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ポケット・ストーリー

『約束の夏、まほろばの夢』 渚沙ルート 13-1

第十三話『お願い、捨てないで』 (1)




    今夜も、いつも通り歩さんが作ってくれた晩ご飯をみんなでいただくことに。

    しかし、楽しいはずの食卓は、やはり重苦しい雰囲気に包まれていた。


渚沙  「………」


りんか 「………」


    渚沙はベッドの上であれだけやられても、それが自信になることはなかったらしい。

    そもそも、ここまでくるともう意地になってるだけなのか、相変わらずりんかへの態度は攻撃的だ。


歩   「みんなで食事するのは楽しいですね~」


涼太  「歩さん……」


歩   「……そんなに切ない顔をしないでください。ちょっと場を盛り上げようかと思っただけです」


    そんな風に歩さんが気を遣うぐらい、食卓は微妙な空気だ。


星里奈 「おい涼太、なんとかしろ」


涼太  「なんとかって言われても困るぞ……」


星里奈 「この空気は涼太が原因なのだろう?」


涼太  「それは……」


    なんとかできるものならなんとかしたい。

    だが、いったい俺は、なにをがんばればいいのだろう?


陽鞠  「あー姉、このさんまの焼け具合は最高ですね」


涼太  「とりあえず、今は平然とさんまに舌鼓を打ってる肝の太い奴を見習ってくれ」


星里奈 「陽鞠……やはりただ者ではなかったか」


    なぜか星里奈が陽鞠を見直していた。


渚沙  「………」


りんか 「………」


    うーん、まいったな。

    なんとかしなければ……と思うけど、どうしたらいいのやら。


りんか 「………」


涼太  「ふぅ……」







    夕食後、部屋に戻って一人になると力が抜けた。

    何気なく目をやったカレンダーでは、夏休みももうあと残り十日を切っていた。


涼太  「このまま、夏が終わるのかな……」


    夏が終わればりんかも家にってしまう。

    せっかく再会できて、記憶も戻りかけている。

    それなのに、こんなふうにギクシャクしたまま終わってしまっていいのだろうか?

    コンコン……。

    そのとき、部屋のドアをノックする音が聞こえた。


りんか 「わたし、だけど……」


    聞こえて来たりんかの声に、思わず身を固くする。


涼太  「あ、開いてるぞ?」


    どうしても警戒してしまいながら声をかけると、ドアがゆっくりと開いた。

    そこからりんかが顔を覗かせる。


りんか 「……ちょっと入ってもいい?」


涼太  「お、おう」




りんか 「……って、どうしてそんな仰け反ってるわけ? そんな警戒しなくてもなにもしないってば」


涼太  「す、すまん。……とりあえず、どうぞ?」


りんか 「お邪魔しまーす」


涼太  「で、なにか用か?」


りんか 「うん……ほら、もうすぐ夏休みも終わりでしょ?」


    りんかがおずおずと口を開く。


涼太  「俺も、そのことを考えてた……」


りんか 「そうなの? 気が合うね~」


りんか 「でさ、夏休みも終わったら、わたしは家に帰らないとならないでしょ?」


涼太  「……そっちの学校も始まるだろうしな」


りんか 「うん……だからね、最後に思い出がほしいの」


    そう言って、りんかはまっすぐ俺の目を見た。


涼太  「思い出……?」


    りんかはどういうつもりで言ってるんだろう?

    しかし、そんな疑問はりんかの率直な言葉でバラバラに吹き飛んだ。



りんか 「デートがしたい。三人で」


涼太  「は? 三人で?」


りんか 「うん」


涼太  「三人って、俺と、りんかと、渚沙?」


りんか 「そうそう」


涼太  「な、なんで……?」


    俺の言葉に、りんかはニカッと笑ってみせた。


りんか 「リョー君とお出かけするのに、なぎに勝手はできないでしょ?」


りんか 「なぎとももっと遊びたいし、それなら一緒にやっちゃおー!って感じで」


涼太  「は、はぁ……。そんな感じですか」


りんか 「そんな感じなのです」


りんか 「ダ、ダメ……かな?」


    俺は、りんかの目を見つめ返す。

    その目はまっすぐに澄んでいて、言葉の裏の思惑なんてまったく感じられなかった。


涼太  「三人でデート、かぁ。……でも、なにすればいいんだろ?」


りんか 「なんでもいいんだよ。ただ一緒に過ごせれば。町をブラブラするだけでもいいの」


涼太  「……本当にそんなことでいいのか?」


りんか 「うん」


    りんかは大きく頷く。思い出がほしいという言葉に、嘘はないように思える。


涼太  「ただ、渚沙の了解は必要だぞ?」


りんか 「もっちろん」




りんか 「なぎだって、リョー君とデートとなれば絶対断らないよ!」


    そんなわけで、俺と渚沙とりんかの三人デート計画が持ち上がったのだった。

    (to be continued…)