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ポケット・ストーリー

『約束の夏、まほろばの夢』 渚沙ルート 7-2

第七話『ラノベみたいなハッピーエンド』 (2)




渚沙  「そこそこ! そこがいいの!」


涼太  「……ここがいいのか?」


渚沙  「そう! そこサイコー!」


    人気のない放課後の図書室に淫ら……もとい、元気な声が響いた。

    渚沙は、俺の手にしているラノベのページを指差して興奮している。


渚沙  「そのシーン、あたし好きなのよ~。何回繰り返し読んだことか」


渚沙  「だからリョータにも読ませてあげたくて」


涼太  「なるほど……」


    人気のない放課後の図書館で二人きりですることとは、ラノベを一緒に読むことだったらしい。


涼太  「俺の純情を返せと、暴れてもいいかな?」


渚沙  「純情? なんの話よ?」


渚沙  「それよりほら、ページめくってよ。次もいいんだから」


    俺の純情はあっさりと無視された。


涼太  「渚沙、ホントにラノベ好きだな」


渚沙  「なによ今さら。三度の飯よりラノベ好きよ、文句ある?」


涼太  「今さらないけどさ」




渚沙  「だいたい、あたしがラノベにはまったのはリョータのせいなんだからね」


涼太  「は?」


    初耳だ。俺は知らないうちに渚沙をラノベ好きにしていたらしい。


涼太  「心当たりがないんだけど?」


渚沙  「やっぱ、覚えてないわよね」


渚沙  「あたしがラノベというか、本にはまったきっかけは……リョータと、りんかなのよ」


涼太  「……え?」


    渚沙の話に、ズキン、と頭の奥が痛んだ気がした。


渚沙  「あたしも、つい最近思い出したのよね。……たぶん、りんか絡みの記憶だから“にっきけしごむ”で忘れてたんだと思う」


涼太  「“にっきけしごむ”で消されてた記憶……」


渚沙  「うん……。小さい頃、あたし、りんかと大ゲンカしたことあるのよ……」


渚沙  「そのケンカはね、どっちもどっちとかじゃなくて……明らかにあたしが悪かった。当時のあたしも、それはちゃんとわかってた」


渚沙  「……だけど、あたしは逃げたの」


涼太  「渚沙……」


渚沙  「怖かったんだわ。自分の非を認めることも……そして、りんかに嫌いって面と向かって言われるかもしれない、ってことも」


涼太  「……あ」


    小さい渚沙が、自分の家の押し入れの奥でうずくまっている光景が、パッと頭の中に思い起こされた。

    そして、そこからは、すべての記憶が芋づる式に思い出されていった。







涼太  「いた。……渚沙、こんなところに」


渚沙  「ぐずっ。……リョータぁ」


涼太  「そんなところで、なにやってるんだよ」


渚沙  「リョ、リョータこそ、なにしてるの。今日はりんかと、遊ぶ約束だったでしょ?」


涼太  「りんかと、渚沙と……遊ぶ約束な」


渚沙  「そ、それは……」


涼太  「ケンカしたんだろ? 聞いてるぞ」


渚沙  「ううぅ~~。……ヤダ!!」


涼太  「ヤダって……おれ、まだなにも言ってないぞ?」


渚沙  「ヤダヤダヤダ!! あたし、外出ない! もう一生ここで暮らすもん!」


涼太  「そっか……」


涼太  「それなら、やっぱりこれ、持ってきてセイカイだった」


渚沙  「え……?」


渚沙  「なに、これ……。本?」


涼太  「ずっとここで暮らすなら、つまんないだろ? これ読めば、少しは面白くなるんじゃないか?」


渚沙  「うへ~。リョータ、これ、文字ばっかり……」


涼太  「そっちの方が、たくさん時間が使えるだろ?」


渚沙  「そ、そうかもしれないけどぉ……」


涼太  「渚沙は、ここでずっと本を読んで暮らしててもいいぞ」


渚沙  「えぇ……?」


涼太  「渚沙がつまんなくないように、おれが毎日、本を届けてやる」


渚沙  「文字ばっかりのやつ……?」


涼太  「文字ばっかりのやつ」


渚沙  「うぇ~」


涼太  「だけど、渚沙が行けるなら、一緒にりんかのところ……行こう。おれが、付いていってやるから」


渚沙  「うっ。……ううぅ~~」


涼太  「そうだ。渚沙が不安なら、おれが魔法をかけてやる」


渚沙  「ま、魔法……?」


涼太  「ああ。とっておきの魔法だ」




渚沙  「あ……」


涼太  「この間、みんなで名前をつけた“こころえのぐ”だ。渚沙にかけたんだけど、どうだ?」


渚沙  「う、うん……。なんか、ちょっとだけ、楽になった」


渚沙  「ありがと、リョータ」


渚沙  「凄いね、これ。……きっと、勇気の出る魔法なのね」


涼太  「……勇気、出たのか?」


渚沙  「う、うん……。まだ、怖いけど。リョータが、一緒に来てくれるなら……りんかのところ、行く」


涼太  「そうか。なら行こう! ほら、いつまでも座り込んでないで、おれの手を掴め!」







渚沙  「リョータ? ……どうしちゃったの? 突然黙り込んで」


涼太  「あ、ああ……。いや、その記憶、俺も思い出した」


渚沙  「……え?」


涼太  「渚沙の気持ちを落ち着けるために“こころえのぐ”を使うのは、ずっと昔にもう、やってたんだな」


渚沙  「あっ……。じゃ、じゃあ、リョータも?」


涼太  「ああ、思い出した。そっか、それじゃあ渚沙が本を読むようになったのって、あのときから……」


渚沙  「う、うん……。りんかは、謝ったらちゃんと許してくれて、小っちゃいあたしが心配してたようなことには、ならなかったわ」


渚沙  「それでそのあと、せっかくリョータが持ってきてくれたんだからって、あのときの本を読み始めたの」


涼太  「実は俺……自分が持って行った本の内容、知らないんだけど……」


渚沙  「知ってるわよ、そんなこと……。公民館にあった本を、勝手に持ってきたんでしょ」


涼太  「そ、そうでしたっけ……?」


    やばい。そこらへんの記憶はまったくない。


渚沙  「読み終わったあと、あたしがちゃんと自分で返しに行ったんだから」


涼太  「ス、スミマセン……」


渚沙  「まあ、それはいいんだけどね、本当に」


渚沙  「あのときの本、小説とは言っても子供向けの本でね? 異世界を旅するファンタジーだったのよ」


涼太  「あっ……異世界ファンタジー」


    渚沙が頻繁に読んでいるラノベのジャンルだ。


渚沙  「そうそう。それで、あたしはそういう本にはまっていったの」


渚沙  「物語を読むのって楽しいんだなって思って、あれ以来ファンタジーにはまったのよね」


渚沙  「そして、その数年後……あたしはラノベに出会うのよ!」


涼太  「……そうだったのか」


    俺が適当に持って行った一冊が、渚沙の嗜好をここまで決定づけてしまったとは……。

    運命とは恐ろしいものだ……。


渚沙  「というわけで、あたしがラノベ好きになったのはリョータの責任なのよ」


涼太  「なんでそんな嬉しそうなんだよ?」


渚沙  「なんでって……」




渚沙  「これってリョータ色に染まったってことじゃない?」


涼太  「………」


涼太  「……いや、なんか違わないか? 俺、別にラノベ好きじゃないしさ」


    ラノベ好きは俺色じゃないと思う。一瞬、納得しそうになってしまったけど。


渚沙  「いいのよ、そんな細かいこと」


    細かいだろうか? 渚沙が大雑把すぎるような……。

    ……まあ、渚沙が喜んでるならそれでいいか。


渚沙  「だからね、今度はあたしがラノベの素晴らしさをリョータに教えてあげたいのよね」


渚沙  「いわゆる逆輸入ってやつね」


涼太  「その言い方もなんかおかしい気がするけど……」


渚沙  「絶対面白いから! 試しに一度だけでも!」


渚沙  「あたしがオススメをピックアップしといてあげたから!」


    ドンッ!と、目の前に山積みされるラノベ。

    試しに一度だけ、と言っていっぺんにこの量を持ってくるあたりが、なんというか渚沙らしい。


涼太  「……これを全部読めと?」


渚沙  「あたしが好きなら、ラノベのことも好きになってくれるわよね?」


涼太  「そんなムチャクチャな……」




りんか 「え……好きって……」


涼太  「え……?」


渚沙  「り、りんか……?」


    渚沙と二人、思わず固まる。どうしてりんかがここに……。

    (to be continued…)