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ポケット・ストーリー

『約束の夏、まほろばの夢』 渚沙ルート 6-1

第六話『大好きなカレと、初恋のヒト』 (1)




    人生なにが起こるかわからないもんだ。

    まさか俺と渚沙が、付き合うことになるとは……。


涼太  「ふあぁ~~……。あー、なんだか寝た気がしないな」


    妙に興奮してしまってなかなか寝付けなかった。ようやく寝たと思ったらもう朝だった。

    昨日、あんなことがあったから……。


涼太  「夢だったんじゃ、ないよな……?」


    自分のほっぺたをつねってみる。

    ギュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ……。


涼太  「……痛い」


    ……夢じゃない。

    でも、本当に俺は渚沙と付き合い始めたのだろうか? まだ、全然実感がなかった……。







涼太  「ふぁぁ……おはよう」


    あくびを噛み殺しながら居間へ行く。


渚沙  「あ……」


    いきなり渚沙と会ってしまった。


涼太  「お、おう……」




渚沙  「う、うん……おはよ……」


    渚沙は不自然なぐらい赤い顔だった。

    うん。やっぱり夢じゃなかったみたいだ……。


涼太  「あ、朝だなぁ……」


渚沙  「あ、朝だね……」


    明らかに不自然な会話をする俺たち。

    だが、お互いに突っ込んでいる余裕はない。


星里奈 「ん? なにを朝からお見合いしてるんだ?」


    起きて来た星里奈が、俺と渚沙を見て不思議そうな顔をする。


陽鞠  「お見合いってなんです?」


    陽鞠はもう食卓についていた。お腹が空いているらしく、朝食を今か今かと待っている。


渚沙  「お、お見合いなんてしてないわよっ。あたしたち、別に、け、結婚とかはまだ……」


    渚沙の不用意な言葉に、星里奈と陽鞠が訝しげ渚沙の方を見た。


星里奈 「結婚? なにを言ってるんだ?」


渚沙  「あ……ち、違う! 今の間違い!」


陽鞠  「まだ寝ぼけてるんでしょうか?」


渚沙  「そ、そうかも……あは、あはははっ」


    星里奈は陽鞠は、それ以上追及しては来なかった。本当に寝ぼけていると判断されたらしい。


涼太  「おい、渚沙」


    俺は食卓に背を向けながら、渚沙に小声で話しかけた。


渚沙  『ご、ごめん。ついテンパっちゃって』


    “ひみつでんわ”で返事が返ってきた。もちろん俺だけに聞こえる声だ。


涼太  『テンパりすぎだろ。俺たちのことはみんなには秘密にするんだろ?』


    その話をしたのは昨夜のことだ。







渚沙  「ちょ、ちょっといい……?」


涼太  「い、いいけど。どうした?」


渚沙  「えっとね、あたしたちのことなんだけどさ……」


涼太  「あたしたちのって……付き合い始めたことか?」


渚沙  「……う、うん」


渚沙  「ほら、グループ内で誰かが付き合い出すのって、ギクシャクする原因になったりしそうじゃない……?」


涼太  「ああ、うん。よくわからないけど……そういうことも、まあ、あるかもな」


渚沙  「うん……。だから、しばらくは隠しておいて、タイミングを見て打ち明けた方がいいかなって思うの」


渚沙  「……今は、りんかもいるし」


涼太  「りんか?」


渚沙  「あ、ほら……あたしたちが付き合い出したって知ると、りんかにはとくに気をつかわせちゃうんじゃないかなって」


渚沙  「まだ、記憶もちゃんと、戻ってないわけだし……」


涼太  「まあ、そうだな……」


涼太  「わかった。みんなにはしばらく内緒な」


渚沙  「う、うん……」


    というわけで、俺たちのことはしばらくみんなには内緒にしようと決めたのだ。







涼太  『あんな態度じゃかえって怪しまれるぞ』


渚沙  『わ、わかってるわよ。最初だから、慣れてないだけ』


涼太  『まあ、気持ちはわかるけどさ』


    正直俺だって、みんなの前でどんな顔をしていたらいいかわからない。

    渚沙の顔を見ているだけで、胸の奥がむず痒いような気分になってしまうのだ。


涼太  『とにかく、自然に。自然にだ』


渚沙  『う、うん、わかった。……以上、通信終わり。アウト』


    頭の中から渚沙が出ていったタイミングで、りんかが居間へやってきた。


りんか 「おはよ~」


渚沙  「あ……」


涼太  「おう、おはよう」


渚沙  「お、おはよう……」


    渚沙はまだ動揺が見えた。でも、やたらと眠そうなりんかが気にした様子はない。


りんか 「ふぁぁぁう……」


    大あくびだ。よっぽど眠いらしい。


涼太  「どうしたんだ、やけに眠そうだな?」


りんか 「うん……なんか昨日なかなか寝付けなくて。眠れたと思ったら、変な夢見て起きちゃうんだよ」


渚沙  「……へ、変な夢、って?」


りんか 「よく覚えてないんだけどね、なんか……」


    そこで、りんかは俺の顔を見つめた。


りんか 「……リョー君がどこかに行っちゃう夢だった気がする」


涼太  「俺が?」


りんか 「はっきり覚えてないんだけど……。うー、思い出そうとすると思い出せないっ!」


    りんかはもどかしそうに悶えている。


星里奈 「まあ、夢というのはそういうものだろう。掴みそこなった夢は、思い出そうとしても思い出せないものだ」


りんか 「うん……。あーもー! モヤモヤする! もう考えるのやーめた!」


    りんかは、お手上げとばかりに、考えること自体を放り投げて食卓に着いた。



渚沙  「………」


    そんなりんかを、渚沙はなんだか複雑そうな顔でいつまでも見つめていた。


涼太  「どうした?」


渚沙  「え? あ、ううん、なんでも……」


星里奈 「二人ともいつまで突っ立っているんだ?」


歩   「そうですよ。もうごはん、できましたから」


    朝食を持って、歩さんがやって来る。


渚沙  「あ、うん! すぐ行く」


    渚沙も食卓に向かう。

    やっぱり関係が変わると色々気を遣うことが出てくるもんだな。

    小さく息を吐きながら、俺も渚沙の後を追った。

    (to be continued…)