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ポケット・ストーリー

『約束の夏、まほろばの夢』 渚沙ルート 7-4

第七話『ラノベみたいなハッピーエンド』 (4)




    家に帰ってきてからも、渚沙のどこかボーっとしている症状はよくならなかった。

    確かにりんかにバレてしまったことは予想外だったけれど、そこまで動揺しなくちゃいけないことなのだろうか?


涼太  「……いや、違うのか?」


    もしかすると、俺がはっきりしなかったせいで、渚沙はまだ俺たちの関係が“お試し”だと思っているのかもしれない。

    だから、りんかや他のみんなに関係を知られるのがバツが悪いのかもしれない。


涼太  「……うぅん。100%俺のせい、だよな」


    俺は渚沙との付き合いがお試しなんてつもりは一切ない。

    俺が好きな女の子は、渚沙だ。恋愛対象として、異性として……渚沙が好きだ。

    この、渚沙のことを考えていると胸が温かくなる感覚こそが、“好き”という感情なのだ。


涼太  「……だいたい、最近の渚沙は可愛すぎる」


    当日は切羽詰まりすぎてそこまで思い至らなかったが、告白の数日前から妙に俺に優しかったり……。

    俺と積極的に二人きりなろうとしていたのは、要するに告白を見越しての行動だったってことだよな?


涼太  「……いわゆる……アプローチってやつ?」


    ぐあぁっ、恥ずかしい!?

    嬉しすぎて、思い出すら直視できない……!

    だって、そんなの……いじらしすぎるだろ!?

    数日前から、俺に告白するためにアプローチを繰り返してた、なんて、そんな……そんな……。


涼太  「はぁ、渚沙。なんでおまえはそんなに可愛らしくなってしまったんだ……?」


    まったく微塵もこれっぽっちも困ってないが、正直困る。

    そんな子が彼女なんて、俺はこれから毎日どうすればいいんだろうか?


涼太  「いや、やらなきゃいけないことは、決まってるな」


    俺から渚沙への告白だ。……俺はきっと、もう一度ちゃんと告白しなければならない。

    もうお試しなんかじゃなくて、ちゃんと好きだと渚沙に伝えなければ。

    だから、渚沙が動揺したり、バツの悪い思いをしたりする必要はないんだ、と。……ちゃんと、言おう。


涼太  「渚沙に好きだ……って」


涼太  「……うぅっ、告白のこと考えてたらお腹痛くなってきた」


    相手は、俺のことを大好きだと言ってくれている渚沙なのに。

    それでも、自分の偽りのない本心を相手にさらけ出すには、相当の勇気が必要になりそうだった。


涼太  「渚沙……。おまえ、凄い奴だったんだな」


涼太  「俺も、負けてられないな」


    ベッドに入ってからも、俺は何度も何度も脳内で告白をシミュレーションした。

    だけど、なかなかいい告白にはならず、いつまでもベッドの中でうんうん唸り続けることになった。







    あたしが深夜、喉の渇きを覚えて居間へ行くと、そこにはりんかの姿があった。


渚沙  「あ……」


りんか 「あ……」


    ボーッとしていたみたいだけど、りんかもあたしに気づいて小さく声を上げた。


渚沙  「ひ、一人?」


りんか 「うん……一人……」


    見てわかる、どうでもいいことを訊いてしまった。でも、りんかもそのおかしさに気づいてないみたい。

    なんとなく気まずい。……でも、ここで部屋に引き返すのはもっと気まずい。


渚沙  「ちょ、ちょっと喉渇いちゃって」


    言い訳のように言って、冷蔵庫から麦茶を出す。

    りんかの前の麦茶は半分以上なくなっていた。


渚沙  「りんかも、もうちょっと飲む?」


りんか 「あ、うん……じゃあ、少しだけ」


    ぎこちなく頷くのを見て、りんかのコップに麦茶を注ぐ。それから自分の分を注いだ。


りんか 「………」


渚沙  「………」


    お互いに、自分のコップばかり見つめて、気が付いたら麦茶を飲みほしていた。



りんか 「ありがと」


渚沙  「う、ううん」


    それで、また気まずい沈黙。

    りんかがなにを考えているかはわかる。きっと、りんかにもあたしが考えていることはわかるだろう。


りんか 「あ、あ~、麦茶美味しい」


渚沙  「そ、そうだね。夏は麦茶よね~」


りんか 「う、うんうん」


    なにを言っても言葉が上滑りしているみたい。きっと、本当に話したいことを、お互いに話していないから。

    図書館でのりんかの様子は明らかにおかしかった。

    あたしの直感通りなら、りんかは昔のことを思い出した。……子供の頃、リョータのことを好きだったことを。

    だからあんなに慌てていたし、今もあたしを前にして、こんなにぎこちないのだと思う。


渚沙  「……あー、夜になっても結構暑いわね」


りんか 「そうだね~」


    でも、はっきり訊くことができない。

    訊くのが、怖かった。


りんか 「……そろそろ、寝なくちゃね」


渚沙  「そう、ね……」


りんか 「うん。じゃあ、わたしは先に行くね」


渚沙  「……おやすみなさい、りんか」




りんか 「おやすみ、なぎ」


    りんかはそう言って、そそくさと居間を出ていった。

    あたしはその背中を、いつまでもボーっと眺めていた。

    どれくらい、そうしていたんだろう。

    5分か、10分か。もしかしたら1時間くらい?

    どれだけ気にしてもしょうがないとわかっていても、考えることを止められない。

    もし思い出していたとしたら、りんかはどうするだろう?


渚沙  「リョータに、告白……?」


    もし、りんかが自分のことを好きだと知ったら、リョータはどうするんだろう?


渚沙  「そんなの、絶対ダメよ。だって、リョータの初恋はりんか……なのよ?」


    リョータの方は、今はまだ忘れてるみたいだけど……。

    でも、りんかの告白をきっかけにして思い出してしまうかもしれない。

    小さいリョータが、“ひみつでんわ”にも気付かないほど熱心に小さいりんかに話しかけている光景が、脳裏にちらつく。

    それだけで、あたしの胸は焼け焦げるような思いがした。苦しくて、痛くて、切なかった。


渚沙  「………リョータ。あたし、怖いよ」


    それに、もし仮にリョータが昔を思い出さなかったとしても、りんかの気持ちを知ったら、その心は揺れるんじゃないだろうか。


渚沙  「……ううん。こんな想像、よくないわ」


渚沙  「あたしはラノベみたいな、完全無欠のハッピーエンドを目指すのよ……!」


    ラノベの主人公やヒロインたちは、どんな困難があったとしても、愛の力で乗り越えてきたではないか。


渚沙  「……愛。つまり、ラヴよ!」


    ツンデレにとってのラヴ……すなわち!





渚沙  「あたしのデレを、開放するわ……!!」





    (to be continued…)