special

ポケット・ストーリー

『約束の夏、まほろばの夢』 共通ルート 12-2

第十二話『時には夏休みらしく』 (2)




涼太  「はー、美味かった。たまには外で飯を食うのもいいな」


    まあ、この町じゃ飯を食える店も限られてるんだけど。

    とは言え、ランチならこの喫茶店で充分すぎる。


祭   「そうか、そうか。そりゃ、この祭さんの愛情がこもってるからね」


涼太  「ん? 調理もおまえがやってるのか?」


祭   「んにゃ、普段はやらないけど、客があんたらなら別にいいかと思って」


涼太  「ぞんざいな扱いだな!」


    いや、美味かったから文句はないんだけどさ!


祭   「まあ、私はなんでもやるよ。ウェイトレスから調理、皿洗い、お掃除、帳簿だってつけちゃう!」




渚沙  「ちょ、帳簿? 祭ちゃん、そんなことまでやってるの?」


祭   「んー、簿記3級くらいは持ってるしねー」


渚沙  「え? たまたま勉強ができるんじゃなくて、マジで数字強いの? 何者なの?」


祭   「ちょいと、トガー。あんたの幼なじみ、ナチュラルに失礼だよ」


涼太  「なにが目的で簿記なんてやってるんだ?」


祭   「アズの無礼さは、トガーの悪影響か」


祭   「まあ、私の実家乗っ取り計画の第一段階としては、帳簿の掌握は必須だし」


涼太  「なんか、いつになく具体的な話だな……」


    資格まで取ってるとなると、いつか実家を乗っ取ってやるって話も全然ジョークじゃなくなってくるというか……。


泉実  「こんにちはー」


泉実  「あれ、みんなおそろい? 僕だけハブられてる? もしかして、平和な学園にも目に見えないイジメが?」


    爽やかに微笑みながら言うな。怖いから。


泉実  「ねえねえ、僕っていじめられてるわけ?」


涼太  「おまえ、全然いじめられてるように見えないから」


    むしろ、特に悪くない俺たちが責められてて可哀想だから。


祭   「ズミーは、優しそうな顔して、たまにドSだからなあ。ズミーも[昼餉/ひるげ]?」


泉実  「喫茶店なんだし、せめてランチって言おうよ。ていうか、どんな店でもそんな言葉のチョイス、あり得ない」


祭   「おっと、思わぬところで育ちのよさが出ちゃったよ」


    昼餉……は育ちがいい言葉遣いなのか……?



祭   「えーと、ズミーはアイスコーヒーでいいよね。じゃ、ちょっとお待ちをー」


泉実  「いいんだけど、ナチュラルに人の注文を決めてくれるなあ。よくクビにならないね」


涼太  「問題はあるけど、よく働くからじゃないか? 帳簿もつけられるらしいし」


泉実  「嵐野さんが帳簿……? ダミーとか二重帳簿とか、そういうダーティな単語が浮かぶんだけど……」


涼太  「ま、まさか……」


    というかそもそも、祭は口こそ悪いけど、根が善良だからあんまり悪いことはできないたちだと思う。

    本人に言うと顔真っ赤にして否定してきそうだけど……。


泉実  「ところで、みんなそろって、遊びの相談かな? 夏休みだもんね、補習ばかりじゃ気が滅入るよね」


涼太  「なるほど、それもそうだな……」


祭   「おっと、遊びの相談ならこの祭さんを忘れちゃ困りますぜ、お客さん!」


    祭の奴、アイスコーヒーを取りに行ってたはずなのに、手ぶらで戻ってきたな。


祭   「明日は補習もないし、さっそくってことでどうかな! バイトも休みなんだよ!」


泉実  「いいんじゃない? 思い立ったが吉日って言うしね。みんなの予定さえ合えばいいと思うよ」


涼太  「うん。俺は問題ないな」


渚沙  「あたしも問題はないけど……どこへ行くつもり?」


    アウトドアが苦手な渚沙さんは、お外での遊びを警戒なさっている様子。



星里奈 「渚沙も、まあそう言うな。補習で一番ストレスがたまってるのはおまえだろう」


星里奈 「外で日の光を浴びれば、ストレスもやわらぐというぞ」


陽鞠  「陽鞠なんて浴びまくりで、やわやわですよー」


    それはそれでどうなんだ……?

    いや、渚沙は確かに少し日光浴びたほうがいいとは思うけど。


星里奈 「せっかく、無駄に自然だらけの環境なんだ。キャンプや川遊びを楽しんでくればいい」


渚沙  「まあ……たまにはいいか。自然の中で、冒険もののラノベを楽しむっていうのもありね」


涼太  「渚沙はブレないな……って、ちょっと待て、星里奈」


涼太  「星里奈は、来ないつもりなのか?」


    聞き流しそうになったけど、さっきの言い回しだとそう聞こえるような……。


星里奈 「若い人たちだけで楽しんでくるといい。ああ、小遣いはいるか?」


涼太  「保護者か、おまえは!」


    もちろん小遣いはいらないけど、星里奈は本気で同行しないつもりだな……。


陽鞠  「陽鞠ほどの上級者になると、キャンプや川遊びぐらいじゃ物足りないですねー」


陽鞠  「といっても、あまりハードだとなぎ姉が死すですね」


涼太  「死すって……」


    というか、俺もハードな遊びは勘弁だ。


祭   「まあまあ、参加するかどうかは当日決めてくれたっていいし」


祭   「どこで遊ぶか決めようか。毎日暑いし、やっぱあそこかなー」


    ここらで遊べて涼めるところ……となれば、自ずと場所も決まってくる。


祭   「女子みんながヌレヌレで、トガーとズミーが大喜びだね!」


    とりあえず、祭が話を進めてくれるみたいだ。

    星里奈と陽鞠は……どうするんだろうか。

    この二人は時々家を留守にするだけじゃなくて、やっぱり俺たちと距離……というか、一歩引いた感じが、するんだよな。

    決して仲が悪いわけじゃない。

    一緒にいれば、仲良く雑談くらいは交わすし、気心の知れた気安さというのも、もちろん失われたりはしていない。

    でも時折、“席”を立ち上がろうとしているような、そんな気配みたいなものを、感じてしまう。

    もしかすると、それこそが大人になろうとしている、ってことなのかもしれないけど……。

    だけど、やっぱり……。

    少しだけ――寂しい、かな。







    夏休みのお出かけ第1弾は、話し合いによって“川遊び”ということに相成りました。

    帰宅して、渚沙の部屋で必要なものを調査中。

    俺もPC持ってるけど、渚沙のほうがいいやつ使ってるからな。


涼太  「うん、まあこんなもんか」


涼太  「必要なものは祭が揃えてくれるんだよな。メールしとこう」


渚沙  「祭ちゃん、行動力あるから助かるわね」


渚沙  「ま、川なら近いし涼しいし、インドア派にも優しいわね」


涼太  「……おまえ、そのうち引きこもりになったりしないだろうな?」


    他人に言われるだけでなく、最近は自分でもインドアを自称するようになってきてるし、いつか開き直りそうなのがちょい怖い。


渚沙  「大丈夫よ、あたしはいつか車の免許を取って、遠くの大型書店に[足繁/あししげ]く通う予定だから」


    外出する理由が本屋なのは、なんかブレてなくて凄いな。


涼太  「本屋の、他は……? 人間には衣食住ってものが必要になるんだぞ?」


渚沙  「そんなもの、適当に満たしておけばいいじゃない。人類にとって、書店以上に重要な場所なんて存在しないわ」


    言い切りやがった。なんというか、流石です。


涼太  「とても文化的な生活ですね……」


    あとラノベを愛好するのは大変けっこうなんだけど、他の本を読んだりするのもいいと思うが、どうだろう。

    まあ、今はそんなことはどうでもいいんだけど。


涼太  「……渚沙は、なんだかんだ言って付き合いがいいよな」




渚沙  「リョータや祭ちゃんが強引なのよ。雨夜君も優しい顔してマイペースだし」


涼太  「俺も祭たちのペースに乗せられてる側だぞ。いや、俺や渚沙のことはいいんだけどさ……」


渚沙  「問題はあの二人……ってことね」


    渚沙が、深いため息をつく。


渚沙  「星里奈も陽鞠も、来ないって言うような気がしてたけどね。やっぱりかって感じよ」


涼太  「ここ数年はずっとそんな感じだからなあ」


渚沙  「星里奈には剣道があるし、陽鞠は山登りとかトレーニングとかがあるから、わからなくはないんだけど……」


渚沙  「もっと小さい頃は普通にみんなで遊んでたのにね」


涼太  「まあなあ……」


    今も、俺と渚沙の二人だけだしな。

    星里奈は実家の様子を見てくる、と言ってちょっと前に家を出かけて行った。

    ちなみに俺以外の居候ズはみんな、この町にちゃんと実家もある。

    みんなほとんど実家には戻らない生活をしているが、星里奈は家に道場があるので、ちょこちょこ掃除をしに戻ったりしている。


涼太  「そういや、陽鞠はなにをしてるんだろ? 帰る途中で、いつの間にかいなくなってたけど」


渚沙  「陽鞠の行動なんて誰にもわからないわよ」


涼太  「必要に応じて気配を消せるのも、なんか野生動物っぽいな……」


渚沙  「て、ていうか……」


涼太  「ん?」


渚沙  「あ、あたしとリョータがいつも二人きりだと、付き合ってるみたいじゃない!?」


涼太  「まあ、そんなことは別にいいんだけど」


渚沙  「たまにこいつ、殺したいわ……」


涼太  「お、おお?」


    冗談だっただろうに、なんでまた突然マジの殺意を。

    渚沙さんって時々怖い。


渚沙  「……いいわ。星里奈たちのことは、なんとかするわ」


涼太  「手があるのか?」


渚沙  「ラノベ主人公はいつだって奥の手を持ってるものなのよ」


涼太  「いつから主人公になったんだ、おまえは」


    と言いつつ、俺も奥の手とやらは、だいたい予想がつく。

    ただしそれは――根本的な解決にはならないんだよなあ。

    (to be continued…)