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ポケット・ストーリー

『約束の夏、まほろばの夢』 共通ルート 17-1

第十七話『待っていた過去』 (1)




    そして、なぜかまた山登り――


渚沙  「な、なんなのよ。山に来るなんて聞いてないわよ……」


渚沙  「あれだけ歩き回ったあとで、また山なんて……なんなの、神宮さん。あたしを[屠/ほふ]るのが目的なの?」


星里奈 「なるほどな、屠るなら山は最適だ。人目につかないし、後始末もやりやすい」


陽鞠  「陽鞠もなぎ姉のお墓参りに来やすいですね」


渚沙  「あんたらね……」


    こいつらはいつも通りだけど、なんだろう……神宮の雰囲気が、いつもとはなにか違う気がする。

    この山に入ってから、神宮は一言もしゃべってないんだよな。

    話しかけにくいからなにも訊けないけど……まだ先は長そうだ。


涼太  「渚沙、キツかったら手くらい貸すぞ」


渚沙  「えっ? い、いいわよ、それなら星里奈に借りるわ!」


星里奈 「私は同性と手を繋ぐ趣味はないんだがな」


渚沙  「あ、あたしも趣味にしてるわけじゃ!」




星里奈 「たまには照れ隠しもやめたほうが新鮮でいいんじゃないか?」


渚沙  「だ、大丈夫! あたしだって田舎育ちなんだから、これくらい大丈夫よ!」


涼太  「…………」


    どのみち、ここで渚沙だけ置いてくわけにもいかないからな。

    遅れたりしないか、気を配っておくとして……。


涼太  「陽鞠、この先はなにがあるんだ?」


陽鞠  「んー……わかりません」


涼太  「わからない? このあたりの山を隈無く歩き回ってる陽鞠が?」


陽鞠  「そうなんですよね……」


陽鞠  「もう、この山の権利書をもらってもいいくらい、自分の庭レベルで隅々まで理解してるんですが……」


涼太  「いや、権利書はどうやってももらえないからな」


陽鞠  「むう、歩き回ってたら既成事実的ななにかができるかと思ってたんですが……」


涼太  「なにを期待してるんだ、なにを」


陽鞠  「そうですか……それはともかく」


陽鞠  「こっち側の道、来たことないんですよね……なんで?」


涼太  「……なんでだろうな」


    俺もこの山に来たのは、一度や二度じゃない。

    陽鞠とは比べものにならないだろうけど、あちこち歩き回ってる。

    でも、たぶん――神宮は俺が知らないところへ行こうとしてる。

    なんで、神宮が地元の俺たちも知らないところへ迷いなく行けるのか。

    なんだか……心臓がドキドキ鳴り出したけど、山登りで息が上がってるから、じゃないんだろうな。







    さらにしばらく歩いて――

    神宮は、ぴたりと足を止めた。


りんか 「ここだ……間違いない、ここだよ」


涼太  「…………」


    小さい山小屋だな……。

    こういう小屋は、ここだけじゃなくて山にはいくつかあったはず。

    ここに来たのは初めてでも、別に珍しいものでもなんでもない。

    なのに――


渚沙  「なに、ここ……?」


星里奈 「……私は冷静なタイプなんだが、昨日から巫女だの小屋だの、戸惑うことばかりだな」


涼太  「冷静なタイプとか、自分で言うことか……?」


    いや、そんなことは今はどうでもよくて――


涼太  「陽鞠は、どうだ?」




陽鞠  「んー……心臓がドキドキしてます。本当ですよ。確かめますか?」


涼太  「遠慮しとく」


    ナチュラルに胸に触らせようとするなよ。

    それにしても……みんなも、そうなんだな。

    なんの変哲もない山小屋なのに、なぜか見てるだけで心臓が高鳴ってくる。


渚沙  「おかしいわ……」


渚沙  「あたし、山小屋に興奮する性癖があったの……?」


涼太  「あるか、そんなもん!」


    どれだけレベル高い変態なんだよ!

    渚沙さん、斜め上の発想をしすぎです。


涼太  「いったい、なんなんだここは……」


りんか 「秘密基地だよ」


涼太  「秘密基地……?」


    それは、確かに……そういう感じにも見えなくない。

    俺も数年前なら大喜びで中に入って、おもちゃだの宝物だのを運び込んだかも。

    もちろん、今はそんなことはしないけど……。


涼太  「って、おい、入るのか!?」


りんか 「うん、入るよ」


りんか 「だってここは――わたしたちの秘密基地なんだから」




    (to be continued…)