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ポケット・ストーリー

『約束の夏、まほろばの夢』 共通ルート 11-1

第十一話『発見と深まる謎』 (1)




    息を切らしながら駆けつけた山頂には――



陽鞠  「きゃああああああーーーーっ!」


涼太  「陽鞠!?」


陽鞠  「お兄さん!?」


涼太  「おまえ、なにを――って、あれ!?」


りんか 「はっ!? き、君はリョー――十河君!?」


涼太  「な、なんだこりゃ……」


    山頂には、もつれ合う二人の女の子。

    襲いかかっているのが神宮りんかで。

    襲われているのが我が幼なじみ、風見陽鞠。


涼太  「え、マジでなんなんだ、これ……?」


陽鞠  「お、お兄さん……助けてください……」


涼太  「なにかと思ったよ。ふー、びっくりした」


陽鞠  「一人で安心してないで! 陽鞠には、なにがなんだかわからないのですが!」


涼太  「いやー、焦って損した。でも陽鞠、おまえも悪いぞ。あんな悲鳴を上げるから」


陽鞠  「意地悪ですか!? 意地悪ですよね!? 意地悪なんだ!」


涼太  「いや、意地悪じゃないけど……」


涼太  「そんなに心配しなくても、おまえに襲いかかってるそいつは、俺の知り合いだ」


陽鞠  「し、知り合い? だからって安心できるわけではないんですけど……」


涼太  「それで? いったいなにがあったんだ?」


陽鞠  「この状況で説明を続けろと……いえ、珍しくこんなとこに人がいるから声をかけたらいきなり襲われたんです」


涼太  「……神宮、おまえ……」


りんか 「そ、それはだって……」




陽鞠  「いきなりだったから、犯されるかと思いました……」


りんか 「犯さないよ! びっくりしたのは、こっちも同じなんだから!」


    おい、山の頂で若い女の子二人が犯すとか犯さないとかやめろよ……。


りんか 「町もだいたい見て回ったから、今度は山も見てみようかと思って登ってみたら、いきなり迷っちゃって!」


涼太  「迷った? ほとんど一本道だろ?」


りんか 「わたしが歩いたあとに道ができるんだよ! 人が敷いたレールの上は進まないんだよ!」


涼太  「神宮、おまえ……」


    もしかして、道じゃなくて茂みをかきわけてここまで来たのか……? あの、格好で?

    バカなのか……?


りんか 「さんざん迷って、やっと頂上に着いたら、後ろからいきなり声をかけられたんだもん!」


りんか 「そりゃとっさに反撃もするよ!」


    反撃したのか。そりゃ悲鳴も上げるし警戒もされる。


星里奈 「ふーむ、なるほど。不意を突かれつつもカウンターでマウントを取ったというわけか」


星里奈 「だが、マウントが上手く取れてないな。陽鞠も反撃する隙はいくらでもあるぞ」


陽鞠  「せり[姉/ねえ]……いきなり出てきてなんの解説ですか」


星里奈 「二人とも、少し護身術を教えようか? 非力なおまえたちでも、やり方次第で大の男を仕留められるぞ」


    本当に、なにをしに来たんだ、今更……。


渚沙  「な、なにを、恐ろしい、ことを……教えようと、して、んの、よ……」


陽鞠  「なぎ姉まで……なんでおそろいなんですか?」


    どこからか現れた星里奈に、ようやくご到着の渚沙。

    確かにおそろいだな、うん。


涼太  「疑問はいろいろあるだろうが、神宮、そいつを離してやってくれ。……大丈夫、噛みついたりしないから」


涼太  「そいつは風見陽鞠。俺たちの幼なじみだ」


りんか 「……この子が」


    そうだった、神宮もなぜか陽鞠の名前だけは知ってるんだったな。


陽鞠  「そうですか……陽鞠、犯されないんですね……」


涼太  「犯すとか、女の子がそういうことを言わない」


涼太  「いいから、みんな一度落ち着いてくれ」


    って、なんで俺が場を仕切ってるんだろう……。

    歩さんは俺がリーダーとか言ってたけど……。

    誰も仕切ろうとしない、マイペースな連中の集まりってだけだよなあ。







陽鞠  「ふう、山は思わぬ危険でいっぱいですね」


涼太  「おまえが言うか、おまえが」


    その山に飽きもせずに登り続けてるくせに。


陽鞠  「さすがの陽鞠も、人間に襲われたのは初めてです」


涼太  「……なにになら襲われた経験があるんだ」


陽鞠  「あー…………」


    言いたくないらしい……。

    言ったら、危ないことをするなと叱られるからだろうか。


陽鞠  「えっと、それで……結局、この人は何者なんですか?」


陽鞠  「お兄さんの新しい女ですか?」


涼太  「違ーうっ! 新しいってなんだ、新しいって!?」


    あと、“女”とか雑な言い方をしない!


りんか 「わたし、そんなに安い女じゃないから」


りんか 「ただの観光客だよ」


陽鞠  「…………観光?」


    陽鞠がめちゃくちゃ不審げな顔をしている……。結構レアな表情だな。


りんか 「言いたいことはわかるけど、この町に観光に来る物好きだっているんだよ」


    物好き……いや、まあ、物好きには違いないか。


陽鞠  「いえ、観光自体はいいんじゃないですか? ただ……」


りんか 「んん?」


陽鞠  「観光って、お友達は一緒じゃないんですか?」


涼太  「…………っ!」


    そ、それは……!


渚沙  「ひ、陽鞠っ……あたしもリョータも気づいていて言わずにおいたことをあっさりと!」


星里奈 「陽鞠……人の心をなくしてはいけないぞ」


りんか 「そこの人たち! 君たちも追い討ちかけてるから!」


りんか 「ひ、一人が好きなだけだよ! べ、別に友達がいないわけじゃないんだからね!」


渚沙  「急にツンデレっぽくなられても……」


陽鞠  「なるほど、友達はいるけどこの町に観光で遊びにきた、と……」


りんか 「そ、そうだよ。なにかおかしい?」


陽鞠  「がお」




りんか 「が、がお? なにそれ?」


涼太  「…………」


    あ、もしかしてと思ってたけど……やっぱりそうなのか?


陽鞠  「どれもおかしいですね」


陽鞠  「友達がいるっていうのも、観光で来たっていうのも、どちらも嘘」


陽鞠  「お姉さんは、嘘をついてますね」


涼太  「……………………」


渚沙  「ね、ねえ、リョータ。もしかして……」


星里奈 「おい、涼太、渚沙。そういうことなのか……?」


    星里奈は気がつくの早いな……。まだ神宮と顔を合わせた回数も少ないのに。

    俺も、今になってようやく気がついたことがあるくらいなんだが……。

    ようやく気がついたこと……それは、星里奈と神宮が初めて顔を合わせたときの話だ――

    あのとき星里奈が視た、俺が神宮の胸に触ってぶん殴られる未来。

    それはもしかすると――俺の未来じゃなくて、神宮の未来だったんじゃないだろうか。

    俺が殴られる未来……というより。

    神宮が俺を殴る未来、だったんじゃないか……?

    星里奈が視られるのも、幼なじみたちの未来だけ。

    本来なら、星里奈が神宮の未来は視ることはできない……

    はず、なのだが……。


陽鞠  「……あれ? なんで、陽鞠の能力がこの人に通じてるんですか?」


涼太  「気づくのがワンテンポ遅い……」


    星里奈は間違いなく鋭いけど、陽鞠は鋭いのか鈍いのかよくわからん。


陽鞠  「えええーっ、なんで通じてるんですか!」


    って、驚くのはツーテンポくらい遅い!


陽鞠  「お姉さん! なんでもいいから嘘をついてください!」


りんか 「え? 嘘?」


陽鞠  「なんでもいいんです、質問するから適当な嘘を!」


りんか 「う、うん……い、いいけど……」


    神宮が陽鞠に圧倒されている……。

    陽鞠も普段はおとなしいのに、たまに押しが強いからなあ。


陽鞠  「あなたのお名前は?」


りんか 「アンジョリーナ・ジェリー」


陽鞠  「スリーサイズは?」


りんか 「77、45、75」


    胸が小さすぎ、腰が細すぎ、尻も肉づき薄すぎ……。


陽鞠  「昨夜のご飯のメニューは?」


りんか 「季節の野菜のてんぷらと、ヤリイカのお刺身」




陽鞠  「……それは本当ですね?」


りんか 「うわっ!?」


りんか 「わ、わたしが巧妙に織り交ぜた嘘があっさり見抜かれた……!?」


    うん、まあ……巧妙、だったかはともかく……。


涼太  「陽鞠、どうだ……?」


陽鞠  「はい、なぜかわかりませんけど……通じてます」


    陽鞠も俺や渚沙たちと同じく能力を持っている。

    “うそおおかみ”。

    能力を発動させている間は、俺たち幼なじみがついている嘘を見抜くことができる。

    ちなみに、能力名は狼少年から取ったというだけで――

    口に出していた“がお”には特に意味はない。


りんか 「……な、なんなの、十河君たちは……というか、なにもかもどうなってるの……」


りんか 「わたし、帰る! 陽鞠ちゃん、押し倒してごめんね! 大事なものは奪わなかったから許してくれるよね!」


陽鞠  「そういう問題ですか!?」


    と、陽鞠がツッコミを入れたときには神宮は既に走り去っていて――


星里奈 「……一本道でも迷うみたいだが、一人で下山させていいのか?」


涼太  「ダメだろうな……」


    そもそも、完全な一本道ってわけでもないし。

    このあたりは大丈夫だろうけど、ケモノが絶対に出ないわけでもない。

    慣れてない人間を一人で行かせるわけにもいかないか。


陽鞠  「お兄さん、陽鞠が追いますよ」


涼太  「……それは助かるけど、おまえも帰ってこいよ」


涼太  「というか、おまえを連れ戻しにきたんだよ」


陽鞠  「なぜです?」


涼太  「……まあいいや。神宮に引き離されないうちに捕まえてくれ。捕まえたら、俺に電話するように」


陽鞠  「はい、お兄さん」


    と、陽鞠もその場を走り去っていく。

    まあ、陽鞠はあれで素直だから、また行方をくらましたりはしないだろう。

    俺たちが行くより、山に慣れた陽鞠に任せたほうが神宮も捕まえやすいはず。

    しかし、神宮りんか……いい加減、あいつの謎を放っておくわけにもいかなくなってきた、か。

    (to be continued…)