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ポケット・ストーリー

『約束の夏、まほろばの夢』 渚沙ルート 2-2

第二話『初恋の解き方』 (2)




渚沙  「お風呂上がったよー」


    わたしがお風呂からあがると、居間には歩姉さんしかいなかった。


歩   「渚沙さん、温まれましたか?」


渚沙  「うん。お先です。……歩姉さんだけ?」


歩   「ええ。みなさん、お部屋にいるみたいですよ」


渚沙  「あ、そうなんだ」


    なんとなくホッとしてしまう。

    りんかとリョータが一緒にいるところを見ると、どうしても胸がザワザワしてしまうから……。


歩   「渚沙さん、麦茶飲みます?」


渚沙  「あ、うん。飲む」


    歩さんが、冷蔵庫から麦茶を持ってきて、コップに注いでくれた。


歩   「どうぞ」


渚沙  「ありがとう」


    受け取ったそれを一息で飲み干す。お風呂上がりの身体に、麦茶が染み渡っていくみたいだ。


歩   「あら、いい飲みっぷり」


渚沙  「喉渇いてたから。……麦茶って、なんか懐かしい味がするよね」


歩   「いつでもたっぷり作り置きしておきますから、水分補給は小まめにしてくださいね」


渚沙  「いつもいつも、ありがとうございます」


歩   「いえいえ」


歩   「……少しは落ち着けましたか?」


渚沙  「え゛……。ど、どうして?」


歩   「ずっとそわそわしているようでしたから」


渚沙  「そ、そうかな……?」


    そう言えば、歩姉さんってあたしたちのこと、どれくらい知ってるんだろう。

    あたしがリョータのこと好きなのは隠し通せてると思うけど……。

    りんかが実はあたしたちの昔馴染みだってこと、歩姉さんって気づいているのかしら?


歩   「りんかさんが、気になりますか?」


渚沙  「え゛。そ、それは、どういう意味で……?」


    なんだか見透かされているような気がして、あたしはギクッとしてしまった。


歩   「私はみんなの味方ですが、渚沙さんが一歩踏み出せないでいるのなら、応援したいと思っていますよ」


    そ、それって……。



歩   「涼太さんのことが好きなら、自分からアクションを起こすしかありません」


    バ、バレてるー!?

    ま、まさかあたしの完璧なポーカーフェイスを見抜くなんて、歩姉さんってやっぱりただ者じゃないわね……。


渚沙  「うぅ……。歩姉さんにはバレてたのね。その、い、いつから……?」


歩   「ふふふ。秘密です」


    歩姉さん、謎の多い大人の女って感じ。

    あたしと一つしか違わないなんて、信じられない。


歩   「そんなことより、渚沙さんがこれからどうするかの方が重要なんじゃないですか?」


渚沙  「そ、そうだけど……。がんばりたくても、あたしなにをすればいいのかわかんないよ……」


歩   「そうですね……」


歩   「男の子は突然女の子がぐいぐいくると、及び腰になってしまう場合がありますから……」


歩   「やり方は、考えなくてはいけないかもしれません」


渚沙  「そ、そうなんだ……。さすが歩姉さん」


    あたしはあんまり、そういう恋愛の機微とかはわからない。

    ただ、昔からリョータが好きで、隣でずっとリョータのことを見ていただけ……。

    だけど今、あたしのそのポジションすらも危うくなろうとしている……そんな気がする。


歩   「特に涼太さんは渚沙さんを兄妹のように思ってるところがあって、正直異性として見られていない節があります」


    ううっ、わかっていたけど突きつけられると厳しい現実だわ。

    あたし、やっぱり他人の目から見ても、リョータから女の子扱いされてないんだ……。


歩   「……いえ、正確には、見ないようにしている、でしょうか」


渚沙  「それは、なにが違うの……?」


歩   「この家で男性は涼太さんだけですからね。女の子にいちいちドギマギしていたら身が持たないんでしょう」


歩   「意識してのことではないと思いますが、本能的に恋愛対象から外しているんじゃないでしょうか?」


渚沙  「な、なによそれ……」


渚沙  「あたしはリョータの小さなあれこれにいちいちドギマギしてるんですけど!?」


渚沙  「なのに、勝手に対象から外さないでほしいわ!」


歩   「違うんですよ、渚沙さん。これはいいお話なんです」


渚沙  「へ?」


    今の話の中に、なにかいい話があっただろうか?



歩   「だって、涼太さんはそうしないと身体が持たないくらい、渚沙さんに魅力を感じているってことなんですから」


渚沙  「ええっ!?」


渚沙  「そ、そうかな……」


歩   「間違いありません。お姉さんが保証してあげます」


渚沙  「うぅ、それはそれでなんか恥ずかしいわ……」


    でもそう言えば、ちょっと前に着替えを覗かれちゃったときは、結構スケベな顔してた気がする。

    覗かれたのは恥ずかしいけど、あたしの身体で興奮してくれたって思うと……それは、ちょっと嬉しい。


歩   「だから、渚沙さんがするべきことは、ちょっとした女の子らしさと……」


歩   「涼太さんへの好意を、わかりやすい形で表現することです」


渚沙  「わ、わかりやすく……?」


歩   「わかりやすいことは重要ですよ? ちゃんと女の子として認識してもらう、ってことですね」


歩   「いわゆる、アプローチ、ってやつです」


渚沙  「アプローチ……。なんか……は、恥ずかしい」


歩   「ですが、渚沙さんから動かなければ、なにも変わりません」


渚沙  「そ、そうよね……」


    これまでなにも変わらなかったんだもの。

    今から急にリョータの方からあたしを好きになってくれるなんて、あるわけない。

    それくらいは、あたしにだってわかる。


渚沙  「わかった。や、やるわ!」


渚沙  「……と言っても、なにからどうすればいいのやら」


    やる気になって気が付く、自分の女子力の低さ。なんだか早くも挫けそう。



歩   「渚沙さんの得意なお菓子を作ってあげる、というのはどうでしょうか?」


歩   「以前、涼太さんは渚沙さんのチーズケーキを大変褒めていましたよ」


渚沙  「そ、そうなの……?」


歩   「はい」


渚沙  「そ、そういうのは本人の前でしなさいよね、まったく」


渚沙  「でもそっか。チーズケーキ……」


歩   「お菓子作りは女の子らしい特技ですし……」


歩   「そこですかさず、みなさんには内緒で涼太さん専用のチーズケーキを一個余分に焼いてあげてはいかがでしょう?」


渚沙  「リョータ専用? な、なんか恥ずかしいかも……」


歩   「きっと、涼太さんもそう感じてくれるはずです」


歩   「女の子の好意というのは、男の子を特別扱いしてあげることで伝わるんですよ」


渚沙  「そ、そっか。恥ずかしがってる場合じゃ、ないもんね」


渚沙  「あ、ありがとう! 歩姉さん。なんか、やれそうな気がしてきたわ!」


歩   「いえいえ、お礼には及びませんよ」


歩   「渚沙さんは、悔いのない恋をしてくださいね」


渚沙  「うん!」


渚沙  「じゃあ、あたし部屋に戻って明日の準備するわ! 本当にありがとう、歩姉さん」


    そう言い残して、あたしは自分の部屋へ急いだ。

    そんなにたくさんの準備が、今からできるわけじゃない。

    だけど、長年どうしていいかわからなかった問題の解き方が、突然目の前に降ってきたような気がして……。

    なにかしていないと、落ち着かない気分だった。

    (to be continued…)