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ポケット・ストーリー

『約束の夏、まほろばの夢』 渚沙ルート 8-8

第八話『はじめてのラヴをあげる』 (8)




    学校を出てからしばらくして、俺と渚沙はどちらからともなく手を繋ぎ合った。

    俺たちはなんとなく、すぐに家に帰るのがもったいなく思えて、手を繋いだまま、家の近くをぶらぶらと歩き回っていた。


渚沙  「…………」


涼太  「…………」


    お互いに、交わす言葉はほとんどない。

    だけど、それに気まずさは少しもなく、ただ甘酸っぱくて転げまわりたくなるような、くすぐったい快感だけがあった。


渚沙  「……なんか、照れる、わね」


涼太  「……わかる」


涼太  「本当はもっと凄いこともしちゃってるのにな」


渚沙  「……バカ」


涼太  「でもなんか、恥ずかしいけど嬉しいよ。こうして渚沙とまた手を繋げるの」


渚沙  「……そ、そう?」


    俺と渚沙が手を繋ぐのは初めてではない。

    小さい頃からずっと一緒だった俺たちは、昔からこうしてよく手を繋いでいた。


涼太  「……手を繋がなくなったのって、いつ頃だっけ?」


渚沙  「わかんない。……でもリョータが先に嫌がったのだけは覚えてるわ」


涼太  「えっ。そ、そうだっけ?」


渚沙  「そうよ。あたし、それで傷付いたんだもの」


涼太  「それはなんというか、ごめんなさい……」


渚沙  「ふふっ。でも許してあげる。今はこうして繋げてるんだもの」


    渚沙は幸せそうに笑った。

    きっと、俺の顔も大層緩んでいることだろう。

    そんなことを考えていたとき……。



りんか 「……あ」


渚沙  「……えっ」


涼太  「うん?」


    道の先にりんかの姿があった。

    今朝の話から考えるに、山の方を散策してきた帰りだろうか。


渚沙  「あ、ちょ……リョータ」


    渚沙がなぜか慌てて手を離そうとするので、俺はむしろ恋人繋ぎでガッチリと渚沙の手をホールドした。


りんか 「…………」


涼太  「散策帰りか? りんか」


りんか 「……う、うん。そうそう、そうなんだよ~」


りんか 「それにしても、こんな家の近くで二人して手なんか繋いじゃって~。他のみんなにもバレちゃうぞ?」


渚沙  「…………」


涼太  「て言っても、もうりんかにはバレてるしな」


りんか 「もう。そういう話じゃなくて、バレてない人たちにもそんなんじゃすぐバレちゃうぞって話だよ!」


涼太  「ははは。まあ、そうなったらそうなったときだ」




りんか 「……ラブラブなんだねぇ」


涼太  「んん。まあ、そうだな」


りんか 「ふふっ。妬けちゃうよ」


渚沙  「……あっ。…………ぅ」


    さっきまで元気だった渚沙が、りんかと出会ってからは元気がなくなってしまった。

    やはり、渚沙にとって俺との関係は人目が気になるのだろうか。


りんか 「リョー君」


涼太  「うん?」


りんか 「リョー君は、なぎのこと……好き?」


涼太  「好きだ」


    りんかの問いに、俺は間髪入れずに答えた。


渚沙  「ちょ、リョータ。こんなところでなに言って……」


涼太  「いや、なにって言われても、聞かれたから答えただけだぞ」


    俺にとって、もはやこの質問の答えに迷う余地はない。


りんか 「……なぎのこと、世界で一番大切にできる?」


りんか 「たとえば、明日宇宙からの侵略者が地球を襲ってきたとして」


りんか 「リョー君はなぎのために命を懸けられる?」


    りんかの口調は冗談めかしたものだったが、なぜかその目は真剣そのものだった。

    だから、俺も誠心誠意答えることにした。


涼太  「命を懸けて守るよ」




りんか 「……そっか」


渚沙  「あ、あんたたち、なにバカなこと話してんのよ……」


りんか 「なはは。それなら、仕方ない、かな……」


    なにかを諦めたような口調で、りんかはそう言った。


りんか 「うむ。そこまで言うなら、わたしのなぎを預けよう」


渚沙  「い、いつからあたしはりんかのものになったのよ……」


りんか 「あはは、まあとにかく、お幸せに!」


りんか 「お邪魔虫は走って先に帰ってるよ!」


涼太  「あ、おい、りんか……」


    止める間もなく、りんかは踵を返すと家へ向かって一直線に走り出す。


りんか 「ぶーーーん!!」


    なぜか、飛行機のように両手を水平に広げて走り去っていった。


渚沙  「……りんか、やっぱり」


涼太  「渚沙……?」


    なぜかりんかの背中を暗い表情で見送る渚沙。

    その横顔に声をかけようとした瞬間、ズキンと頭が痛んだ。





りんか 『そっか……うへへ。あのね、リョー君……』


りんか 『手……繋いでも、いい?』


    なぜか一瞬だけ、幼いりんかの照れた笑顔が見えた。





涼太  「えっと……なん、だったんだ?」


    しかし、次の瞬間には痛みも引いて、掴みかけた記憶の残滓はどこかへ行ってしまっていた。


渚沙  「リョ、リョータ? ……どうか、した?」


涼太  「い、いや。なんでもない」


涼太  「……俺たちも、そろそろ帰ろう」




渚沙  「う、うん……」


    そうだ。忘れてしまった過去になにがあったかなんて、関係ない。

    りんかに宣言した通り、俺は渚沙を世界で一番大切にすると、決めたのだから。

    俺はもう一度渚沙の手を握り直して、帰り道を歩き出した。

    (to be continued…)