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ポケット・ストーリー

『約束の夏、まほろばの夢』 共通ルート 13-1

第十三話『いざ川遊び!』 (1)




    翌日、午前10時。

    お出かけの準備は万端、既に祭や泉実も出かけたらしい。


渚沙  「はぁ……もう帰りたい」


涼太  「まだ出かけてもいないぞ」


    明らかにテンションが落ちてる奴が、ここに一人。


渚沙  「そろそろ月末よね……月末はラノベの発売日が集中してるのよ……。ああ、買いたい物が多すぎてお小遣いが追いつかない……」


涼太  「現実逃避するなって。別に、慌てて発売日に買うこともないだろ」


涼太  「この辺じゃ、ネットで注文しても発売日には届かないし……」


渚沙  「嫌な現実をつきつけないで! ネットで新刊のネタバレを避けるのがどんなに難しいか知ってるの!?」


涼太  「いや、知らんけど……」


    俺、あんまりネタバレとか気にしないし。

    つーか、発売日前後はネットを見なけりゃいいだけだろうに、それも嫌みたいだな。




渚沙  「ううう、宅配便も遅れるような田舎が憎い……」


渚沙  「だいたい、こんな暑い日に出かけるなんて、身体によくないわ。日焼けは身体に毒なのよ」


渚沙  「あたしは褐色ヒロインも大好物だし、ぺろぺろできるけど、リアルとの線引きは必要だと思うの」


    おいおい、渚沙さんってばおかしなことを言い出したぞ。


歩   「あきらめなさい、渚沙さん。蒼森家の歩お姉さんが行くと言ったら、行くことになるんですよ」


渚沙  「うう……やっぱり鬼軍曹……」


    というわけで、歩さんも同行することになっている。

    歩さんは俺のことをリーダーなんて言うけど、まとめ役と言えばやっぱりこの人だよな。非常に頼りになる。

    歩さんは、渚沙たちの暴走を止められる最終兵器でもあるし。


陽鞠  「ぐぬぬ……川遊びなんて、陽鞠には遊びみたいなものですよ……」


涼太  「おまえはおまえで、なにを言ってるんだ」


    遊びだって言ってるだろ。

    いつも冒険してる陽鞠には、川遊びなんてぬるすぎるのはわかるけど。


歩   「たまには遊びも楽しみなさい。それに、アウトドア慣れしてる陽鞠さんがいると助かります」


陽鞠  「……あー姉にも貸しがつくれますか……それは美味しいかも……」


    こいつも可愛らしいフリして、たまにろくでもないことを考えてるよな……。


星里奈 「すまない、待たせた」


涼太  「お……?」


    こ、これは……。



星里奈 「なんだ、どうした?」


涼太  「せ、星里奈……!?」


渚沙  「わっ、星里奈! どうしたの、その格好!?」


陽鞠  「せり姉、暑さで頭を……?」


星里奈 「おまえら、揃いも揃ってなにを驚いてるんだ。特に、陽鞠」


陽鞠  「あうっ」


    星里奈に睨みつけられて、陽鞠がこそこそと隠れる。


涼太  「いやでも、星里奈の私服姿なんて久しぶりに見たなあ」


星里奈 「なにを大げさな。私だって、私服くらい着る。確かに、少し落ち着かないが……」


    星里奈は家でも制服着てることが多いからなあ。


渚沙  「なんか、お嬢様っぽい……男が想像する夏のお嬢さんって感じ」


歩   「ですが、実際に星里奈さんはお嬢様でしょう」


涼太  「歩さんが言いますか……」


    歩さんこそ、この町で一番のお嬢様だろうに。

    とはいえ、星里奈の一ノ瀬家が蒼森家に次ぐ町の名家なのも事実だ。

    長い黒髪の星里奈に、このお嬢様っぽい服装は意外……と言ったら失礼かもしれないけど、とても似合っていた。

    スカートがかすかな風に揺れて、白い太ももがちらちら見えてるのもいいな……。


星里奈 「……なんだ、涼太。そんなに熱心に見なくても」


涼太  「あ、いや、悪い」




星里奈 「なにを謝ってるんだ。変な奴だな」


    うう……珍しく優しい笑みなんて向けられると、申し訳なくなる。

    ヨコシマなこと考えててごめんなさい……。


陽鞠  「でも、せり姉。なんで、珍しく私服なんです?」


星里奈 「今日は遊びだからな。誰かを斬ることもないから、私服にしただけだ」


涼太  「斬る!?」


星里奈 「誰かを斬るかもしれないときは、正装である制服でいるのが相手へのせめてもの礼儀だろう」


涼太  「そんな心構えだったのか!?」


星里奈 「我が家でも気を抜かないことが大事だ。涼太や渚沙は、時々私に失礼なことを考えてるようだしな」


涼太  「そ、そんなことは……」


渚沙  「ないですよね、リョータ」


    敬語になったことで限りなく嘘くさくなってるけど……。

    星里奈だってツッコミ待ちみたいなボケをかますクセに!

    ツッコミに失礼もクソもないだろ! ないよね!?


星里奈 「なにを真顔で考え込んでるんだ、涼太。冗談だ」


星里奈 「単純に制服が気に入ってるだけだ。予備も数着持ってるしな。風呂上がり用の制服まである」


涼太  「それは念の入ったことで……」


    いったいどこまでが冗談なのかわからんが、ともかく……。


涼太  「ま、まあ要するに星里奈もついてくるんだよな?」


星里奈 「歩さんに来いと言われては断れない。世話になってる身だからな。[主/あるじ]に忠義を尽くすのが武士のつとめ」


涼太  「いつから武士になったんだ、おまえは」


    と言いつつ、渚沙に目線を送る。



渚沙  『というわけで、歩姉さんに頼んで、二人を説得してもらったわ』


涼太  『ああ、そうだろうと思ってた』


    それが、渚沙の奥の手。

    マイペースな星里奈と陽鞠でも、歩さんには逆らえない。

    ちなみに、今渚沙は俺だけに絞って“ひみつでんわ”を使っている……はずだ。


渚沙  『ふふん、褒めてもいいわよ』


涼太  『あー、よくやったよくやった』


渚沙  『なんかおざなりだけど……まあいいわ。以上、通信終わり。アウト』


    渚沙の声が引き上げていく。

    ま、星里奈と陽鞠も特に予定があったわけじゃないだろうし、多少強引に誘っても問題ないだろう。

    せっかくの夏休みなんだから、たまには全員揃ってくれないとな。

    (to be continued…)