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ポケット・ストーリー

『約束の夏、まほろばの夢』 渚沙ルート 10-7

第十話『好きで、好きで、好きだから…』 (7)




    俺たちはタオルで身体を拭いて乾かし、洋服に着替えた。

    こうやって事後色々やっていると、ちょっと冷静になってきて、さっきまでしていたことが急に恥ずかしくなってくる。

    ……い、いや、まて。

    冷静になってはいけない。かと言ってエロい興奮を引きずってもいけない。

    俺には今日……まだ、やらなければならないことが、あるのだから。


涼太  「渚沙」


渚沙  「うん。あたしも、もう大丈夫よ」


涼太  「いや、ちがくて」


渚沙  「? どうしたの? 真面目な顔して」


涼太  「どう切り出そうか、ずっと迷ってたんだけど、もう格好つけてる場合じゃないなって思って」


涼太  「……今日渚沙をデートに誘ったのはさ、実は俺から大切な話があるからなんだ」


渚沙  「……あ」


渚沙  「う、うん……」


渚沙  「な、なにかしら……大切な、話って」


涼太  「あ、ああ……。ただ、その話の前に、謝っておかないといけないことがあって……」


渚沙  「あ、謝るって……なにを?」


涼太  「実は、昨日の渚沙とりんかの話……俺、隠れて聞いてたんだ」




渚沙  「えっ!?」


渚沙  「き、聞いてた……? あたしと、りんかの話を?」


涼太  「あ、ああ……。その、ごめんなさい」


渚沙  「あたしとりんかの話って……その、どこでしていた……話?」


涼太  「その……二人で、神社でしてた話だ……」


渚沙  「じ、神社で……あたしとりんかがしていた話……」


    理解が追い付かないのか、渚沙は目を何度もぱちぱちとしばたいた。


涼太  「は、はい……」


渚沙  「そ、そう……。リョータは、あのときの話、聞いちゃって……」


渚沙  「ま、待って……。聞いてたって、その、どうして……?」


涼太  「家を出る二人が見えて……」


涼太  「なんか、二人とも深刻そうな顔をしてるから、気になって、その……」


渚沙  「つ、付いてきちゃったの……?」


涼太  「……はい」


    俺はそこで、深々と頭を下げた。


涼太  「申し訳ない……反省してる」




渚沙  「………………あの話聞いて、リョータがあたしに謝ってるってことは、もしかして」


    顔を上げると、渚沙が半泣きになっていた。


涼太  「ちょっ!? 待って! 待ってくれ!! なにを勘違いしてるかわからないけど、渚沙は絶対勘違いしてるから!」


渚沙  「で、でも……あたし、ごめんなさい、されてるのよね……?」


涼太  「違うって! ただ、その、盗み聞きしたことを、謝ってるだけだっ!」


渚沙  「うぅ……ぐす……?」


涼太  「そのっ……盗み聞きしたことは申し訳ないと思ってるんだけど、俺がしたいっていう大切な話はその続きのことで……」


    ……好き。

    勢いがあれば言えてしまうその言葉も、自分がしていることが大切な告白だと思うと、口にするには大きな勇気を必要とした。


涼太  「その……つまり、だな……」


涼太  「俺が言いたいのは……その……」


涼太  「渚沙……。好き、だ」


渚沙  「え……?」


涼太  「その……今更なに言ってんだって思うかもしれないけど、今まで、ちゃんと、俺から言ってなかった気がして……」


渚沙  「え……あの、その……。へ?」


涼太  「勢いとか、流れとか……そういうんじゃなくて、ちゃんと俺の口から、渚沙に告白、したかったんだ」


渚沙  「え? あ、あの……。好きって、つまり、女の子として……?」


涼太  「お、おいおい。俺が言うのもなんだけど、今更なに言ってんだよ、渚沙」


渚沙  「そ、そうだけど……ううん、そうなんだけどぉ……」


涼太  「女の子として、異性として……世界で一番、渚沙のことが、好きなんだ」




渚沙  「ううぅ……あぅ」


    2回もエッチを済ませておいて、本当に、俺たちはいったいなんの話をしているんだろう。

    とは言え、その責任は俺にある。俺が、渚沙が告白してくれたときに、あんな優柔不断な返事をしたから……。


涼太  「俺たちは、恋人同士だ。“お試し”なんかじゃない」


涼太  「渚沙に告白されたのが、嬉しくて……。可愛い姿を見て、ドキドキして……。さっきも、メロメロだった」


涼太  「好きだ」


涼太  「……渚沙のことが、好きです」


渚沙  「――――――っ!」


渚沙  「……で、でも、りんかの話も、聞いた……のよね? その、神社のあれ……」


涼太  「あ、ああ……」


    やっぱり、その話題は避けて通れない、よな……。

    だったら、ちゃんと全部言ってしまう方がいい。


涼太  「実は、昔のりんかとのことも……思い出したんだ」


渚沙  「……え!?」


渚沙  「りんかとのことって、その……。あれよね……りんかが、リョータの……」


    初恋の人だった、ということ……。

    渚沙は言い切らなかった。だけど、そのことを渚沙が言っているのは間違いない。


涼太  「それも、思い出した……」


渚沙  「そ、そっか……。リョータも、思い出してるのね」


涼太  「でもっ! ……それは、記憶を思い出しただけだ」


涼太  「ああ、そういうこともあったなぁ、懐かしいなぁって……。正直、そんな感じだ」


    胸は……痛まなかった。

    だって、俺にとって一番大切なのは、目の前の渚沙を傷付けないことだったから。


渚沙  「そういう、もの……?」


涼太  「まあ、あの頃の初恋なんて、俺たちくらいの歳になれば、そんなもの、だろ?」


渚沙  「う、うん……そっか」


    渚沙は固い表情を崩さないまま、そう言った。その表情から、本当に納得してくれたのかどうかは推し量れなかった。


涼太  「だから……あんまり、不安がらないでほしいんだ」


渚沙  「え……?」


涼太  「俺が好きなのは渚沙だから……どこにも行ったりしないから、だから渚沙にはもっと安心してほしくて」


渚沙  「リョ、リョータ……」


涼太  「渚沙……」


涼太  「俺は、渚沙のことが好きだ」


涼太  「……だからこれからも、恋人として、付き合ってください」


渚沙  「は、はい……。その、喜んで」


渚沙  『そ、その……』


    渚沙は少し顔を赤くしながら、“ひみつでんわ”でささやいた。



渚沙  『あたしも、リョータのこと、好き……』


    渚沙のそのたった一言で、胸が温かくなった。

    もし、渚沙も同じように感じてくれているんだとしたら、やっぱりもっと早くこうするべきだったんだ。


涼太  「ありがとう。……嬉しい」


渚沙  「あ、あたしも……」


渚沙  「ふふっ。……ありがとう、リョータ」


    ただ今は、渚沙が笑ってくれている、そのことで良しとしよう。


涼太  「その……手、繋いで帰る、か……?」


渚沙  「う、うん……」


    そう言って、渚沙はそっと俺の手を繋いできた。俺は、その手を離さないようにぎゅっと握りしめる。

    そうして、俺たちはのろのろと、手を離す時間を先延ばしにするようにしながら、家までの道を歩いて帰った。

    (to be continued…)