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ポケット・ストーリー

『約束の夏、まほろばの夢』 渚沙ルート 7-1

第七話『ラノベみたいなハッピーエンド』 (1)




    翌日の放課後。


祭   「終わったー! じゃあお疲れ!」


    祭はあっというまに席を立つ。


泉実  「ずいぶん急いでるんだね?」


祭   「今日バイトなんだよ。店長が留守で、私が店を任されてんの」


涼太  「ほう、信頼が厚いな」


祭   「もうちょっとで、あの店を私のものにするという計画も上手く行きそうだよ」


祭   「んじゃねっ!」


    祭は、張り切って教室を飛び出して行く。


涼太  「今なんか恐ろしい計画を口にしてなかったか?」


泉実  「気のせいだよ」


涼太  「……そうだな」


    聞かなかったことにしよう。



渚沙  『んじゃ、あたしも先行ってる。図書室で待ち合わせね』


    渚沙からの“ひみつでんわ”だ。

    渚沙とは朝のうちに、放課後はデートをする約束をしていたのだった。


涼太  『了解』


渚沙  『ん。以上、通信終わり。アウト』


渚沙  「じゃあ、あたしも帰るね」


泉実  「あれ? 一人で帰るの?」


渚沙  「うん、今日はちょっと~」


渚沙  「ではさらばじゃっ!」


    渚沙は不自然にそそくさと教室を出て行く。……その怪しさで、クラス中の視線を集めながら。


星里奈 「なんだあれは? あの怪しさじゃ問答無用で斬り捨てられても文句は言えんな」


涼太  「星里奈さん、死人に文句は言えませんよ?」


    確かに切り捨て御免の怪しさだったが。


涼太  「ではそろそろ俺も……」


    そそくさと席を立つ。


涼太  「ドロン!」


    定番の呪文を唱えて教室を飛び出した。


泉実  「あ、涼まで……」


星里奈 「このクラスには怪しい人間しかいないのか?」







    そっと図書室の扉を開き、そっと中をうかがう。


涼太  「えっと……」


    図書室はいつものようにしんとしていた。ぱっと見無人だ。

    でも、窓際の席に一つだけ、人の気配があった。


涼太  「いた」


    ラノベを読んでいるのか、手元の本に目を落としている。その顔が、ふと上がった。


渚沙  「……あ」


    俺に気づくと、その顔が嬉しそうな笑顔に変わる。

    その表情の変化に、ドキッと胸が高鳴る。


渚沙  「リョータ、こっちこっち!」


涼太  「……お待たせ」


渚沙  「いや、早いぐらいでしょ。もうちょっと時間ずらした方がよかったんじゃない?」


涼太  「そうかな?」


渚沙  「……みんなに怪しまれなかった?」


涼太  「どうだろう。そんなこと、気にしてる余裕なかったし」


渚沙  「もー、怪しまれたらせっかく時間差で出て来た意味なくなるんだからね」


涼太  「大丈夫だって、みんなそんなに気にしてないよ。まさか俺と渚沙がなんてさ」


渚沙  「なにそれ? あたしとリョータが付き合ってるのってそんな意外なこと?」


涼太  「今ならそんなことないってわかるけど……想像の埒外というか、盲点というか、そんな感じ?」


渚沙  「……そうかしら?」


涼太  「なんでそこでむくれるんだよ? バレちゃマズイんだから好都合じゃんか……」


渚沙  「そうだけど。でもさ、ほら……」




渚沙  「あの二人ってお似合いじゃない? 幼なじみとか言ってるけど本当は付き合ってるんじゃないかな~」


渚沙  「……とか思われたりしてないかな?」


涼太  「ははっ。ないない、それはない」


渚沙  「なに笑ってんのよ」


    渚沙はドスの効いた声と共に、腕をはたいた。


涼太  「いって。なにすんだよ」


渚沙  「そんなに強く叩いてないでしょ……」


涼太  「いやぁ、つい反射で……。ふふっ」


渚沙  「ちょっと。な、なに笑って、んふっ、笑ってんのよ」


涼太  「今、渚沙だって笑っただろ!」


渚沙  「わ、笑ってません~」


涼太  「いや、さすがに誤魔化せないでしょ」


渚沙  「……もう。あたしたち、付き合ってるのよ?」


涼太  「まあ、でも……これが俺たちだろ?」


渚沙  「ふふっ。……そうかもね」


    そう言って、俺たちはしばらくクスクスと笑い合った。

    付き合って変わることもあれば、変わらないこともある。

    俺と渚沙の関係には彼氏彼女であっても下らないことを言って笑い合える気安さがあった。


涼太  「で、時間差で抜け出してきたのはいいが、なにする?」


渚沙  「な、なにって……」




渚沙  「こんなところであたしとすることなんて、一つしかないでしょ?」


涼太  「え……?」


    こんなところで[する/・・]ことなんて一つ?

    いくつもの部分が強調されて聞こえてきたぞ。

    人気のない図書室で、二人きりで[する/・・]ことって……。

    (to be continued…)