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ポケット・ストーリー

『約束の夏、まほろばの夢』 共通ルート 7-2

第七話『なりゆきの逃走劇』 (2)




りんか 「はあっ、はあっ、はあっ、はぁっ……」


涼太  「あ、暑っ……喉渇いた……」


りんか 「だ、だいぶしつこかったね、あの子……」


    20分くらい走り回ったかな……。

    全力で、しかも炎天下の状況でだからな……。


りんか 「ふーっ……」


りんか 「まあ、いきなりだったからアレだけど……少しくらい答えてあげてもよかったかな」


涼太  「そうしてやってくれ。別に悪い奴じゃないしな」


涼太  「逃げられて、ショック……は受けてないと思うけど、今度顔見たら相手してやってれると助かる」


    普段はぼーっとした目をしているホタルだが……。

    イキイキと取材してる姿を見ると、ああこいつも趣味とかあるんだなって安心できるし。


りんか 「あれ? えーと……ホタルちゃんだっけ? あの子には優しくない?」


涼太  「あいつ、PCが使えるからな。たまに生徒会の仕事を手伝ってもらってるんだよ」


    特に優しくしてるわけじゃなくて、手伝ってもらってる身だから、多少は気を遣うというか。


りんか 「生徒会? そういえば、お昼にも生徒会がどうこうとか話してたね」


涼太  「言ってなかったか。俺、一応生徒会長なんだよ」


りんか 「生徒会長? なにが目的なの?」


涼太  「なんか企んでるみたいに言うな! 先代が歩さんで、指名されちゃったんだよ!」




りんか 「なるほど、十河君、あのお姉さんに逆らえなさそうだもんね」


涼太  「…………そんなこと、ないですよ?」


    なぜか俺も敬語になる。


涼太  「とにかく――ホタルにはちょいちょい借りがあるんだよ」


涼太  「言いたくないことを無理に言わせる奴でもないから、今度会ったら少しくらい話し相手になってやってくれ」


りんか 「そうだね、まあ十河君にはお世話になってるし、それくらいは」


涼太  「…………」


    俺、お世話なんかしてるかな。

    トラブルには巻き込まれてるが。


りんか 「でもこんな全力疾走なんて久しぶりだったよ。体育の授業でもない限り、走らないしね」


りんか 「意外と、十河君もやるね。田舎のもやしっ子かと思ってたよ!」


涼太  「それを言うなら、都会のもやしっ子だろ」


りんか 「車もめったに通らないし、走りやすかったね。どこもかしこも見通しがよすぎて、隠れられなかったけど」


りんか 「田舎は逃げるにはいいような、悪いような……」


涼太  「逃げる必要がないのが一番だけどな……」




りんか 「逃げるときは逃げる! わたしはそうやって生きてきた!」


涼太  「威張るようなことか……?」


りんか 「情けないことも威張って言えば、それなりに格好良くなるんだよ」


    誤った価値観だと思うけど……いいのか、それは。


りんか 「まあ、今回はわたしも十河君も悪くなかったけどね。わたしたちが前に逃げたときは――」


涼太  「……前?」


りんか 「……あれ?」


    なんだろう、神宮が不思議そうに首を傾げてる。

    前に逃げた?

    星里奈から逃げようとしたことはあっても、あのときは俺は一緒じゃなかったし。

    なんのことを言ってるんだ……?


りんか 「あれ、また……なんだろう、これ……」


りんか 「なんか、わたし……大事なこと、忘れてる、みたいな……」




りんか 「なん、だっけ……なにか……前にも似たようなことが……あったような……」


涼太  「お、おい……」


    唐突に、神宮が真面目な顔で考え込み始めてる。

    汗が流れてるけど、これって全力疾走の疲れとか暑さのせいだけじゃ、ない……?


りんか 「わ、わからない……なんなんだろう、神社で踊りたくなったときみたいな……」


りんか 「わけのわからない気持ちが、こみ上げてくる……あうう……」


    ズキン、と。

    やっぱり、神宮の苦しそうな表情を見ていると、それをもう見ていたくない、という気持ちで胸が一杯になる。


涼太  「…………」


    “こころえのぐ”。

    俺は、人差し指を神宮の胸に向けて、ぐいぐいと――感情を塗り替えていった。


りんか 「……あれ?」


りんか 「ああ、不整脈が治まった……!?」


涼太  「不整脈だったのか!?」


    そりゃ、えらいこっちゃだぞ!

    今度は無理に笑わせるんじゃなくて、ただ落ち着かせただけだったんだけど。


りんか 「あ、違う。そうじゃなくて……すっごいドキドキしてたんだけど、急に治った……」


りんか 「これって、十河君と最初に会ったときと同じ……?」


涼太  「“こころえのぐ”」




りんか 「え?」


涼太  「いや……」


    やっぱり、渚沙たちにしか通じない能力が、神宮には効いている。

    ここまで何度も通じるようなら、もう疑いようがないな……。

    神宮にはどう話すか迷うところだけど、この状況でこれ以上黙っているのも……。


涼太  「……馬鹿みたいだと思うだろうけど……感情を操作する能力、かな」


涼太  「なんというか、そういうものが使えたりする、みたいな……?」


りんか 「感情……?」


    “こころえのぐ”っていう恥ずかしい能力名はともかく……。

    もうこれ以上隠していても、神宮を混乱させるだけだろう。

    それに、たぶんだけど、神宮は言いふらしたりしないような気もする。


りんか 「感情を操作する……こころ、えのぐ……」


涼太  「ああっ、その名称は気にしないでく――」


りんか 「十河涼太……十河涼太……涼太……」




りんか 「リョー君……!?」


涼太  「…………っ!?」


    どくん、と心臓が大きく跳ねた。

    リョー君……?

    なんだ、その呼び方は……そんな呼び方をされたことなんてないはずなのに……。

    なぜか、妙になつかしいというか……胸が締めつけられるような……。


涼太  「神宮、りんか……おまえは……?」


りんか 「リョー君……リョー君……リョー君、なの……?」


りんか 「……っていうか、リョー君ってなに……?」


涼太  「それは、俺が訊きたいんだが……」


りんか 「いったい、どうなってるの……?」


    それも、俺が訊きたい……。

    “こころえのぐ”が通じる、渚沙たち以外の女の子。

    なぜか聞き覚えのある、“リョー君”なんていう親しげな呼び名。

    神宮りんか――おまえはいったい、誰だ?

    おまえにとって俺は――なんなんだ?

    (to be continued…)