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ポケット・ストーリー

『約束の夏、まほろばの夢』 渚沙ルート 11-2

第十一話『たとえヒロインになれなくても』 (2)




涼太  「それと、俺、りんかとは……」


りんか 「やめて。わたしたち二人のときに振らないでください。……だってそんなの、わたしが傷付き損だし」


涼太  「…………っ」


    そう、だよな……。

    平気な顔してるりんかに甘えてたけど、俺のことを好いてくれてるって話だったわけで。

    こんな、お断り前提の話が、面白い話なわけないのに……。俺は……。

    その瞬間、ブチンッと頭の奥でノイズが流れたような感覚があった。


涼太  「? ……??」


りんか 「急にきょろきょろ周り見渡して、どうしたの? リョー君」


涼太  「い、いや……なんでもない」


    なんだろう。なにかがあったような気がするのだが、気のせい……なのか?

涼太  「いや、でも本当に、ごめん……。俺、なんか色々無神経で……」


りんか 「ほんとだよ。だから、その代わりにわたしのことをなぎの前で振ってほしいな」


涼太  「……でも、さすがに思ってもないことは、言えない」


涼太  「俺、演技力とかないし……渚沙の前でそんな茶番やっても、絶対にいい結果にならない」


りんか 「そ、そうかもしれないけどっ!」


りんか 「だってそれじゃあ、リョー君は今の状況をどうするつもりなの?」


涼太  「それは……」


    再び、頭の中でザーというノイズが流れた。


涼太  「…………?」


りんか 「リョー君?」


涼太  「あ、いや……なんでもない」


    りんかの言う通り、大切なのはこれからどうするのか……ということだ。

    だけど、その方法はまだ見えていない。


涼太  「実は俺……昨日、渚沙に告白したんだ」


りんか 「へ!? き、昨日……?」


涼太  「その、付き合い始めに、俺が優柔不断な言い方をしたから、渚沙が不安がってるんじゃないかと思ったんだ」


涼太  「だから、渚沙に好きだって、昨日、改めて……」


りんか 「あ、ああ……。なるほど。なぎとは付き合ってるけど、その上で告白し直したんだね」


涼太  「う、うん……。俺からは、ちゃんとは言ったことがなかったから」


涼太  「俺が好きなのは、渚沙だからって。だから安心してほしい、って言ったんだ」


りんか 「ほうほう。……なーんだ。リョー君はちゃんと色々やってくれてるんだ」


涼太  「とは言っても、そのあともりんかにあの態度だから、あんまり効果なかったみたいだけど」


りんか 「いやいや。そんなことないよ。……絶対、やるのとやらないのでは、なぎの気持ちの余裕だって全然違うって」




りんか 「うんうん。なぎを守るって言ったのが口ばっかりじゃなくて、お姉さん安心したぞ」


涼太  「……誰がお姉さんか」


りんか 「いやいや、わたしとリョー君ならわたしがお姉さんでしょ」


涼太  「りんかの中だとマジでその格付けなのか!?」


    りんかが空気を緩めてくれたおかげで、少しだけ下らない話をする余裕が生まれた。


りんか 「ええー? だってせりは問答無用で長女だけど、次女はわたしでしょ? リョー君は三番目じゃないかな?」


    こんな風に適度に場を和ませてくれることが、この夏だけでも幾度もあったような気がする。

    今は冗談で言ってるのかもしれないが、確かにりんかは妹というよりもお姉さんっぽいかもしれない。


りんか 「って、わたしたち、なんて話してるんだろね。ふふっ」


涼太  「はは。ほんとだな」


    そんな話をしていた時――



渚沙  「…………やっぱり、いた」


涼太  「な、渚沙……!?」


りんか 「な、なぎっ」


りんか 「あのっ、これは違うんだよっ! 抜け駆けとか、不意打ちとか、そういうんじゃなくてっ」


渚沙  「でも……二人で熱中して、お喋りしていたのよね? あたしの“ひみつでんわ”に、気が付かないくらい……」


涼太  「あっ……」


    さっきから頭によぎっていたノイズの意味が、ようやくわかる。

    りんかとの会話に集中しすぎたせいで拾いきれなかった、渚沙からの着信の残滓だったのだ。


涼太  「渚沙っ。その、聞いてくれ……」


涼太  「俺たちは別に、やましい話をしてたわけじゃなくてっ!」


りんか 「そ、そうそう! なぎの話をしてたんだよっ!」


りんか 「あたしが、なぎとまたお話したんだけど、どうすればいいかなーって、なぎの彼氏に相談してたの!」


渚沙  「ううぅ……ぐす……」


渚沙  「あたし……わかんないよ……。リョータのことも、りんかのことも、信じたいよ」


渚沙  「だけど……こんなところ見ちゃったら……あたしは、いったい、どうすればいいの?」


涼太  「と、とにかく……いったん落ち着いて、部屋の中に入って来てほしい」


渚沙  「リョータとりんかがいる……この部屋に……?」


渚沙  「うぅ……無理よ……。あたし、こんな空気、耐えられないもの」




渚沙  「もう、いやっ! 二人の話なんて、聞きたくないっ!!」


涼太  「あっ、おいっ!!」


    渚沙は普段からは考えられない身のこなしで、その場から走り出した。


りんか 「お、追いかけなきゃっ!」


涼太  「あ、ああっ!」


    そのまま、俺たちは渚沙を追って駆け出した。

    (to be continued…)