  「ああ、すまん。[十河/とがわ][涼太/りょうた]だ」


    なんだか、同い年くらいの子に自己紹介するのも新鮮だ。本当に、この町には知り合いしかいないから。


涼太  「俺を知らないってことは本当によそ者なんだな。珍しい」


りんか 「よそ者って。というか、君は町の顔役かなにかなの? だいたい――」


涼太  「ん?」


    神宮りんかの動きが、一時停止ボタンでも押したみたいに、突然止まった。

    なんだろう、俺の顔をまじまじと見てる……?

    うちの家主様曰く、“黙っていればそんなに悪くない顔”らしいが。

    そこまで、じーっと見るほど面白い顔つきでもないはず……。


涼太  「人生でこの台詞を言うことになるとは思わなかったけど……」


涼太  「俺の顔に、なにかついてるか……?」


りんか 「十河涼太……」




りんか 「とがわ、りょうた……」


涼太  「…………っ!?」


    なっ、なんだ?

    いったい、なにがどうなってるんだ?


涼太  「ちょ、ちょっと待て。その……えーと、どうしたんだ?」


    ああ、なんだか自分でも要領を得ない。

    でも――しょうがないだろ?

    だって女の子が、目の前で泣いてるんだから。


りんか 「ご、ごめん。わたしもよくわかんなくて……」


涼太  「わ、わからない?」


    ただでさえわけがわからないのに、本人にもわからない?

    正直に言って、人生でこんなに困ったことはない――かもしれない。

    確かに調子に乗ってボケとツッコミの応酬をしちゃったけど、泣き出すようなキツい物言いはしてない……と思うんだが。


りんか 「ど、どうしてだろ、マジで涙止まんない……」


涼太  「…………」


    どうしてだろう――

    ふと、この子が泣いているところをこれ以上見たくない、と……。

    頬を伝う彼女の涙を止めたいと、どうしようもなく強い気持ちが胸の奥から込み上げてきた。

    そして、その気持ちはそのまま言葉となって口を突いた。


涼太  「……“こころえのぐ”」


りんか 「……え?」


    俺は、人差し指を神宮りんかの胸元に向け、さっと振るった。



    さっ、さっ、と――指先の見えない絵の具で心を塗りつぶしていく。


りんか 「……あれ?」


りんか 「えっ、あれっ? な、なんなの? 今度はなんなの?」


りんか 「わたし、なんで……いきなり笑ってるの?」


涼太  「…………」


    神宮りんかは戸惑っているようだけど、彼女が笑った理由が、俺にはわかる。

    “こころえのぐ”――人が聞けばなんだと思うだろう。

    でも、これは俺の――


涼太  「あれ!?」


りんか 「ほぇっ!?」


りんか 「な、なに? わたし、もう頭がついていかないんだけど!」


涼太  「……うん、俺もついていかない」


    そうだよ、これはおかしい。

    なんか自然に“こころえのぐ”を使っちゃったけど……。

    どうなってるんだ?

    どうして、こころえのぐが――通じたんだ?



りんか 「うにゃーっ、もうダメだーっ!」


涼太  「お、おい」


    突然、神宮りんかは身を翻すと、素早く境内から走り去ってしまう。

    もう、“こころえのぐ”は解けたみたいだけど……。


涼太  「うーん、止める暇もなかったな……」


    というか、こっちも頭が混乱していて、止める余裕なんかなかったんだけど……。


涼太  「神宮、りんか……」


    いったい、あの子はなんだったんだ?

    でも、どうしてだろう――

    あの子とは、これで終わりじゃない――そんな気がしてならない。

    (to be continued…)