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ポケット・ストーリー

『約束の夏、まほろばの夢』 共通ルート 3-1

第三話『ないしょのチカラ』 (1)




涼太  「っと、こんなとこまで来ちゃったか」


渚沙  「暑い~、こんなとこまで、じゃないわよ……」


    そんな恨みがましい声を出されても。

    どうでもいい雑談をしてたら、特に用のない駅に来ちゃっただけなんだから。


涼太  「意外と駅って来ないよなあ。こんななにもない町に住んでんのに」


渚沙  「電車、本数少ないし。交通費もバカにならないしね。電車で出かけてもほしいものが手に入るかわからないし」


渚沙  「おかげで、確実にほしい物が届く通販に頼りがちよね……」


渚沙  「本当は、ちゃんとリアル店舗で実物を見たいんだけど……」


涼太  「不便な環境で生きてると、合理的になっていくよなあ」


    ふらふらっと気ままにお買い物、なんて田舎者にはなかなかままならない。

    通販なら送料と時間は必要だが、無駄足を踏むことはないため、気が付くと部屋の中はネットで買ったものだらけだったりする。



りんか 「へえ、そういうものなんだね」


涼太  「ああ、宅配便は田舎でも届くからな」


渚沙  「さすがに、宅配便も届かないほどの田舎だったら引っ越しを考えるわ」


涼太  「渚沙は、ほしい物が多すぎるからなあ」


渚沙  「いいでしょ、買い物が嫌いな女の子なんていないの!」


涼太  「おまえが買ってる物は、一般的な女の子の趣味からはちょっとかけ離れてる気もするけどな」


りんか 「へー、どういうの、どういうの?」


渚沙  「別に恥ずかしいものとかじゃないわよ! ただの――」


渚沙  「って、誰!?」


りんか 「わたし」


渚沙  「知らないわよ! 誰なのよ!?」


涼太  「ああ、りんりんだ」


りんか&渚沙  「りんりん!?」


涼太  「ニックネーム。可愛いじゃん」


りんか 「勝手にニックネームとか! ありえない!」


    なぜか怒られた。


りんか 「わたしをなんて呼んでもかまわないけど、“りんりん”だけは許さない!」


りんか 「そう、絶対に許されぬぞ!」


涼太  「時代劇口調になるほど許せないのか……?」


    突然会話にまざってきた奴に軽いジャブを放っただけなのに。


涼太  「冗談だって冗談」


    だからそんな、馴染みの相手に近づいたら蹴られそうになった猫みたいにフシャーッ! ってなるなって。


渚沙  「だから、あんたの冗談はタチが悪いのよ……」


りんか 「苦労してるんだね……」


    完全に初対面の二人が、うんうんと頷き合っている。

    なんでいきなり息が合ってるんだ。


渚沙  「って、だからそうじゃない! 何者なのよ、この女は!」


りんか 「あなたこそ何者?」


    意気投合したかと思ったら、いきなり反発し始めた……。

    忙しいな、おまえら。

    しょうがない、面倒くさいけど間に入るか……。







    というわけで、簡単に昨日の出会いを渚沙に説明。

    ついでに、俺と渚沙の関係も神宮りんかに説明しておく。


りんか 「なるほど、幼なじみかあ。いいね、そういうの」


渚沙  「別に幼なじみだからどうこうってことはないけど……それで?」


りんか 「はい?」


渚沙  「昨日、リョータと会ったっていうのはわかったけど、結局あんたは何者なの?」


りんか 「見てのとおり、通りすがりの観光客だけど」


渚沙  「見てもわからないわよ……」


    俺も初耳なんだが……。

    ていうか、観光客?


りんか 「わからなくても、そうなんだもん。わたしは――」


    と、神宮りんかがさらに説明を加える。

    神宮りんかはなんとかって言う街……いわゆる都会から、わざわざ夏休みを利用してこの町に遊びに来たらしい。


涼太  「夏休みを利用って……。都会だろうが田舎だろうが、学園の夏休みって言えば今日からだろ?」


りんか 「昨日、終業式が終わってすぐに来たんだよ」


涼太  「ず、ずいぶん慌ただしい観光旅行だな……」


    普通、夏休みに入ってすぐに出かけたりはしないと思うが……。


渚沙  「だいたい、この町は観光地でもなんでもないというか……見るところなんてないでしょ」


りんか 「うん、確かになんもないね」


渚沙  「なんだと!?」


渚沙  「自分で言っておいてなんだけど、人に言われると腹が立つわ!」


りんか 「っと、ごめん。つい、口が滑っちゃった」


りんか 「普段、あんましゃべらないからかなあ。たまに口を開くと、余計なこと言っちゃうんだよね」


渚沙  「たまに?」


りんか 「とにかく、都会の人間にはここは珍しいよ。なにもないっていうのが珍しいっていうか」


りんか 「ああ、こういう言い方もダメかな。うーん……」


    どうやら本当に悪気があるわけではないらしく、段々としょんぼりし始めてしまった。


渚沙  「あ、いえ。そこまで気にしなくても……」


    渚沙が慌てて手をぶんぶんと振ってる。

    田舎なのは事実だから、確かにあまり気にされるとこっちが申し訳ない。事実なんもないしな……。


りんか 「ありがと」


りんか 「そうだ、ここで会ったのもなにかの縁だし、この町を案内とか……してもらえないかなあ?」


渚沙  「ま、リョータと不毛な散歩してるよりはいいか」


涼太  「不毛!?」


    勝手に付いてきておいて、ずいぶんな言い草だな!?


渚沙  「じゃ、ちょっと行きますか。まずはこっちね」







    駅前から、来た道を戻って商店街へ。


渚沙  「ここが一番、町でにぎわってるところね。メインストリート、みたいな」


りんか 「ふうん……」


渚沙  「といっても、ご覧のとおり、たいしたことはないけどね。こんなこと言ったら、お店の人たちに叱られるけど」


渚沙  「友達がバイトしてるお店とかもあるけど、行ってみる?」


りんか 「ううん、できればこのあたり見て歩きたいかも」


渚沙  「うん? まあ、いいけど」


    渚沙は、ちょっと戸惑ってるみたいだ。

    都会育ちの人が見て面白いとは思えないからなあ。

    まだシャッター商店街にはなってないけど、どこも品揃えのいいお店とは言えないし。

    いや、逆にそれが神宮りんかには新鮮なのか?


りんか 「うーん、やっぱりそうかあ……」


涼太  「やっぱり?」


りんか 「ああ、気にしないで。わたしは挙動不審なんだよ」


渚沙  「そのとおりだけど、自分で言うの?」


    まったくもって渚沙に同感だ……。

    昨日は神社で踊ってるし、こんな田舎町の商店街を見てなんか唸ってるし、挙動不審というか、存在自体が不審すぎる。

    それに……。


渚沙  「……まさか、地上げの下見に来たとかじゃないわよね?」




りんか 「凄い発想だね。確かにわたしは謎の美少女だけど、そんな怪しい目的は持ってないよ」


渚沙  「なんだ……」


涼太  「なんでがっかりしてるんだ?」


渚沙  「いえ、ここが豪華なショッピングモールとかになったら嬉しいでしょ」


渚沙  「いつも言ってるでしょ。できれば、ネット通販じゃなくて手に取って買うに越したことはないって」


涼太  「でも、それってまずいんじゃないか?」


渚沙  「なんでよ?」


涼太  「だって、渚沙がコレクションを買い漁っている姿を、クラスメイトや地元の方々に見られたりしたら……」


渚沙  「あたしが人に見られたらヤバイものばかり買ってるみたいに言うな!」


涼太  「……違うのか?」


渚沙  「そ、そういうものがないとは言えないこともないかもしれないけど……」


    言い方はとてもややこしいけど、完全否定はしてないな。

    まあ渚沙の趣味は特殊というほどでもないが、たまに理解を得られないこともあるからなあ。


りんか 「そこの二人、うるさいよ。観光の邪魔しちゃダメ」


涼太  「……怒られたぞ」


渚沙  「観光ってそんなに冷静にするものだったかしら?」


    神社仏閣の見学だって、多少はしゃいでも許されるだろうに。


りんか 「ううむ、わたしって頭大丈夫なのかなあ……」


涼太  「…………」


    その不穏なつぶやきを横で聞かされてる俺らの気持ちも、ちゃんと考えて欲しい。

    要するに、もう少しボリュームを絞れ。あるいは口を閉じろ。


渚沙  「今からでも遅くないから、逃げたほうがいいんじゃないかしら」


    そんな気もするけど、神宮りんかを放置しておくのも怖いかも。

    いったい、なにが目的なんだろう?

    観光っていうのは、限りなく嘘っぽいよな……。

    (to be continued…)