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ポケット・ストーリー

『約束の夏、まほろばの夢』 渚沙ルート 9-1

第九話『嫉妬しないなんて、無理だよ』 (1)




    なんだかやけに早くに目が覚めてしまった。


涼太  「まだ目覚ましも鳴ってなかったのに」


    今日は補習もない日だ。ゆっくり寝てられるはずだったのに損した気分だ。

    ……まだ、昨日の興奮が残っているのかもしれない。


涼太  「……あ」


    まだ6時前、こんな時間には誰もいないと思った居間には、寝間着姿の渚沙がいた。

    渚沙は俺を見つけると、パッと笑顔になった。


渚沙  「あ、リョータ。おはよ」


涼太  「お、おう。おはよう」


    渚沙の笑顔に、胸が急にドキドキし始める。


渚沙  「ず、ずいぶん早いわね? どうしたの?」


    渚沙もなぜか照れたようにもじもじし始める。


涼太  「なんか目が覚めちゃってさ。そっちこそ早いな?」


渚沙  「あたしも……目が覚めちゃって。はは」


    上手く会話が続かない。どうしても、昨日のことを思い出してしまいそうになる。

    ……俺、この子とエッチ、したんだよな。


涼太  「う……」


渚沙  「ど、どうしたの?」


涼太  「あ、いや、なんでも……」


    昨日のことを思い出して股間が疼いたなんて言えない。


渚沙  「そうだ、喉渇いてない? 麦茶飲む?」


涼太  「も、もらおうかな」


渚沙  「ちょっと待ってて」


    食卓で待っていると、渚沙が麦茶を注いだコップを持って来てくれた。



渚沙  「はい」


涼太  「おう、サンキュー」


    なんか不思議な感じだ。こんな朝っぱらから、二人で黙って麦茶を飲んでいるなんて。

    ちょっと前なら、二人きりでいてもこんな落ち着いた雰囲気にはならなかったろう。

    ちょっとしたことですぐ言い争いになってしまって騒がしいだけだった。

    でも、関係が変わって、そういうことも少しずつ変わっているみたいだった。


涼太  「あ……そういや大丈夫か?」


渚沙  「大丈夫ってなにが?」


涼太  「ほら、あれ……なんて言ったらいいのか、その、カラダ?」


渚沙  「バ、バカ……。ちょっと落ち着けたと思ってたのに……」


涼太  「ご、ごめん……」


渚沙  「あ、あたしだって、恥ずかしいんだからね」


    真っ赤になって小さく抗議する渚沙はとても健気で、なんだか知らない女の子みたいだった。


涼太  「わ、悪い」


渚沙  「ううん……。身体の違和感は、もうほとんど治ったから」


    照れながらも、渚沙はそう教えてくれた。


涼太  「そ、そっか。それならよかった」


渚沙  「うん。だから……ね」




渚沙  『その……また、できるよ?』


涼太  「ぶっ!!?」


    思わず口にした麦茶を盛大に吹いてしまった。


渚沙  「きゃっ!? な、なにやってるのよ?」


涼太  「な、渚沙が変なこと言うからだろ」


    朝っぱらからなんて会話だ。


渚沙  「もー、リョータのパジャマ、ビショビショ。ほら、脱いで」


    渚沙が俺の寝間着を脱がそうとしてくる。


涼太  「い、いいって。自分でやるから!」


渚沙  「なに恥ずかしがってるのよ? いいからほら」


涼太  「ああっ!?」


    強引に半分脱がされる。



りんか 「あれぇ、誰か起きて……」


りんか 「あ……」


    寝惚け眼で入って来たりんかが、俺たちを見た途端、石のように固まった。


渚沙  「あ……」


涼太  「う、お……」


    俺も渚沙も、同じように動けなくなる。


りんか 「ふ、二人とも起きてたんだ?」


    りんかが、ぎこちなさ全開で訊いてきた。


渚沙  「う、うん……なんだか目が覚めちゃって……」


涼太  「同じく……」


りんか 「そ、そうなんだ……わたしも同じ。き、奇遇だね~」


渚沙  「そ、そうね。あははは」


りんか 「あはははは」


    乾いた笑い声が空々しく響く。


渚沙  「あ、りんかも麦茶飲む?」


りんか 「あー、わたしはいいや。まだ早いし、二度寝するよ」


渚沙  「そ、そう? じゃあ……おやすみ」


りんか 「うん、おやすみ~」


    りんかがそそくさと部屋に戻っていく。





りんか 『ぎゅっ……えへへへへ。リョー君と、初めて手、繋いじゃった』





涼太  「……っ!?」


    また、だ。

    幼いりんかの笑顔が、脳裏をよぎった。


渚沙  「び、びっくりした、わね……」


涼太  「え!? …………あ、ああ、確かに」


    すぐに、渚沙が言ってるのは、ついさっきりんかに見られたことだと気が付いた。


渚沙  「? ……リョータ、どうかした?」


涼太  「い、いや、なんでも……」


    まさか、昔のりんかを思い出しかけた、と言うわけにもいかず、歯切れの悪い返事を返してしまう。


渚沙  「じゃあ、あたしも……もう一度寝ようかな」


涼太  「……あ、渚沙」


渚沙  「? どうしたの?」




    渚沙とエッチして、浮かれている場合ではなかった。

    ……今日こそ、渚沙に俺から好きだ、と伝えなくては。

    昨日、やることやっておいて今更なに言ってんだ、という感じではあるけれど……。

    それでも、もう一度、ちゃんと俺から気持ちを伝えて、渚沙には安心してもらいたかった。


涼太  「今日はなにか予定、あるか?」


渚沙  「……予定? な、ないけど」


涼太  「それなら、今日も一緒にどこか出かけたいんだけど、どうだ?」


渚沙  「ホント!? 嬉しい! それなら今からどこかに行く!?」


涼太  「お、おいおい。さすがに早すぎるだろ」


涼太  「日中眠くなるのもつまらないし、渚沙の言う通りお互いもうひと眠りくらいしようぜ」


渚沙  「そ、それもそうね。……でも眠れるかしら」


涼太  「まあそんなわけで、一旦解散だ」


渚沙  「う、うん……。あ、そうだ」


渚沙  『……そ、その、一緒に寝る?』


涼太  「え!?」


渚沙  「な、なに本気にしてるのよ!? じょ、じょじょじょ冗談よ!」


涼太  「な、なんだ、そうか……だよな」


    渚沙の体温が感じられるベッドの中で、二度寝……。めちゃくちゃ、したかった……。



    渚沙を見ると、なんだか渚沙も残念そうな顔をしているように見えた。

    うっ、もしかして、多少強引に来い、ってことだったのだろうか……。

    (to be continued…)