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ポケット・ストーリー

『約束の夏、まほろばの夢』 渚沙ルート 14-3

第十四話『あたしはずるをしたから…』 (3)




渚沙  「………」


    渚沙が、急に俺の腕を離した。

    そして、思いつめたような顔でこちらを見る。


りんか 「……どうしたの?」


    りんかも、自然と俺の腕を離して、渚沙を見つめた。


渚沙  「……りんかは、今もリョータのことが好きなのよね?」


    渚沙が確かめるように訊く。


りんか 「な、なに、急に?」


渚沙  「いいから答えて。好き……なのよね?」


りんか 「…………。好き、だよ」


    りんかが渚沙に答えた。俺の方はちらりとも見ずに。


渚沙  「あたしも、好き」


    渚沙もまた、りんかに言った。


りんか 「うん、知ってる。だから、わたしは……」


渚沙  「いいの。わかってるから」


    渚沙が、りんかの言葉を遮る。そして、やけに真剣な眼差しで俺を見つめた。


渚沙  「リョータ、わかったでしょ? あたしも、りんかも、リョータのことが好き」


涼太  「なんだよ、突然……」


    いったい渚沙は、俺になにを求めているのだろうか……?


渚沙  「あたしもりんかも、自分の気持ちを正直に言ったわよ。だから……」


渚沙  「リョ、リョータの、正直な気持ちが知りたいの」


涼太  「……俺の、正直な気持ち?」


    俺はますます戸惑う。

    俺だけでなく、りんかも戸惑っているみたいだ。


りんか 「どうしたのよ、なぎ? そんなの聞かなくたってわかってるでしょ?」




りんか 「リョー君は……なぎと付き合ってるんだから」


渚沙  「でも、それは、あたしが強引に迫ったからだし。そもそも……」


渚沙  「そのとき、リョータはまだ子供の頃の記憶を、取り戻してなかった」


    渚沙は何度となく、同じことを繰り返す。

    それだけ、渚沙はそのことを気にしているのだろう。


りんか 「そんなの、関係ないよ。リョー君はなぎと付き合うって決めたんでしょ?」


りんか 「それなら……」


渚沙  「それでもっ……!」


渚沙  「リョータは、元々りんかのことが好きだったんだもん」


渚沙  「あたしはそれを知ってて……! 知ってるのに、秘密にしてリョータに告白したの!!」


    実際のところ、それはすでに俺も十分承知していることだ。

    だが、渚沙の中ではそうではないのだろう。

    この事実を俺が知ってしまった後で、自分が好かれるわけがないと思い込んでいる。


渚沙  「ずるだってわかってたわ。……でもっ、それでも!」


渚沙  「あたしは、リョータがほしかったのっ!」


涼太  「渚沙……」


    “リョータがほしかった”という強い言葉に、俺の胸は締め付けられた。

    俺がこんな気持ちになるのは、渚沙しかあり得ないというのに……。


渚沙  「でも、やっぱり怖いの。自分の考えも、リョータの言葉でさえ、もう信じられないの……」




渚沙  「あたしはずるをしたから、もう、ヒロインにはなれないのよ……」


涼太  「渚沙、だから違うんだ……」


涼太  「おまえが思っているような後悔なんて、俺には……」


渚沙  「ない? 絶対?」


涼太  「絶対ない!」


渚沙  「それならいいんだけど……。リョータは優しいから……」


    いくらそんなことはないと言っても、自分に自信が持てない渚沙には全部、歪んで聞こえてしまっているようだった。


渚沙  「……でも、だからそれをはっきりさせましょ」


りんか 「……はっきりって、どうするの?」


渚沙  「一旦全部白紙に戻すの。あたしとリョータが付き合ってることも全部」


    渚沙の提案に驚く。


涼太  「それって……俺と別れるってことか?」


    ショックだった。

    しかし、渚沙は、うんとも違うとも答えない。


渚沙  「別れるっていうか、とにかく一旦白紙に戻すのよ」


渚沙  「それでリョータに、あたしとりんかのどっちと付き合うかをもう一度選び直してもらうの」


涼太  「も、もう一度って……」


    あまりのことに、言葉が出て来なかった。

    りんかも驚いているようで、なにも言えないでいる。


渚沙  「それが、あたしたち三人にとって一番いい方法だと思う」


渚沙  「このまま何事もなかったようなふりしてりんかを帰したら、きっと後悔すると思うから」


渚沙  「だから……」


    こんなやり取りに意味はない。

    だって、とっくの昔に俺の腹は決まってしまっているのだから。


涼太  「何度も言ってるだろ、渚沙。俺が好きなのは……」


渚沙  「っ……お願いっ!!」


渚沙  「時間をかけて、よく、考えて……? そうしたら、おのずと正解がわかるはずだから……」


涼太  「正解って、おまえ……」


渚沙  「選び直しの答えは、あたし……ちゃんと聞くから。ちゃんと受け入れるから……」


渚沙  「だから、ちゃんと考えて? ね?」


    渚沙が懇願するように俺を見た。



渚沙  「あたしとりんか、どっちと付き合うか、もう一度選び直してください」


    渚沙はそう言って、なにも言えなくなってしまった俺に深々と頭を下げたのだった。

    (to be continued…)