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ポケット・ストーリー

『約束の夏、まほろばの夢』 渚沙ルート 1-1

第一話『三つの初恋』 (1)




    ……あれ?

    これは……なに?


渚沙  「星里奈と陽鞠は今日、なにして遊ぶー?」


星里奈 「私は今日も道場で稽古だ」


陽鞠  「はい! 陽鞠、山がいいですっ!」


    夢……なのかしら。

    小っちゃいあたしと、星里奈と、陽鞠がいる……。


渚沙  「二人とも、そればっかりねぇ。……リョータは?」


    ううん、違う。……これ、[昔の記憶/・・・・]だ。


渚沙  「あれ? リョータ……?」


星里奈 「そう言えば、りんもいない……」


陽鞠  「陽鞠たち三人で、先に来ちゃったんでしょうか」


渚沙  「あたし、探してくる!」


星里奈 「放っておいて、いいんじゃないか? もうすぐ別れ道だぞ」


渚沙  「ううんっ、ちょっと話したいことあったからっ」


    小さいあたしは、そう言って元来きた道を駆け出した。







渚沙  「……はぁ……はぁ。もうっ、いつもの道で、いったいどこではぐれたって言うのよっ、あのバカッ」


    小さいあたしは、通学路を逆走しながら、すぐ近くにいるはずのリョータへ“ひみつでんわ”で話しかけた。


渚沙  『ちょっと! リョータ!? 近くにいるんでしょ!?』


涼太  『…………』


渚沙  『リョータ!? なに無視してるのよっ! ていうか、あんた今どこにっ』


涼太  『…………』


渚沙  『ちょっと!? さっきからなに無視して……。…………リョータ?』


涼太  『…………』


    小さなあたしは、声がリョータに届いている感覚があるのに、一向に反応を示さないリョータを怪訝に思って足を止めた。

    そしてすぐに、自分の声がなぜ彼に届かなかったのかを知る。



    小さなあたしの視線の先には、小さなリョータと、そして、そのリョータが熱心に語り掛ける小さなりんかの姿があった。


涼太  「り、りんか……。その、明日のお祭りなんだけどさ、おれと……一緒に行かないか?」


涼太  「その……み、みんなとじゃなくて……二人で」


    小さなリョータは、頬を上気させながら、真剣極まりない表情で、小さなりんかに話しかけていた。

    その、余りにも一生懸命に恋をする男の子の表情に、今のあたしの心まで、ズキンと痛んだ。


りんか 「う、うん。……わたしも、ね。リョー君とお祭り、行きたい」


涼太  「ほ、ほんとか!?」


りんか 「で、でもね? わたし、お父さんに神社のお祭り、お手伝いしなさいって……言われてるの」


涼太  「そ、そうなんだ……」


涼太  「で、でも! だったら、おれも一緒に手伝う!」


涼太  「だからさ、お手伝い終わったら、一緒にお祭り回ろうよ!」


りんか 「わぁ……。う、うん! いいよ!」


りんか 「えへへ。リョー君、優しいね……。ありがとう」


涼太  「そ、そんなこと……ないよ。別に、こんなの、たいしたことじゃねーしっ!」


りんか 「そっか……うへへ。あのね、リョー君……」


りんか 「手……繋いでも、いい?」


涼太  「え!? 手を!?」


りんか 「う、ううん! 嫌ならっ、い、いいのっ!」


涼太  「そんな! …………い、嫌なんかじゃ、ない、けど」


りんか 「ほんと!? それなら……繋ぐ、ね?」


涼太  「う、うん」


りんか 「ぎゅっ……えへへへへ。リョー君と、初めて手、繋いじゃった」


涼太  「うっ。…………ううぅ」


    小さいリョータは、恥ずかしいけど嬉しくて仕方がない、という表情でりんかと手を繋いでいた。

    そして、小さなあたしは、それを二人の進む道の先で、呆然と立ち尽くして、見ているしかなかった。


涼太  「げっ!? 渚沙!?」


りんか 「あっ……」


    小さいリョータは、あたしの存在に気が付くと、ぱっと小さいりんかと繋いでいた手を離してしまった。


渚沙  「ちょっと! あんた、りんかになにしてるのよっ!」


涼太  「ちっ。なんにもしてねーよっ! ていうか、なんの用だよ」


    小さなあたしは、その後も機嫌も態度も悪いリョータに食ってかかっていった。

    でも小さなあたしも気付いていた。そのときの自分が、ただのお邪魔虫だっていうことに。

    だけど、気付かなかった振りをして、リョータとりんかに接した。……そうすることしか、できなかった。

    だってそのときにはもう、

    あたしはリョータのことが、大好きだったんだから……。

    (to be continued…)