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ポケット・ストーリー

『約束の夏、まほろばの夢』 渚沙ルート 11-4

第十一話『たとえヒロインになれなくても』 (4)




涼太  「渚沙……」


涼太  「だから……言ってるだろ? 俺はもう、思い出してるんだ。だから、そんな……」


渚沙  「本当に思い出してたらっ! 懐かしいだけ、なんて、絶対に言わないっ!!」


涼太  「……っ」


    渚沙に、心の奥底を見透かされたような気がして、ドクンッと心臓が悲鳴を上げた。


渚沙  「あたしが、昔のリョータとりんかが手を繋いでるところを思い出したとき、苦しかったっ」


渚沙  「悲しかったっ。嫉妬で、頭がおかしくなりそうだったのっ!!」


    渚沙は、今にも胸から血が流れそうなほど、悲痛な声で叫んだ。


渚沙  「記憶と気持ちって、きっとセットなのよ……」


渚沙  「だって、だってね……?」


渚沙  「あたし、りんかにこんなに嫉妬してるのに……りんかの、昔のこと思い出すたびに、りんかのこと好きになってるもの」




渚沙  「りんかは昔から可愛かった。魅力的だった。……明るくて、元気もあって、一緒にいると楽しくなる。……憧れ、だったの」


渚沙  「だから……あたし、今のリョータはきっと、りんかのこと思い出してないんだと思う……」


    ああ……。俺はなんてバカな嘘をついたんだろう。

    俺たちは、同じように記憶を失っていたんだから、それを思い出したらどうなるかなんて、共有している感覚だったはずなのに。


渚沙  「リョータは、こんなあたしのことを、好きだって言ってくれた……」


渚沙  「嬉しかった……。幸せだった……。でもね? リョータは昔、りんかのことが好きだったの」


渚沙  「その思い出は、きっと数えきれないほどあって……それで、あたしみたいに、それを思い出すごとにりんかのことを好きになる」


渚沙  「あたしはそれを……リョータの横で見ていることしかできないのよ……」


涼太  「渚沙……違う。違うんだ、渚沙……」


    りんかのことは、確かに好きだった。それは、恋と呼ばれるものだっただろう。

    りんかのことを思い出すたびに好きになることは、渚沙の言う通り、きっとあると思う。

    だけどそれは、渚沙に今抱いているこの切なさとは……もう、種類の違う感情なのだ。

    けれど、俺はその気持ちを……正しく言葉にできなかった。


涼太  「渚沙……」


    渚沙は泣き止まなかった。

    俺は、自分の無力さを思い知った。俺には、好きな女の子一人、慰めることもできないのだ……。


渚沙  「あたし、わかんないよ……」


渚沙  「涼太は優しいし、りんかは可愛いもん……」


渚沙  「涼太は抜け駆けしたあたしに、気を遣ってくれてるだけかもしれない……」


渚沙  「今は、あたしでいいと思ってるかもしれない……」


渚沙  「でも、りんかとの思い出が戻るたび、やっぱりりんかの方が好きだと思い直すかもしれない……」




渚沙  「あたし、自信ないよ……」


涼太  「渚沙、違う。それだけは……絶対に違う」


涼太  「俺がおまえを好きだって言ってるのは、気遣いなんかじゃない」


涼太  「俺が渚沙を想う気持ちと、りんかに感じる友情はまったく別物だ!」




渚沙  「……ありがとう、リョータ。そんなこと言ってもらえるなんて、あたし、凄く嬉しいよ」


    渚沙は涙を止めずにそう言った。

    昨日も見た、心の底からは納得していない表情の渚沙がそこにいた。


涼太  「な、渚沙。だからな……?」


渚沙  「ううん。いいの。……リョータの気持ちはわかったから」


    俺の気持ちがわかってたら、そんな顔はしない……。


渚沙  「ありがとう。ちょっと一人で考えてみるわ」


涼太  「待て。渚沙」


    今の渚沙を一人にしてはいけない。そんな気がした。


渚沙  「ダメ。付いてこないで」


涼太  「いや、付いていくぞ」




渚沙  「っ……付いてこないでっ!!」


涼太  「……っ」


    渚沙からは聞いたこともないような大きな声に、思わず足がすくんでしまった。


渚沙  「ごめん、リョータ。今日だけだから。また明日から、普通にするから。ごめんね……」


    そう言い残して、渚沙は剣道場から去って行った。







涼太  「ああっ、くそっ……」


    違うだろ、渚沙の声にびびって足を止めるところじゃ、なかっただろ。

    俺は、なんでこう、肝心なところであと一歩、手が伸ばせないんだ。


涼太  「探さなきゃ……」


    まだ、遠くへは行っていないはずだ。

    見つけ出して、伝えなきゃ。

    俺が好きなのは、渚沙……おまえただ一人なんだってことを。







    みんなが補習を受けている教室の前を、こっそり身をひそめながら通り過ぎていく。

    剣道場から校門にかけて、校門までは結構距離がある。……しかし、そこに渚沙の姿はなかった。

    だとすれば、渚沙はきっと学園の外ではなく、中にいるはずだ。

    当然、今さら自分のクラスに戻って大人しく勉強しているとも思えない。

    だとすれば、選択肢は限られてくる。

    追いつめられた渚沙が、逃げ込みそうな場所と言えば……。


渚沙  「もう、やだっ! 本当に、一人にさせてよっ!!」


涼太  「っ……。渚沙!」


    図書室の方から、渚沙の声らしきものが聞こえた。

    もしかすると、りんかと鉢合わせたのかもしれない。

    俺は、図書室に向かって急いで駆け出した。

    (to be continued…)