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ポケット・ストーリー

『約束の夏、まほろばの夢』 共通ルート 12-1

第十二話『時には夏休みらしく』 (1)




    蒼森家の、朝の風景――


陽鞠  「ふう、やっぱりあー[姉/ねえ]のご飯は美味しいですね」


星里奈 「陽鞠は山の中でなにを食べてるんだ?」


陽鞠  「レトルトとかカンヅメとか。あと、お父さんがどっかで手に入れてきたレーションとかです」


渚沙  「ワイルドな生活ね……あたしには絶対無理だわ」


涼太  「変な木の実とかキノコとかは食うなよ」


陽鞠  「忘れたんですか、陽鞠はキノコ、大嫌いです。キノコって名前の人がいたら即座に殴るほどです」


涼太  「それは了見が狭すぎると思うが」


陽鞠  「昔、変なキノコを食べて、七日ほど生死の境をさまよいましたからね……」


涼太  「そういや、そんなことあったな……」


    生還して、すぐに元気いっぱいになってたけど。


涼太  「キノコじゃなくても、迂闊に山のものを食べるのはやめといたほうがいいな。腹壊すぞ」


陽鞠  「大丈夫です、現地調達は最後の手段ですよ」


涼太  「最終手段を取る前に下山しろよ……完全に野生化されても困る」


    それこそ、祭に山狩りしてもらわなきゃいけなくなる。


歩   「さて」




歩   「みなさん、普通に話してますが……私から言いたいことがあります」


陽鞠  「どきっ」


    歩さんの言葉に、陽鞠が顔をこわばらせる。


歩   「陽鞠さんの趣味はよく知っています。もちろん、趣味に口を出すつもりはありません」


歩   「ただ……長くお留守にしすぎではないでしょうか? もう補習も始まっているんですよ?」


陽鞠  「ご、ごめんなさい……つい、調子がよくて山から山へ歩いてたら……」


    山歩きに調子がいいとか悪いとかあるのか……。


歩   「あなたをうちでお預かりしている以上、私には陽鞠さんに責任があるのですよ」


陽鞠  「は、はい……」


    陽鞠の親父さんは元自衛官で、今はジビエ料理の店を経営している。

    野生の獣の食材を使った料理――だそうだけど、この田舎町ではそういう特殊なお店はあまり流行らず……。

    仕方なく別の街に出て、そこで新たに店を構えることになった。そして、陽鞠のお母さんもそれについて行っている。

    当然陽鞠もそっちの街に呼ばれたが、陽鞠はこの町での生活を選び、結果として蒼森家に預けられたというわけだ。


陽鞠  「あの、あー姉」


歩   「なんです?」




陽鞠  「よかったら、今度一緒に山に行きませんか? 保護者つきなら少々無茶してもいいですよね?」


歩   「……あの、前から気になってたんですが、どうしてそこまでして山をウロウロしてるんですか?」


陽鞠  「え? 鹿とかイノシシだって理由もなくうろついてますよ?」


歩   「あなたは人間でしょう! というか、本当にイノシシがいるんですか! 危ないじゃないですか!」


陽鞠  「イノシシは、対処を間違えなければ決して怖い動物ではありません」


歩   「一歩間違えたときのダメージが大きすぎるんです!」


陽鞠  「……あー姉のほうがよっぽど怖いです」


歩   「なにか言いました?」


陽鞠  「いっ、いえっ! せり姉のほうが怖いです!」


星里奈 「ほう……久々に私の怖さを身体で味わってみるか?」


陽鞠  「ああっ、どちらに進むも地獄です!?」


涼太  「陽鞠が丁寧に地雷を踏んでいってるだけだと思うが……」


    もっとも敵に回しちゃいけない二人だぞ、歩さんと星里奈は。


歩   「一度、陽鞠さんとはじっくり話し合ったほうがよさそうですね」


星里奈 「同感だな」


陽鞠  「あうあう……」


    ガタガタ震えてるけど、助けようがない。

    一度、こってり絞られたほうが陽鞠のためにもなりそうだしな。

    陽鞠、骨は拾ってやるからたっぷり叱られておけ。





    今日の補習は、午前で終了。

    歩さんは用があるというので、昼食は外で済ませることになり――







涼太  「この店に来るのもけっこう久しぶりだなあ」


渚沙  「まあ、帰りにコーヒーとか、そんな優雅な身分でもないしね」




祭   「いやいや、身分など気にせず来てくれてよいのだよ、皆の者」


渚沙  「そのドヤ顔がイラッとくるわ……」


祭   「それほどでも! おっと、ご挨拶を忘れてた。いらっさいましー」


渚沙  「というか、いつの間に先回りしてたのよ、祭ちゃん?」


祭   「私はここの看板娘だから! 休みがちだけど!」


    質問の答えになってないけど――

    そう、祭はこの喫茶店でアルバイトをしている。

    山奥から通学して、家の畑の手伝いをして、おまけにバイト……。


涼太  「おまえはいったいなにでできてるんだ?」


祭   「失礼なことを言われても大丈夫! 怒らない! 今は看板娘モードだから!」


星里奈 「そうか、なにをやってもOKなのか……祭は頑丈そうだし、遊び甲斐がありそうだ」


祭   「ウェイト! いちのんはダメダメ! いちのんに好き放題にやられたら、さすがの祭さんも血祭りだ!」


涼太  「上手いことを言えてるような、全然言えてないような」


    とりあえず、怖いもの知らずの祭でも星里奈は恐ろしいらしい。


涼太  「なんでもいいんだけど、昼飯を食いにきたんだよ」


祭   「あい、よろこんで!」


    ……ここって、喫茶店だよな?


陽鞠  「でも、そのウェイトレス服、可愛いですね。あ、服に着られてる感とかは別にないですよ」




祭   「その付け足しはいるの!?」


    わざわざ否定することで、口に出さずにいた気遣いが台無しに。


涼太  「まあ、田舎町の喫茶店とは思えない可愛いデザインだけどな」


渚沙  「かっ、可愛い!?」


祭   「……アズは、当店の自慢のウェイトレスになにか不満でも?」


渚沙  「ああっ、そういうことじゃなくて」


渚沙  「……あたしもここでバイトしてみようかなあ。あのバカがストレートに褒めるなんて……」


    なにをブツブツ言ってるんだ、渚沙は……?


星里奈 「ウェイトレスがどんな服を着てても腹の足しにはならない。注文を済ませよう」


星里奈 「私はご飯と鯖の塩焼き、筑前煮、大根のみそ汁。あとは納豆と生卵もつけてもらおうか」


祭   「うちは喫茶店だよ!」


渚沙  「あたしはカルボナーラとミニサラダかな」


祭   「だから喫茶店だって!」


涼太  「喫茶店ならあるだろ!」


祭   「あ、そうだった。つい、反射的に」


    こんなバイトを雇っていて大丈夫なのか、この店は。


陽鞠  「ボケとツッコミの応酬はいいので、ご飯にしましょう。腹減りですー」


陽鞠  「あ、陽鞠は軍用レーションの持ち合わせがあるんですけど、お兄さんたちも食べません?」


祭   「当店は持ち込みは認めておりません!」


涼太  「陽鞠も充分ボケてるからな……」


    持ち込むにしても、レーションはないだろ、レーションは。

    とりあえず、俺も腹減ったからさっさと食いたい。

    (to be continued…)