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ポケット・ストーリー

『約束の夏、まほろばの夢』 渚沙ルート 1-4

第一話『三つの初恋』 (4)




    そこにいたのは、あたしが昨晩見た小さなあたしたちよりも、更にいくらか幼いあたしたちの姿だった。


おばさん「おや、いらっしゃい。偉いねぇ、三人で買い物に来たのかい?」


渚沙  「うん! 偉いでしょ」


りんか 「わたしたちね、三人とも、なくなっちゃったクレヨンを買いにきたの」


涼太  「おばさん、お金もちゃんと持ってきたよ!」


おばさん「そうかいそうかい。それで、みんなはどの色がなくなっちゃったんだい?」


渚沙  「あたしはね、赤色!」


りんか 「黄色と、茶色と、緑色!」


涼太  「おれも、黄色と茶色と緑色!」


渚沙  「……え?」


おばさん「おやおや、二人は三色とも一緒かい? 気が合うんだねぇ」


りんか 「うん! わたしとリョー君はね、いっつもそうなんだよ!」


涼太  「見てるテレビも一緒だから、話してても面白いよな」


りんか 「でもねー、食べたいお菓子も一緒だから、おやつの時間になるといっつもケンカになる……」


おばさん「そうかいそうかい。でもそれも、仲良しの証拠だねぇ」


りんか 「うん!!」


おばさん「おっと、クレヨンだったね。すぐ持ってくるよ」


渚沙  「ま、まって!」


渚沙  「あ、あたしも黄色と茶色と緑色がいい!」


涼太  「え……。でも、渚沙。1本分のお金しか、持ってないだろ?」


渚沙  「うっ……そ、そうだけど」


涼太  「お金がなかったら、お店で買い物はできないんだぞ」


渚沙  「そ、そんなこと……言ったって……」


渚沙  「うぅ……やだっ。赤色、いらない!」


涼太  「こら、渚沙。わがまま言うな!」


渚沙  「やーだーっ! あたしも一緒……二人と一緒がいーいー!!」


おばさん「おやおや、ごめんねぇ。あたしが余計なこと、言っちゃったばっかりに……」







渚沙  「はあ……また、なの?」


    お風呂に入っている最中に、頭が少しズキンと痛んだと思ったら、またりんかとの記憶を思い出していた。

    りんかとの記憶……正確には、りんかとリョータと、あたしの記憶だ。

    今日は休みだったはずなのに、それらの記憶のせいでいつも以上に疲れてしまった。


渚沙  「……なにやってんだろ、あたし」


    今日も、涼太とりんかのことが気になって勝手について行って、勝手にヤキモキして勝手に疲れ果てて……。

    なんだかバカみたいだ。


渚沙  「まさに独り相撲! まるでピエロね」


    虚しい……。でも、あの二人のことが気になって仕方なかった。

    二人が一緒にいて、いつ記憶を取り戻すんじゃないかって……。

    あたしもまだ記憶をすべて思い出したわけじゃない。

    でも、あの二人がまだ思い出していないことを、たぶんあたしは思い出してる。


渚沙  「昔、あの二人は両想いだった、のよね……」


    ただ、幼かったから……。だから、告白とか、恋人とか、そういうことにはなっていなかっただけ。

    そして、なぜかあたしたちはりんかのことを忘れてしまった。

    リョータはきっと、りんかへの想いも一緒に……。



渚沙  「どうしてあたしだけ、こんなこと思い出しちゃったんだろ……」


    どうやら、あの二人はまだ自分たちの気持ちを思い出してはいないみたいだ。

    でも、それもきっと、時間の問題という気がする。遠くないいつか、二人は自分の気持ちを思い出す。

    そのとき、二人はどうするんだろう……。


渚沙  「あーもう、普段使わない頭をよけいなことに使わせないで欲しいわ!」


    でもよく考えれば、二人がお互いを好きだったのは子供のころの話だ。それからずいぶん時間が経ってる。

    だから……。


渚沙  「仮に昔のことを思い出したとしても、今もお互いに好きかどうかはわからない、わよね……?」


    初恋なんて、そんなに長く続くものじゃない。子供の気持ちなんてそんなものだ。


渚沙  「……じゃあ、初恋こじらせてるあたしはなんなのよ……」


    自分でもわかってる。あたしはただ、自分の都合のいいように思いたいだけ……。


渚沙  「で、でもっ、二人はずっと会ってなかったわけだし。同窓会で初恋の人に会う……みたいな感じ、かも?」


    それがどんな感じか、あたしにはわからないけど……。


渚沙  「……ううん、やっぱ違う」


    今日一日あの二人を見ていたら、それがあたしのただの願望なんだってことははっきりわかる。

    お互い好きだったことも忘れているのに、どこかで覚えてるんだろうか?


渚沙  「あたしなんて……ずっとそばでリョータのことを見てきたんだから」


    ずっとずっと。りんかのいない間もずっと。リョータの、誰よりもそばで。

    “リョータを誰にも取られたくない”

    ふと、そんな思いが込み上げてきて、あたしは苦しくなった。


渚沙  「あー、違う違う! そんなことが考えたいんじゃないのっ!」




渚沙  「うう~。ラノベの神様、仏様、女神様……。どうかあたしに力を貸してください……」


    取るとか、取られるとか、本当はそんな話じゃないんだ。

    ラノベのヒロインたちは、自分の気持ちに真摯に向き合ったからこそ、ヒーローと結ばれて幸せになったはずだ。


渚沙  「リョータ……好き」


    今まで言いたくても言えなかったことを、そっと口にしてみる。


渚沙  「……あっ」


    たったそれだけで、胸が温かくなって、でも同時に転げまわりたいくらいに切なさがこみあげてきた。


渚沙  「好き……」




渚沙  「好きだよ、リョータ」


渚沙  「好きなの……っ」


    この言葉を彼に届けられたら、どれだけ幸せだろうか。

    もしその気持ちを受け入れてもらえた日には……。


渚沙  「受け入れて、もらいたいよ……」


渚沙  「……なんとか、しなくちゃ」


    だったら、あたしが行動しないと。

    子供の頃からずっと変えたくて変えられずにいたリョータとの関係を、今こそ変えるんだ……。

    あたしが……!

    (to be continued…)