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ポケット・ストーリー

『約束の夏、まほろばの夢』 渚沙ルート 6-3

第六話『大好きなカレと、初恋のヒト』 (3)




    補習も終わり、下校時間になった。


涼太  「さて、帰るか」


    ここからがやっと俺たちの夏休みだからな。さっさと帰って夏休みを満喫しなければ。


渚沙  『ね。ちょっと帰り寄り道して行かない?』


    渚沙が、頭の中に直接話しかけてきた。


涼太  『寄り道ってどこへだ?』




渚沙  『どこでもいいんだけど……。デ、デートっぽいことしたいかなぁって……』


涼太  『お、おお……デートか』


    頭の中の渚沙の声が、いつもよりくすぐったく感じる。心を直接撫でられているような気がした。


渚沙  『……イヤ?』


涼太  『イヤじゃないけど……。二人でいると怪しまれないかな?』


    なにしろ、俺たちの関係はまだ周りに秘密だ。

    テレパシーとはいえ、みんなのいる場所でこんな話をしていることも、なんだか妙に緊張する。


渚沙  『だから、バレないように外でこっそり待ち合わせるの』


涼太  『外でこっそりか?』


    またドキドキすることを……。

    だけど、その緊張はワクワクにも繋がっている気がした。


涼太  『……やってみるか』


渚沙  『……え?』


涼太  『内緒で待ち合わせ』


渚沙  『い、いいの?』


涼太  『自分から言ってきたんだろ。なんか楽しそうだからさ』


渚沙  『う、うんっ。い、以上、通信終わり。アウト!』


泉実  「みんなはまっすぐ帰るの?」


    そのとき、泉実がみんなに訊いた。


星里奈 「私は隣町に道場破りにでも行こうと思ったが……」


祭   「いちのんは相変わらずブレないねぇ……」


星里奈 「だが、今日はまっすぐ帰ることにした」


涼太  「……そうなのか?」


星里奈 「留守番をしてる奴が、気になるからな」


陽鞠  「陽鞠も帰ります。りんちゃんのことも気になりますし」


    二人とも、りんかのことを気にしているみたいだ。

    確かに、朝、あんな調子で別れたりんかがなにをしているのかは、気になるところではあった。




渚沙  「………」


祭   「トガーもまっすぐ帰るの?」


涼太  「いや、俺は……」


渚沙  『やっぱり帰ろっか』


    そんな渚沙の声が、頭の中に滑り込んで来た。


涼太  『え? でも……』


渚沙  『りんかのこと、気になるでしょ?』


涼太  『……でも、渚沙はいいのか?』


渚沙  『あたしだってりんかのことは気になるしね。……一人にしておいたらなにしでかすか』


涼太  『はは、たしかにな。それじゃ、今日は帰るか』


渚沙  『そうだね。……以上、通信終わり。アウト』


祭   「トガー?」


涼太  「ああ、俺も今日はまっすぐ帰るよ」


渚沙  「うん、あたしも」


祭   「みんな、かみやんのことが気になってるんだね」


泉実  「それなら、僕も家に帰って金髪画を描こうかな……」


涼太  「泉実も相変わらずだな……」


涼太  「んじゃまあ、今日はみんなで帰りますか」


渚沙  「……うん」







涼太  「ただいまー」


りんか 「あっ! 帰ってきたっ!!」


    りんかはすかさず飛んできた。


陽鞠  「陽鞠、こんなわんこを知ってます。野良犬なのに凄く人に懐いてるんです」


りんか 「人を犬扱いしないでよね。で、なにして遊ぶ!?」


星里奈 「よっぽど退屈してたようだな」


    ……早く帰って来て正解だったか。


涼太  「りんかは今日はなにしてたんだ?」


りんか 「ほう、わたしの大冒険譚が聞きたいと……?」


渚沙  「大冒険ってなによ? なんかやらかしたわけじゃないでしょうね?」


りんか 「ふっふっふ、それなら話して聞かせてあげましょう。わたしの大冒険譚について!」


    りんかの『大冒険譚』とやらはなんのことはない、ただ町をぶらついたというだけの話だった。


陽鞠  「りんちゃんの大冒険の定義は甘いと思います」


りんか 「大冒険! 十分、大冒険だったって!」


陽鞠  「りんちゃんには今度、陽鞠が本物の大冒険に連れて行ってあげます」


りんか 「ひまちゃんの大冒険に連れていかれちゃったら、わたし死んじゃうんじゃ……?」




星里奈 「神宮りんか……。惜しい奴を亡くした……」


りんか 「やめてっ」


渚沙  『りんか、楽しそうでよかったわね』


    頭の中に渚沙の声が聞こえてきた。


涼太  『そうだな、よかったよ』


渚沙  『でも……ちょっと妬けちゃうな』


涼太  『え? 妬けるって……?』


渚沙  『だって……リョータ、りんかのことばっかり気にしてるじゃない?』


涼太  『そんなことないだろ?』


渚沙  『そうかしら?』


涼太  『俺が不甲斐ないせいかもしれないけど、もう少し自信を持ってくれよ』


涼太  『渚沙は俺の……彼女なんだから』


渚沙  『……も、もう。そんな女の子を喜ばせて誤魔化そうとするなんてジゴロな手段、いつの間に覚えたのよっ!』


涼太  『誤魔化すもなにも、俺は本心をだな……』


渚沙  『わ、わかった。十分わかったから。それ以上はダメよ。過剰摂取は心身の健康を損なうわ』


    ちょっと興奮しすぎじゃないか……?




渚沙  『というわけで、以上、通信終わり。アウト』


    “ひみつでんわ”を切った渚沙は少し顔を赤くしながら、りんかたちの雑談に混じっていった。

    ……今のは嫉妬、ってやつだよな。

    渚沙が俺とりんかの仲に嫉妬するなんて、つい最近までは考えられなかったことだ。

    関係が決定的に変わってしまったんだな、という実感と同時に……。

    やきもちを焼かれることにくすぐったさのようなものも、感じてしまうのだった。

    (to be continued…)