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ポケット・ストーリー

『約束の夏、まほろばの夢』 共通ルート 18-2

第十八話『みんなの願い』 (2)




    駅前で騒いでると、いくら寂れた田舎町でも目立ってしまう――

    ということで、また神社へとやって来た。

    ある意味、駅前以上に騒いじゃいけない場所だけど、神様にはちょっと目をつぶってもらおう。


星里奈 「それで、その荷物はなんなんだ?」


りんか 「いきなりだね、せりちゃん。せりちゃんって呼んでいい?」


星里奈 「好きにしていい。涼太たちのことも」


涼太  「おーい」


    勝手に代弁しないでほしい……けど、まあいいか。

    渚沙たちも文句はなさそうで、黙ってる。




りんか 「ありがと。えーと、この荷物のことだっけ」


りんか 「もちろん、旅館を引き払ってきたんだよ」


渚沙  「ええっ、引き払ったってことは……!?」


りんか 「泊まってた旅館、ご主人がいい人すぎて。もの凄い安さで泊めてくれてたんだよね」


涼太  「そういう旅館らしいな」


りんか 「わたし、そんなにお金持ってなかったから、凄く助かったんだけど……」


りんか 「でも、いつまでもそんなことしてたら商売上がったりだよね」


涼太  「そこは別に好意に甘えておいても……」


りんか 「実は、それも無理だったりして……もうこれ以上泊まったら、帰りの電車賃もなくなっちゃうんだよ」


りんか 「もともと、お姉ちゃんに無理を言って出てきたから。今さら、旅費とか宿泊費を送って、なんておねだりはできないし」


陽鞠  「じゃあ、りんちゃん帰っちゃうんですか……?」


    陽鞠の率直な質問に――りんかは、こくりと頷いた。


りんか 「これも本当だよ。昨日のことがあったから逃げるんじゃない。ひまちゃんなら、わかるよね?」




陽鞠  「……陽鞠も、いつも嘘を見抜いてるわけじゃないです」


陽鞠  「見抜こうと思えばいつでも見抜けますけど……そんなことしてたら疲れますし、面倒くさいですし……だから、やってないです」


りんか 「ああ、そうなんだ。それは――まだ思い出してなかったよ」


涼太  「…………」


    そうか、りんかもそうなのか。


りんか 「結局、時間切れになっちゃった。まだ全部わかってないのに。モヤモヤしちゃうなあ」


渚沙  「ちょっと待って、それはこっちも一緒なんだけど」


渚沙  「えーと、えーと……お金がないなら皿洗いとかすればいいんじゃ……?」


りんか 「あー、思い出してないけど、なぎのポンコツっぷりはなんかなつかしさを感じるなあ」


渚沙  「ポンコツ!?」


星里奈 「ポンコツなのはどうでもいい。だが、ここで帰られると私たちとしても……」


りんか 「実は迷ったんだけどね。でも、リョー君たちにはお世話になったし」


りんか 「最後に挨拶しておこうと思って。来てみました」


涼太  「来てみました、じゃなくて」


りんか 「モヤモヤするのはわかるよ。わたしもそうだし……」


涼太  「ああ……」


    そう、俺たちは全部を思い出したわけじゃない。


涼太  「俺たちが思い出したのは――昔、あの秘密基地で遊んでた頃、俺たちの仲間にりんかがいたってことだけだ」


りんか 「わたしもたいして変わらないよ。昔、あそこにいて、あそこにタイムカプセルを埋めたってことだけ」


りんか 「町に見覚えがあったのも、ここに住んでたんなら当たり前のことだよね」


りんか 「そこの謎だけは解けたかな」


涼太  「……いや、おかしくないか。おまえ、自分が記憶喪失だって気づいてたのか?」


    りんかが昔、この町に住んでいて、そのことを忘れてるとしたら。

    忘れてることに違和感がないっていうのは、おかしいだろう。

    自分の過去に空白があるんだから。


りんか 「うーん、わたしの能力なのかなんなのか……全然違和感なかったんだよね……」


りんか 「昔、一度引っ越してたことはわかってたんだけど。その前に住んでたところがどこかなんて、気にしたこともなかったよ」


星里奈 「こういうのもマイペースというのか……?」




渚沙  「そういえば、りんかって理解不能なキャラだったような気がするわ……」


陽鞠  「理解可能なキャラなんて、陽鞠の周りには特にいませんが」


涼太  「おまえが言うな、おまえが……」


    陽鞠は特に理解しづらいキャラの一人だ。


りんか 「確かにまだわからないことだらけなんだけど」


りんか 「でも、一つだけでも答えは出たから。みんなは友達で、わたしは昔、ここにいた」


りんか 「ひょっとしたら、家族に訊けば他にも答えが見つかるかもしれないし」


りんか 「どっちみち、もうリミット突破だから。帰る以外にないんだよね」


涼太  「…………」


渚沙  「そう、だろうけど……」


    これ以上は滞在費を出せないってなると……。


りんか 「それにこれ以上、わたしがここにいたら余計にリョー君たちを困らせちゃうかもしれないよ」


りんか 「もう、リョー君たちを困らせたくないよ」


涼太  「りんか……」


    確かに、俺たちも困惑してる。

    でもたぶん、りんかは俺たち以上に困惑してるんじゃないか?

    自分が何者だったのか――この町での自分の過去が気になってるんじゃないのか?


渚沙  『リョータ、星里奈、陽鞠』


    “ひみつでんわ”――もちろん、渚沙がなにを話したいのか、わかってる。


涼太  『……まずは俺から。俺は、ここでりんかを帰したくない』


渚沙  『そうね。こんな打ち切りラノベみたいな終わり方、冗談じゃないわ』


陽鞠  『まだ一合目って感じです。引き返すには早すぎます』




星里奈 『[初太刀/しょだち]は大事だが、続く二の太刀、三の太刀も同じくらい大事だ』


星里奈 『ここで終わりにはできない。少なくとも、私はそれじゃ納得できない』


陽鞠  『……りんちゃんが何者なのかも、全部わかったわけじゃないです』


渚沙  『このまま帰られたら、気になるどころじゃないわね』


涼太  『全員一致、だな……』


    俺は、渚沙たちに頷いてみせる。


涼太  「りんか」


りんか 「はい?」


涼太  「まだ帰らないでくれ」


りんか 「え? か、帰らないでくれなんて言われても……」


りんか 「お金がないのは本当なんだってば。ま、まさか野宿しろっていうの!?」


陽鞠  「陽鞠、1年の10分の1くらいはお外で寝てますよ」


涼太  「おまえは特殊なんだって!」


涼太  「――野宿なんて言わない。居候の身でアレだけど、歩さんに頼んでみる。おまえを泊めてもらえるように」


りんか 「うわ、思いっきり他力本願だね」


涼太  「手段なんか選んでられるか。こちとらまだまだ未熟なガキなんだから!」


りんか 「そ、そんな偉そうに言われても……」


星里奈 「りんは知らないだろうが、涼太はそんなに頼れる男に成長してないんだ」


涼太  「ほっとけ! でも、なんとしても頼み込んでみるから!」


    そりゃ、自分で稼いだ金でなんとかできればいいけどさ。

    実際、それが無理な以上、可能な手段を執るしかない。


涼太  「もし歩さんの家がダメなら、みんなであの秘密基地に泊まり込んでもいい!」


渚沙  「えっ!?」


渚沙  「そ、そうね……いいわ、あたしだってそれくらい……LEDライトでもラノベは読めるし!」


    おお、このお家大好き、重度のインドア派の渚沙までOKしてくれるとは。


星里奈 「私も異論はない。恐ろしいが、歩さんと戦ってでもあの人に受け入れてもらう」


陽鞠  「大丈夫、最後の手段もあります。このお空の下のすべてが、お家になりますから……」


涼太  「……少なくとも俺よりは頼りになるな、渚沙たちは」


りんか 「……で、でも……そんなことしてもらうわけには……」


    ええい、遠慮なんてまだるっこしい!


涼太  「俺が訊きたいのは一つ!」




涼太  「りんか、おまえは――帰りたいのか、まだここに残りたいのか!」


りんか 「…………っ!」


りんか 「そ、それは……それは……」


    りんかは、迷っている。

    もちろん、素直に感情のままに動くっていうのが難しいことくらいわかってる。

    けど、今だけは――


涼太  「落ち着け。落ち着いて……本当の気持ちを聞かせてくれ」





    “こころえのぐ”。





    感情の操作は最小限に、とにかく――りんかの心を落ち着かせる。

    落ち着いて――勢いに乗るんじゃなくて、冷静に本当の気持ちを話してほしい。


りんか 「あ……」


りんか 「そうか、これ……リョー君の……」


涼太  「余計な世話だったかな。でも……」


りんか 「うん、わかってる。大丈夫だよ、リョー君……」


    りんかは、すうっと大きく息を吸い込んで。

    それから――


りんか 「わたしは、わたしの本当の気持ちは……」


りんか 「この町に来て、戻ってきて、みんなと会って……少しだけ大事なものを取り戻して」


りんか 「今のわたしに出せる答えは、たった一つ――」


    まっすぐ俺に視線を向けてきて。


りんか 「まだここにいたい! ここで――もっとみんなといたい!」


    りんかの必死な声が、身体中に響いてくる。

    たぶん、心にも。

    たぶん、みんなの身体と心にも。


涼太  「それなら……決まりだな」


渚沙  「うん」


星里奈 「ああ」


陽鞠  「はいっ」


    りんかの本心からの答えが聞けたなら、それで充分だ。

    俺たちは、りんかの願いを叶えるためにできることをやろう。

    大丈夫、きっとなんとかなる。

    まだまだ時間はある――

    だって、夏はまだ始まったばかりなんだからな。

    (to be continued…)