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ポケット・ストーリー

『約束の夏、まほろばの夢』 共通ルート 18-1

第十八話『みんなの願い』 (1)




    翌日。

    蒼森家の朝食――


歩   「私の料理、不味いですか?」


涼太  「ええっ!?」


涼太  「そ、そんなことないっすよ。歩さんの料理はいつも美味いです!」


歩   「そうですか、それならよかった。ちなみに」


歩   「私自身もなかなか美味しいですよ?」


涼太  「どういう意味っすか!」


    わかるけど、わかりたくない!


歩   「いえ、今朝はみなさん、ずいぶんお静かなので」


涼太  「あー、そういう日もあるってことで……だよな?」


星里奈 「問題ない。美味い」


陽鞠  「豆の缶詰をはるかに超える味です。美味しい」


渚沙  「この美味しいご飯を一生食べられるなんて嬉しいわ……」


    歩さんも、俺たちの面倒を一生見る気はないだろうが……。


歩   「……やはり、どこかおかしいですね、みなさん」


    歩さんも、俺たちの面倒を一生見る気はないだろうが。

    まあ、そりゃおかしくもなるよなあ。

    昨日、あんなことがあったんだから……。







    朝食後。


涼太  「えーと、これとこれ……ああ、この教科書はいらないか」


    なんか、自分でもわかるほど手際が悪い。

    今日の補習の準備をしてるだけなのに。

    頭がまるで回ってなくて、当たり前にできることができない。


涼太  「うーん…………」


渚沙  「ちょっと、リョータ。なにを唸ってるのよ?」


涼太  「うおっ」


    いつの間にか、渚沙がいた。


涼太  「おまえ、せめてノックくらいしてから……」


渚沙  「ノックはしたわよ、何度も。なのに、返事ないから」


涼太  「あ、ああ。そうなのか。悪かったな」


    うわあ、まったく気づきもしなかった……。


渚沙  「……やっぱり、気になってる?」


涼太  「まあな……」


    一瞬、俺も渚沙も黙り込んで――


涼太  「気がついたら、昔なにがあったか思い出そうとしちゃってるな」




渚沙  「リョータもそうなのね……」


    ということは、渚沙も俺と同じってことだな。


涼太  「思い出したのはりんかの――神宮のことだけで、それもほんの少しだけなんだよな」


渚沙  「あたしだって同じよ。中途半端にちょっとだけ思い出したから、余計にモヤモヤするわ……」


渚沙  「もうっ、普段使わない頭を使わせないでほしいわ!」


涼太  「いや、それは使うようにしろよ」


    偉そうになにを言ってるんだ、我が幼なじみ。


渚沙  「努力はしてるわ。それで……リョータはなにか思い出せた?」


涼太  「いや、全然……」


    なにかが喉まで出かかってる気はするんだけどな……。


涼太  「俺たちがあの秘密基地にいたことと、あとは――神宮をりんかって呼んでたことくらいか」


渚沙  「そこも、あたしと同じね……たぶん、星里奈や陽鞠も変わらないんじゃないかしら」


涼太  「ああ、あいつらも朝飯のとき、おかしかったもんなあ」


    俺や渚沙と同じく、モヤモヤしてる感じだった。

    どんな感じかと言われたら答えられないけど、なんとなくそう思う。

    少しばかり疎遠になっているといっても、幼なじみなんだから、勘だけでわかることもある。


渚沙  「まあ、気になるに決まってるわよね。変な幻みたいなのも見えたし……」


渚沙  「神宮さん――いえ、りんかでいいわよね。昔は、そう呼んでたのは間違いないんだから」


涼太  「……そうだな」


    まず、そこから始めてみるか。

    昔の呼び方で、あいつを呼んで――

    もっと、りんかのことを思い出せればいいんだけど。







    いつまでも渚沙とだけ話していても仕方ない。

    とりあえず、渚沙と外に出てみたら、もうみんな揃ってた。


星里奈 「遅いぞ、涼太、渚沙」


陽鞠  「陽鞠より遅いのはダメですね。困ったお兄さんとお姉さんです」


涼太  「……悪い」


    やはり、星里奈と陽鞠もどこか歯切れが悪い。

    ううーん…………。

    今日は――確か、小テストをやる科目もあったっけ。

    サボるのはまずい……でも、このまま登校していていいのか……。


歩   「涼太さん、スマホ出してください」


涼太  「はい? スマホ?」


涼太  「ん? メールか……って、歩さんが出したの?」


歩   「私のちょっぴりエッチな自撮り写真です」


涼太  「マジで!?」


    スマホを取り出してメールを確認――


涼太  「って、なにをさせるんだ、なにを! 違うでしょ!」


    俺のキャラが崩壊しちゃうような嘘をつかないでほしい。

    届いたメールには、添付ファイルもないし。


涼太  「んん……? これ、なんの住所っすか……?」


    この名前……旅館の名前か……?



歩   「隣町にある旅館の住所です」


歩   「いい旅館ですよ。ご主人がお人好しすぎて、お金のないお客さんは格安で泊めちゃうので、儲かってないそうですが」


渚沙  「歩姉さん、もしかしてそれ、りんかが泊まってる旅館なの!?」


    そういうことか。

    りんかはずいぶん長く滞在してるけど、そういう旅館で安く泊めてもらってたのか。


涼太  「あれ? でも……なんで歩さんが知ってるの?」


歩   「当然じゃありませんか。うちの可愛い弟や妹に近づいてる人がいるんです」


歩   「居場所くらいはとっくに掴んでますよ」


涼太  「怖っ!」


星里奈 「……私が優しく見えてくる。まだまだ、歩さんの領域には及ばない……」


涼太  「及ばなくていいって!」


渚沙  「というか、それなら教えておいてくれれば……昨日慌てて捜し回らなくてもよかったような……」


    渚沙ががっくりしてる。

    そりゃそうだよな、旅館で待ち伏せでもすれば済んだことだったんだし。


歩   「個人情報ですからね。勝手に教えるのもなんですから、とりあえず黙っていたんです」


歩   「ですが……あなたたちには必要なんでしょう? あの子の連絡先が」


涼太  「そ、そうだけど……」


歩   「よかった、全然違っていたらどうしようかと思いましたよ」


歩   「みなさんが悩んでいるのは、あの子となにかあったからなんでしょう?」


陽鞠  「でも、あー姉。どうして陽鞠たちが、お姉さん――りんちゃんのことで考え込んでるってわかったんですか?」


    陽鞠がみんなの疑問を代弁する。


歩   「この町で起きてることは、蒼森家の耳に入ることになってるんですよ」


歩   「ま、何日も昼間からうろうろしてる女の子のことですから、情報が入りやすいんですけど」


歩   「あなたたちが、あの神宮りんかって子と会ってたのは知ってますよ」


涼太  「本当に怖いなあ……でも、助かった」


    実は、昨日から何度かりんかに連絡してるんだけど、電話は出ないし、メッセージも既読すらつかない。

    もし出かけてるとしても、帰ってくる場所がわかってるなら――

    そこに行ってみるしかないよな。







    ひとまず、駅前まで出てきた――けど。


涼太  「忘れてた、うちの電車の本数は1時間に1本だっけ……」


    隣町への電車が来るのは、しばらくあとだ……。


渚沙  「くうっ、これだから田舎は! いえ、静かなのはいいけど、もっと便利になってほしい!」


涼太  「そんなに都合よくいくか」


    便利になってほしいのは同意だけどな。

    特に、こんな風にいざというときに身動きできないのは困る……。


星里奈 「祭の自転車でも借りてくるか? 私か陽鞠が行って、神宮りんかの――りんの身柄を押さえればいい」


渚沙  「まるでなにかの犯人みたいね……」


    まあ星里奈の言い方はともかく、りんかを捜し出す必要があるのは確かだ。

    そういえば、星里奈も――それにさっき陽鞠も、りんかの呼び方が変わってたな。

    二人も、思い出した過去を事実と認めたってことか。


陽鞠  「あのー、とりあえず旅館に連絡してりんちゃんを呼んでもらえばいいんじゃ?」


涼太  「俺たちから連絡が来たって聞けば逃げるかも。いるかどうかだけ確認させてくれ――なんて言ってもなあ」


星里奈 「怪しすぎるな。そもそも、りんは怪しいだろうが」


陽鞠  「夏休み前日から何日も泊まってる客は、怪しいなんてものじゃないですね」


陽鞠  「山に泊まればいいのに。山の宿泊料金はタダですよ」


涼太  「何日も山で寝泊まりできる女の子は、おまえくらいだよ」


    最悪、イノシシと相部屋になるしな。


涼太  「ああ、そうだ」


涼太  「まだ朝だ。りんかが出かけてない可能性は高い。ここで待ってれば、あいつが来るんじゃないか?」


星里奈 「さて、昨日の今日でりんが来るかな。最悪の場合、昨日で旅館を引き払ってる可能性も……」


涼太  「現実的だなあ……」


涼太  「とにかく、電車を待とう。それから――」




りんか 「ぎゃーーーーーーーーっ! なんでいるのっ!?」


    なんだ、いきなり駅舎からりんかが出てきたぞ……!

    今、電車が来たんじゃないから、駅の中にいたのか――って、それはいい。


涼太  「陽鞠、行けっ!」


陽鞠  「はいっ、お兄さん!」


    だだだっ、と陽鞠が駆けていって、りんかを捕まえる。

    さすが野生児、瞬発力が違う。


りんか 「ぎゃー、ひまちゃん離して! わたしは無実だよ!」


りんか 「……あ、違う。いていいんだった」


陽鞠  「え?」


りんか 「離して大丈夫だよ、ひまちゃん。本当に逃げないから」


陽鞠  「……嘘じゃないですね」


    ぱっ、と陽鞠がりんかを解放する。


りんか 「当たり前だよ。だってわたし――みんなに会いに来たんだから」


りんか 「いきなり会うとは思わなかったから、びっくりしちゃった。おほほ、はしたない」


渚沙  「キャラが違うわよ、キャラが」


涼太  「動揺してるんだろ。それはいいとして……」


    ちらり、と俺は視線を下に向ける。

    りんかがやたらとでかい荷物を横に置いてるのが、凄く気になる……。

    (to be continued…)