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ポケット・ストーリー

『約束の夏、まほろばの夢』 渚沙ルート 11-1

第十一話『たとえヒロインになれなくても』 (1)




    翌日。

    朝食が終わり、学園の登校まで少しだけ時間があいた。


涼太  「ふー。さて、どうしたもんかなぁ……」


    結局、一晩経っても、渚沙はりんかに対して落ち着きがないままだった。

    時間が解決してくれるのかも……と思わないでもないが、正直今のままではりんかがかわいそうだ。

    俺が好きな女の子は、渚沙だ。

    ……だけど、それは渚沙さえいれば他のなにもいらない、ということではない。

    そんな考え方じゃ、きっと俺も渚沙も不幸になるだけだ。

    りんかは、かなり歩み寄ってくれている。

    だから、あとは渚沙がそれを受け止めるだけの余裕を手に入れるしかないのだが……。


涼太  「それを……今、俺が渚沙に言っても、火に油を注ぐだけだしなぁ……」


涼太  「……どーすりゃいいんだ、いったい」


    俺がしなくちゃいけないことは、俺が渚沙のことを好きで、本当に好きで、大好きだってことを渚沙に信じてもらうことだ。

    告白することが目的ではない。……だからきっと、昨日の告白は、失敗だったのだろう。


涼太  「気持ちを伝えるのって……こんなに難しいことだったのか……?」


    勢いではなく、その場の雰囲気や流れでもなく、俺の方から渚沙への想いは告げた。

    それでも、渚沙はどこかで心配しているのだ。いつか俺が、渚沙を捨ててりんかに走ってしまうと思われている。


涼太  「本当、どうしたもんか……」


    一人で悩んでいても、なかなかいい答えは出てこなかった。

    そんなとき……。


りんか 「リョー君、いる~?」


    部屋の外からりんかの声がした。


涼太  「どうかしたか?」


りんか 「う、うん。実は相談がありまして……」


りんか 「……お部屋入ってもいーい?」


    りんかが俺に告白……という言葉も浮かんだが、昨日のりんかを見ていると、そんなことをしにきたのではない気がした。


涼太  「いいぞ。開いてるから勝手に入ってくれ」




りんか 「は~い。……お邪魔しま~す」


    恐る恐る入ってきたりんかは、部屋の中をキョロキョロと見まわした。


涼太  「安心しろ。渚沙はいないぞ」


りんか 「え、えへへ。そ、そういうんじゃ、ないんだけどね?」


    そう言いながらも、りんかは少しホッとしているようだった。


涼太  「それで、相談って……?」


りんか 「う、うん。なぎとのことなんだけど……」


りんか 「い、いや、違うのかな……」


りんか 「わたしとリョー君の……? いや、でもなぎの話なんだよ……」


    やっぱり、昨日の神社の件の話だったか。


りんか 「ご、ごめんね。突然押しかけてきてこんな話されても、訳わかんないよね……」


涼太  「……いや、実は、たぶんわかってる」


りんか 「へ?」


涼太  「この件に関して、一つ先に謝っておかないといけないことがあってさ……」


りんか 「え、全然心当たりがないんだけど……」


    まあ、りんかからしたら、そりゃあそうだろう。


涼太  「実は……先日の神社の話、盗み聞きしてしまいまして……」


りんか 「へ!?」


りんか 「………………」


    神社で自分がどんな話をしていたのかを思い返しているのかもしれない。

    だんだん、りんかの顔が上気して赤くなってきた。


りんか 「へ?」


    りんかは神社で、俺のことを好きだったことを思い出した、と語った。

    そして、告白する気がある、とも。


りんか 「え、あの……。聞いてたって、それはつまり、どこまで?」


涼太  「いや、あの……たぶん、全部」


りんか 「ぜ、ぜんぶ……。そうですか、ぜんぶ、ですか……」


涼太  「あの、本当にごめんっ!」


涼太  「あんなに直接的に俺の話になるとは思ってなくて……。いや、これも言い訳だ。そうじゃなくて……」


涼太  「ごめんなさい……」


りんか 「う、ううん。いいよ。わかった。大丈夫。……怒ってないよ」


りんか 「た、ただ……リョー君は、神社のときの話、全部聞いちゃった、んだよね……」


    りんかは自分に言い聞かせるように繰り返していた。


涼太  「は、はい……」


    俺は神妙に頷くしかない。


りんか 「そ、そっか」


りんか 「そっか~~~」


涼太  「り、りんか……?」




りんか 「いや、うん。大丈夫。すぐに再起動するから」


涼太  「さ、再起動……?」


    りんかは、はぁーっと全身の力が抜けるくらい大きなため息を吐くと、次の瞬間にはしゃきっといつものりんかに戻った。


りんか 「うん。よくはないけど、好都合なところもある、かな?」


涼太  「好都合、って……?」


りんか 「今のわたしとなぎの関係をリョー君が把握してるなら、話は早いよ」


りんか 「わたしの相談っていうのはね、なぎの前でわたしのことを手酷く振ってほしいの」


涼太  「手酷く……ですか」


りんか 「そう。こう、“おまえみたいな女に誰が惚れるかー。バカめ、はっはっはっー”みたいな?」


涼太  「えっ。普通に嫌なんだけど……」


    なんでそんな思ってもないこと言ってりんかに酷いことしなくちゃいけないんだよ。


りんか 「あ、いや、今のは言葉の綾というか、そこまで酷い言葉じゃなくていいんだけど。わたしも辛いし……」


りんか 「いや、違うか。酷い言葉で振られなきゃいけないのかな……? う、ううーん」


涼太  「おまえはさっきから、なにを言っているんだ?」


りんか 「いや、だからね、とにかくなぎの前でわたしのことを振ってほしいんだよ」


涼太  「な、なんで……」


りんか 「なんでって……。それをわたしの口から説明させる? なぎもだけど、リョー君も鬼畜だよね。鬼畜カップルめ」


涼太  「い、いや、だって……いや、ごめん」




りんか 「ほらー。そこで落ち込むー。そうされるとわたしが悪者みたいじゃん~」


涼太  「ご、ごめん……」


    りんかの言葉に、結局謝ることしかできない俺。

    しかし、それ以外に俺にできることはないように思えた。

    (to be continued…)