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ポケット・ストーリー

『約束の夏、まほろばの夢』 共通ルート 5-2

第五話『帰ってきた少女』 (2)




りんか 「はー、麦茶美味しかった……歩き回って火照った身体に染み渡るよう……」


りんか 「本当に喉が無事でよかった……」


星里奈 「ははは、沖田総司には負けるだろうが、私の突きは強力だからな。くらわなくてよかった」


    まだ続くのか、その話題。

    とりあえず、神宮を家の居間に案内して、麦茶など振る舞って数分。

    軽く、星里奈に神宮のことを紹介も済ませて。

    ようやく、全員が落ち着いた――と思いきや、星里奈と神宮の間は微妙にギスギスしてる。


渚沙  「だいたい、なんで星里奈は予定より早く帰ってきたの?」


星里奈 「うーん……」


    星里奈は、ちらりと神宮に視線を向ける。


星里奈 「まあ、いいか。なんとなく、予感がしたんだ」


りんか 「予感?」


星里奈 「涼太が怪しい女を捕まえようとして、うっかり胸に触って」


涼太  「む、胸……?」


星里奈 「首が一回転するほどぶん殴られるような気がして仕方なくて」


星里奈 「仕方ないから、助けてやろうかと、早めに帰ってきたんだ」




りんか 「え、それだけの理由で?」


涼太  「あー…………」


渚沙  「んー…………」


    人が聞けば、ただの勘だと思うだろうけど……。

    “あしたよほう”。

    俺たちの幼なじみの一人である星里奈もまた、俺や渚沙と同じように能力を持っている。

    簡単に言うと“未来予知”だ。

    数分から、数日先の未来を視ることができる。

    もちろん、俺の“こころえのぐ”や渚沙の“ひみつでんわ”がお互いにしか通じないのと同じで――

    視えるのは、俺や渚沙、幼なじみの未来だけだ。

    しかも俺たちの能力は意図的に使えるけど、星里奈の場合はランダムに発動する。

    うーん、使い勝手の悪い能力だよなあ。


涼太  「俺がぶん殴られるところだったのか……」


    ……でも、口には出せんが、助けられたか邪魔をされたかは、微妙なところだな。

    と、思わず神宮の胸に目がいってしまう。

    あまりにも桁違いなので、恐れ多くてこれまでは意識しないようにしてたけど……神宮りんかさん、結構なものをお持ちだ。

    これに触れられるのなら、首が後ろに回るくらい……いや、死ぬけど。



星里奈 「私の目の黒いうちはラッキースケベとやらは許さん」


涼太  「え!? 俺を助けたんじゃなくて、神宮を助けたのか!?」


星里奈 「胸を揉みたければ、通りすがりの女じゃなくて、渚沙のを揉めばいいだろう」


星里奈 「すぐそこにあって、いつでも触れるんだから」


渚沙  「触れるかっ! 人の胸を勝手に差し出さないで!」


    渚沙はなぜか、星里奈ではなく俺の方を睨みながら叫んだ。


涼太  「……ノーコメントで」


    それにしてもこう、なんでうちの人間は流れるように下ネタを突っ込んでくるんだ?


星里奈 「そうか、渚沙のはちょっと小さめだからな。81センチだったか?」


渚沙  「具体的なサイズを言うなー! というか、なんで知ってるのよ!」


星里奈 「歩さんのところには、私たちの成績も身体測定のデータも全部届いてるからな。教えてもらった」


渚沙  「あ、あたしは聞いてないのに……」


星里奈 「とにかく、その人の胸には触ってはいけない。ドント・タッチだ」


りんか 「別に英語で言い直さなくても……というか、なんでまだえーと……星里奈さん? その人に警戒されてるの?」


星里奈 「うん?」


星里奈 「初対面の男に胸を揉ませるビッチは危険だろう?」


りんか 「誰がビッチ!?」


星里奈 「都会の女というだけでビッチじゃないのか?」


りんか 「よーし、そのケンカ買った!」


星里奈 「言っておくが、私は強いぞ」


りんか 「十河君も、たぶんタフだよ!」


涼太  「俺がやるのか!?」


    冗談じゃない、星里奈が強いっていうのはガチなんだから!

    はっきり言って、素手の星里奈にも勝てる気はまったくしないぞ!


渚沙  「……ねえ、リョータ。なんでこの二人、こんな仲悪いの?」


涼太  「初対面の印象かな……」


    と、適当なことを答えておく。

    よくわからんけど、星里奈と神宮の相性はかなり悪そうだ。







    そして、夜――夕食後。

    神宮も夕食に誘ったんだけど、断られてしまった。

    なんでも、神宮はちょっと遠くの旅館に泊まっていて、そこからこの町に来ているらしい。


歩   「当然ですね。この町には旅館のたぐいはありませんからね」


涼太  「観光客なんて普通来ないからなあ。旅館やっても商売にはならないよな」


歩   「電車も少ないから、大変ですね。もし困ってたら、助けてあげて。泊めてもかまいませんし」


涼太  「言っておくよ。といっても、連絡先も知らないし、またこの町に来るかわからないけど」


歩   「たぶん、また来ますよ」


涼太  「…………」


    根拠はないみたいだけど、確信はあるみたいだ。

    歩さんが言うとなぜか、きっとそうなんだろう、って気がしちゃうな。


歩   「それで、星里奈さんは? あちらの道場はどうでした?」


星里奈 「やっぱり、人と稽古するのはいいな。竹刀がぶつかり合う音を聞いてると、心が落ち着く」


歩   「けっこうなことです。精進なさってくださいね」


星里奈 「むろん。祖父もそれを望んでる」


    星里奈は、自信満々に頷く。

    星里奈の家は、この町で唯一の剣道場で、彼女の祖父が経営していた。

    数年前に、そのお祖父さんが体調を崩して道場はずっと休業中。

    ちなみに、星里奈のご両親も剣道家だけど、海外で剣道の普及活動をしている。

    そういうわけで、星里奈も蒼森家に居候することになり――

    この町では稽古の相手がいないので、たまに遠くの道場に出稽古に行っている。


渚沙  「信じられないわ。あんな痛そうなものでバシバシ打ち合うなんて」




星里奈 「いや、たぶん渚沙が想像してる以上に痛いぞ」


渚沙  「知ってるわよ! 前に無理にあたしを付き合わせて、ぶちのめしたの忘れたの!?」


星里奈 「そんなこと、覚えてるわけないだろう」


渚沙  「あたしは一生忘れない勢いなのに!」


星里奈 「渚沙は相変わらず勢いで生きてるな」


渚沙  「……むう、チートスキルを身につけて、星里奈を叩きのめしたい!」


渚沙  「天から才能、降ってこないかしら……それか、伝説の魔剣的な竹刀とか……」


涼太  「伝説の竹刀って強いのか弱いのかわからんな」


    しかし、いつものことながら、渚沙は恐ろしく都合のいいことを考えてるな。


歩   「ふふふ、家がにぎやかになって嬉しいですね。やはり、我が家はこうでないと」


涼太  「……まだ一人足りないっすけどね」


歩   「まあ……アレはアレですから」


渚沙  「アレよね……」


星里奈 「アレにも困ったものだな」


    いや、星里奈だって留守がちなんだから人のことは言えないだろ。

    まあ、欠けてたメンバーが一人でも戻ったっていうのは、悪くない。


涼太  「……ん?」


星里奈 「どうした、涼太? 悪いが、私の胸は揉ませないぞ?」


涼太  「人を飢えてるみたいに言うなって!」


    まったく、澄ました顔でとんでもないこと言うんだからな。

    一人戻って、あと一人か……。

    ……でも、なんだろう。

    なぜか、自分が思い浮かべた言葉に引っかかりを覚えた。

    自分でもなにに引っかかってるのか、まったくわからなかったけど……。

    とにかく、小さな違和感はいつまでも頭の片隅に残り続けていた。

    (to be continued…)