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ポケット・ストーリー

『約束の夏、まほろばの夢』 渚沙ルート 16-1

第十六話『勇気の魔法』 (1)




    そして約束の日の朝。

    どうにも熟睡できず、諦めて早朝の居間へ向かうと、そこにはもう渚沙がいた。


渚沙  「……あっ。リョ、リョータ。……おはよう」


涼太  「は、早いな。もう起きてたのか」


    時刻はまだ5時を過ぎたばかり。

    家の中もまだひっそりとした空気を残していた。


渚沙  「……なんか、寝付けなくて。うとうとしてるうちに、朝になっちゃった」


    渚沙はそう言って苦笑する。


涼太  「……渚沙もか。俺もだ」


渚沙  「リョ、リョータも? ふふ、奇遇ね……」


    何気なく話しているけれど、渚沙の緊張が伝わってくる。

    今日は、りんかがここで過ごす最後の日。

    つまり、俺が二人に返事する約束の日だ。


りんか 「あれぇ? 二人とも起きてる」


    そこにりんかまでが起きてきた。


涼太  「……りんかも眠れなかったのか?」


りんか 「ううん、ちょっとおしっこ」


涼太  「おしっ……て」


渚沙  「ちょ、ちょっとりんか。言い方!」


りんか 「あれ、ダメだった? じゃあ、ちょっとトイレ」


渚沙  「まったくもー」


    りんかは、意外なぐらいいつも通りだ。俺や渚沙のように緊張した様子はない。



渚沙  「余裕、なんだ……」


りんか 「ん?」


渚沙  「あ、ううん。な、なんでもない……」


りんか 「そういえば、せっかく勢揃いしたなら、今日のこと決めておく?」


    りんかの言葉に渚沙はコクッと頷いた。


りんか 「今、リョー君に答えてもらうの?」


涼太  「い、いきなりか?」


渚沙  「さ、さすがにこんな早朝からする話じゃないでしょ……?」


渚沙  「今日のお昼、学園の図書室でどう? 今日は補習もないし」


涼太  「図書室か」


    ……渚沙は、自分が一番落ち着ける場所を選んだのかもしれない。


りんか 「わたし、学園に勝手に入っちゃって大丈夫?」


渚沙  「……もう今更でしょ? 誰かになにか言われたら、あたしに呼び出されたって言えばいいから」


りんか 「わかった。じゃあ、お昼に学園の図書室ね」


渚沙  「リョ、リョータもそれでいい……?」


涼太  「……ああ、わかった」


    今日の昼……。

    あと6時間ほど後には、俺は二人のうちどちらを選ぶか答えなければならない。



りんか 「じゃあ、あたしはおしっこしてもう一回寝るね~」


    でも、りんかは全然緊張してないみたいだ。……やっぱりりんかは、答えがわかっているんだろう。


渚沙  「りんか! だから言い方!」


りんか 「あはは、ごめん~」


    俺と渚沙は、取り残されるように二人になる。途端に、重苦しい空気がやってきた。

    俺たちの中で渚沙だけが、渚沙自身が選ばれることはないと思っている。



    俺は今すぐ、この場で想いを伝えたい衝動に駆られた。

    だけど、それではダメなのだ。言葉だけで、想いを伝えることはできない。

    渚沙の望む形で、俺なりの誠意を見せなければ。


渚沙  「え、えっと……。じゃあ、あたしももう一度寝ようかな……」


涼太  「あ、ああ。俺も」


渚沙  「……それじゃ、お昼に図書室で……」


涼太  「……わかった」


    渚沙は逃げるように部屋に戻って行った。

    俺はそれを見送ることしかできない自分が歯がゆかった。







涼太  「寝るって言っても、寝付けそうにないけどな……」


    それでも、もう一度寝床に潜り込む。

    俺の答えはもう決まっている。だけど、それをどう伝えたらいいか……。

    そう考えると、頭の中はぐるぐるしてしまって、結局眠りが訪れることはなかった。

    (to be continued…)