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ポケット・ストーリー

『約束の夏、まほろばの夢』 共通ルート 15-1

第十五話『非情な補習』 (1)




    昨日の楽しい川遊びが夢だったかのように、本日は非情な現実が待っていた。

    まあ、ただの補習なんだけど。


陽鞠  「あー、ねむねむです……」


涼太  「こら、フラフラするな。ちゃんとまっすぐ歩け」


陽鞠  「昨日はしゃぎすぎて、まだ回復してないんです……陽鞠、体力ないから……」


涼太  「嘘つけ、俺よりよっぽどあるだろ」


    単に低血圧なだけだよな。


渚沙  「あたしも眠たい……まだ回復してないわね……」


涼太  「おまえは体力ないよな。もうちょっと鍛えたらどうだ?」


渚沙  「リョータだって人のこと言えないくせに……」


渚沙  「鍛えるとか意味わかんない。カロリー消費を抑えれば、限られた地球資源の節約にもなるでしょう」


渚沙  「つまり、あたしは地球を救ってるの」


涼太  「そりゃ壮大なお話だな……」


    運動したくないあまりに屁理屈をこねすぎだろう、こいつは。



渚沙  「毎度のことだけど、星里奈なんて意味わからないわ。昨日の遊びじゃ動き足りないからとか言ってたわね」


涼太  「ああ、言ってたな」


    それで星里奈は一人で早めに家を出て、ジョギングがてら遠回りして登校するらしい。

    この暑いのによくやる……。

    ちなみに、歩さんもなにか用があるらしく、一人で先に出てる。


陽鞠  「うあー……眠い……やはり、寝袋を持ってくるべきでした……」


涼太  「持ってきてどこで寝る気だ、どこで」


    本当に道端でおやすみになりそうなのが、陽鞠の怖いところだ。


涼太  「昨日は散々遊んだからな。ちょっと、頭を切り替えないと」


涼太  「自分でもたまに忘れるけど、一応生徒会長だしな」


渚沙  「…………ああ」


陽鞠  「あー…………」


    こいつらも忘れてたな……。

    一切、生徒の役には立ってないから当然かもしれないけど。


涼太  「…………」


    頭の切り替え、か……。

    そうだなあ、そろそろ先送りにしてきたことにケリをつけるべきなのかも。

    さすがにあいつの旅行も――そろそろ終わりかもしれないし。







陽鞠  「は~あ……補習についていけません……」


涼太  「そりゃ、何日もサボりまくったからだろ」


    休み時間、陽鞠が死んでたので様子を見に来てみればこんなことに。

    神宮のことも気になるけど、こっちも放っておけない。


陽鞠  「お兄さん、陽鞠はもうダメですー!」


陽鞠  「というか、ついていかなくてもいいんじゃないでしょうか? 女の子は学がなくても、素敵な笑顔さえあれば」


涼太  「今は男女平等社会なんでな。あきらめろ」


陽鞠  「くう……なぎ姉が読んでるラノベなら、可愛いだけでチヤホヤされて幸せに生きていけるのに……」


涼太  「おまえまでラノベとリアルを混同するなよ」


    あと、可愛いって。

    そこは否定できないけど、さらっと自分で言うなよ。


陽鞠  「陽鞠は[御山/おやま]という神域に生きる妖精です……妖精になるのです……」


涼太  「リアルを切り捨てるのも禁止。そんなので、おまえは将来どうするつもりなんだ」


陽鞠  「え? 陽鞠は冒険家になりますよ?」


涼太  「えっ? それ、前から言ってたけど冗談じゃないのか」


陽鞠  「嫌ですね、お兄さん。陽鞠が冗談なんて言うわけないじゃないですか」


陽鞠  「存在が冗談みたいなまつりんはともかく」


祭   「そこで私を引き合いに出す必要あるの!?」


    聞いてたのか、祭。


陽鞠  「どうやってなるのかは知りませんけどね。まあ、夢を求めてふわふわしてたら、そのうちなれるのでは」


涼太  「なんてアバウトな。それは……まあ、ホタルにでも調べてもらうか」


    本気だというなら、却下するにしても冒険家とやらがどういう仕事なのか知らないと。

    ていうか、なんで保護者でもない俺が調べなきゃならんのか。


涼太  「どのみち、バカじゃなれないだろ。勉強しといて損はないぞ」


陽鞠  「さすがお兄さん、いつものことながら巧妙に陽鞠を丸め込みます……」


涼太  「本当に人聞きの悪い……」


    普通のこと言ってるだけで、巧妙でもなんでもないし……。


涼太  「うーん、まずは陽鞠の遅れを取り戻すのが先か。また先送りだなあ」


陽鞠  「はい? どうかしたんですか?」


涼太  「いや、ちょっとな……」


渚沙  「リョータ? なによ、あんたが悩んでるなんて珍しいわね」


涼太  「え? 悩みは常にあるが……」


    主に悩ませてくれるのは、うちの幼なじみ連中だけど。


渚沙  「へえ、悩むことなんてあるの? ちょっと意外だわ」


渚沙  「それを聞いて解決してあげれば、リョータの攻略完了……?」


涼太  「おまえはいったいなにを言ってるんだ」


    なんだ、俺の攻略って。



星里奈 「ふむ、しょうがない。今日は走り込みでもしようと思ってたが、予定変更だな」


涼太  「ん? なんだ、星里奈までいきなり」


星里奈 「……視えた。補習が終わって、あの子を捜しに行ってるおまえの姿が」


星里奈 「だいぶ迷ってるみたいだぞ。正直、私もあいつのことは……気になってる」


涼太  「じゃあ……星里奈も手伝ってくれるか? 頼む」


    あの子、というのが神宮りんかのことなのは、直感ですぐにわかったし――

    俺がわかったことを、星里奈もわかってくれてるらしい。


渚沙  「ちょ、ちょっと! なに顔を寄せ合って話してるのよ!」


涼太  「ああ、気にするな」


    それより、俺が神宮を探し回っている未来……か。


渚沙  「さらっとかわさないでよ……ああっ、気になる!」


陽鞠  「ところでなぎ姉、努力せずにチヤホヤされるだけの世界ってどうやったら行けますか」


渚沙  「そんなもん、あたしが訊きたい!」


    こいつら、ダメだ……。

    もう先送りにはしないけど、この幼なじみたちも早くなんとかしないと手遅れになるな。







    というわけで、補習が終わって放課後。


涼太  「補習のあとも放課後っていうのか?」


渚沙  「授業が不定期なだけで、普段とあまり変わらないわ……放課後でいいんじゃない」


    補習でお疲れの渚沙が、どんよりと答える。


陽鞠  「陽鞠、放課後大好きです! 学園生活で一番好きですよ!」


涼太  「放課後も学園生活に含まれるのか……?」


    ああ、疑問は尽きない……。


渚沙  「それで……なんでいきなり神宮さんを捜してるの?」


涼太  「いきなりってことはないけど……」


涼太  「前からいろいろ訊きたいことあったしな。そろそろ、ちゃんと確認しておこうと思って」


    この三人には話してもいいだろう。

    全員、“なぜか神宮には能力が通じる”っていうのも知ってるわけだしな。


渚沙  「まあ……謎の人よね。だいたい、観光とかいうのも嘘なんでしょ?」


渚沙  「地上げの偵察っていうのはありえないとしても、ちょっと普通じゃないわ」


星里奈 「神宮りんかも、私たちに普通じゃないとは言われたくないだろうがな」


星里奈 「とにかく、私としても疑問は解いておきたい」


涼太  「だな。このまま帰られでもしたら、モヤモヤがずっと残ることになるし」


    あいつの連絡先を、さっさと訊いておけばよかった。

    それをうっかり忘れてたのは、神宮と遊ぶのが楽しすぎたせいかな。

    おかげで、こうして原始的な方法で捜すハメになってるんだが。




星里奈 「あっ」


涼太  「え、なんだ?」


星里奈 「また視えた。あれは……神社の階段だったな」


星里奈 「神宮りんかが、神社の境内に行ってる。おそらく、すぐ後だ」


涼太  「すぐ!?」


    星里奈の“みらいよほう”で視える未来はランダムだけど、本人はそれがいつ頃のことか、だいたいわかるらしい。


涼太  「急ぐぞ! そこで取り逃がしたら、もう捕まらないかも!」


星里奈 「そうだな、たぶん全力で走れば間に合うだろう。渚沙の心臓が破れる勢いで」


渚沙  「破れちゃたまらないわ! ああもう、走ればいいんでしょ!」


陽鞠  「陽鞠の能力によると、心臓を破られたくないというのは事実ですね」


渚沙  「そんなもん、能力使わなくてもわかるでしょ!」


涼太  「いいから、行くぞ!」


    しょうもない漫才をしてる場合じゃない。

    せっかくこの四人が揃って、神宮の居場所もわかってるんだ。

    今、神宮を捕まえなきゃいけない気がしてならない――

    (to be continued…)