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ポケット・ストーリー

『約束の夏、まほろばの夢』 渚沙ルート 16-6

第十六話『勇気の魔法』 (6)




渚沙  『……え?』


涼太  『……俺はな、おまえの勇気に感動したんだ』


渚沙  『あたしの……勇気?』


涼太  『ああ』


涼太  『……渚沙と付き合うようになってから、俺は渚沙のことがどんどん好きになった』


渚沙  『え、ええっ!?』


    渚沙は大仰なリアクションを取るが、無視する。

    俺が本当に話したいことは、この先にあるのだから。


涼太  『だから、俺から告白し直そうと思った。……あんまり男らしい付き合い始め方じゃなかったから』


渚沙  『…………』


涼太  『だけどそう決めた瞬間、なにを、どうしていいのかわからなくなった』


涼太  『告白はしたけど、あれだって何日も前からしよう、しようと思ってたのに、なかなかできなかった……』


涼太  『俺のこと、好きだって言ってくれた渚沙相手でも、そんなんなんだ……』


涼太  『告白って凄いよな』


涼太  『自分の心をさらけ出して、その命綱をたった一人に預けて、煮るなり焼くなりあなたの好きにしてください、ってことだろ?』


涼太  『なかなかできることじゃない』


渚沙  『……そんなこと、そんな深くまで、考えてなかったわよ。ただ、必死だったってだけで……』


涼太  『……その必死さはさ、俺にも確かに伝わってたんだよ。だからこそ、俺は渚沙の言葉を疑う必要なんてなかった』


涼太  『俺が渚沙を無条件に信じれたんじゃないんだ。……渚沙が、俺を信じさせてくれたんだよ』




渚沙  『……あたしが、リョータを信じさせた?』


涼太  『ああ……。うぬぼれてるみたいだけど、俺は渚沙がくれる好意を疑ったことがない』


涼太  『ああ、渚沙って俺のことめっちゃ好きなんだ、っていつも思ってた』


渚沙  『それは……うぬぼれじゃなくて、本当のことだから……』


涼太  『うん。……だからそれは、渚沙の凄いところだと思う』


涼太  『俺なんか、渚沙の本気の好きを受け取ったあとなのに、それでも自分の心を裸にするのが怖かった……』


涼太  『渚沙はそれを、答えのわからない中でやってのけた。……だから渚沙の本気は、俺に確実に伝わったんだ」


涼太  『……嬉しかった。自分がこんなにも人から愛してもらえるなんて、これまで考えたこともなかったから』


渚沙  『……で、でもそれは、リョータが“こころえのぐ”をかけてくれたからであって……』


涼太  『違う。渚沙の勇気は、渚沙のものだ』


涼太  『“こころえのぐ”は、その人の中にないものを勝手に作り出すことはできない』


涼太  『……勇気は最初から渚沙の中にあって、あとはそれを渚沙自身が認めるだけなんだ』


渚沙  『……そんなこと、言われたって、わかんないよ』


渚沙  『あ、あたしは今まで、ずっと、色んなことから逃げてきたんだもん……』


渚沙  『そんなあたしが、勇気、なんて言われても……』


涼太  『……でも渚沙、気づいてるか?』


渚沙  『……え?』


涼太  『今日のことはすべて、渚沙の暴走の結果ではあるけど……』


涼太  『それでもさっき勇気を出して告白してくれたことは、全部、渚沙が自分の力だけで言った言葉なんだぞ……?』


渚沙  『……リョータ、なにを、言って……?』


涼太  『ごめんな』





涼太  『さっき“こころえのぐ”を使ったっていうの……あれ、嘘なんだ』







渚沙  『え……?』


渚沙  『えええっ!?』


渚沙  『で、でも……だって、あたしの胸が確かにほわって温かくなって、勇気が湧いてきたのに……』


涼太  『だから、それは元々渚沙の中にあって……渚沙が本気で信じれば、いつでも発揮できるものなんだよ』


渚沙  『え? だって……。でも……。それは、あたしを励ますための嘘、とかではなくて?』


涼太  『説教モードの俺が、渚沙にそんな甘いことすると思うか?』


渚沙  『……お、思わないです』


涼太  『俺たちは、この力を魔法、って呼んだ』


涼太  『渚沙のこの“ひみつでんわ”だってそう。使い勝手は悪くても、俺たちの能力はやっぱり魔法みたいな力だ』


涼太  『小さい頃は無邪気に魔法と戯れていればよかった。ちょっとした不思議があって、その不思議にドキドキわくわくして』





    俺は、意を決して、自分の口で言葉を続けた。





涼太  「だけど」


涼太  「渚沙、俺はこの夏に恋を知った。好きな人が、大切にしたいと思う人ができたいんだ……」


渚沙  『リョ、リョータ……?』


涼太  「だから! いつまでも子供のままじゃいられない。魔法はいつか解ける。……でもそれは、悲しいことじゃないんだ」


涼太  「俺たちには言葉があって、わかり合いたい人がいる」


涼太  「だから、もっと話をしよう、渚沙」


涼太  「俺も、もっと勇気を出すから。渚沙に届くように、一生懸命になるから!」


涼太  「テレパシーじゃなくて、超能力じゃなくて、魔法じゃない。自分だけの力で、もっと渚沙とわかり合いたい!!」


涼太  「渚沙……おまえはバカで、どんくさくて、人の話を聞かなくて、思い込みが激しくて、おまけに自信がない奴だ」


涼太  「……だけど!」


涼太  「なにごとにも一生懸命で、愛情深くて、自分なりの正義や義理を貫くことができて……」


涼太  「そして、自分では見つけられなくても、途方もない勇気を持ってる!!」


涼太  「おまえが自分を信じられないというなら、俺がおまえを信じる。渚沙、おまえは凄い奴だ」


涼太  「そんなおまえに好きだと言ってもらえて、俺がどんなに嬉しかったか……」


涼太  「おまえが伝えてくれる、行動で示してくれる好意にどれだけ俺がドキドキしたか……」


涼太  「俺は、この嬉しさや幸福をおまえにも返したい。これからも、分かち合いたい」


涼太  「渚沙」


渚沙  『…………っ』


涼太  「好きだ」


渚沙  「っ……リョータッ!!」







    クローゼットから出てきた渚沙を、俺は抱きしめた。


渚沙  「ごめん……」


渚沙  「ごめん……なさい……」


渚沙  「あたし、ずっと勘違いしてて……」


涼太  「渚沙……。俺の方こそ、こんなに待たせて、ごめん」


渚沙  「ううん……。リョータはずっと言ってくれてたのに……。あたし、全然リョータの話を聞けてなくて……」


涼太  「うん、まあ、色々言いたいこともあるけど」


涼太  「お帰り、渚沙」


渚沙  「うっ……ううっ……」


渚沙  「あたし……あたし……」


涼太  「わかってもらえたなら、もういいよ」


涼太  「渚沙。好きだ」


渚沙  「あたしも、リョータが好き……」


涼太  「うん。わかってる。大丈夫だから」


渚沙  「……あ、あああぁ。……ううぅ」


    ついに決壊してしまったかと思われたそのとき、渚沙の身体にカッと力が入った。


渚沙  「っ……絶対、離れたくなかった!!」


    本当はずっと叫び出したかったのに、心の奥底に封じ込めていた渚沙の本音が、部屋の中に響いた。

    悲痛さの入り混じったその叫びは、聞いているだけで胸が張り裂けそうで、痛くて、そして、甘かった。



渚沙  「誰にも渡さない!! リョータはあたしのモノだっ!!」


涼太  「ああ。合ってる。おまえのモノだ」


渚沙  「うっ、うっ……ずっと、言いたかった。そう言いたかったの」


渚沙  「……でも、言えなかった。そこまでしたらウザいかな、とか。嫌われちゃうんじゃないかな、とか……」


渚沙  「……そもそも本命は、あたしじゃないし……とか」


涼太  「自信が付くまで言ってやる。俺は渚沙が一番好きで、渚沙だけのモノだ」


渚沙  「……ず、ずっと、自信がなくて……。だってあたしみたいな女……全然可愛くない……魅力的じゃないよ……」


涼太  「そんなことない。少なくとも、俺はおまえがいい」


渚沙  「ううぅ……うっ……」


渚沙  「ごめんなさい……ごめんなさい……」


    俺は渚沙を抱きしめたまま、渚沙の頭を撫でた。

    いつまでも、好きなだけここにいてくれていい。

    好きな女が泣いているところを慰められるなんて、恋人としては役得でしかないんだから。


渚沙  「リョータ、ありがとう」


    渚沙はそう言って、胸元から離れた。


涼太  「少しは落ち着いたか?」


渚沙  「う、ん。……少しだけ」


    そう言う渚沙の目元はまだ赤かった。


渚沙  「リョータが言ってくれた自信を持て、ってやつ……」


渚沙  「すぐにできるかわかんないけど、がんばってみる」


涼太  「焦らなくていいぞ。……ずっと一緒にいるから」


渚沙  「……うん。ありがと」


    そう言って、渚沙はようやく笑顔を見せた。



渚沙  「リョータ、好きだよ」


渚沙  「大好き」


涼太  「俺も好きだ、渚沙」


    その言葉に、渚沙は嬉しそうに小さく頷いた。

    しかし、次の瞬間、少しだけ真面目な顔に戻してみせる。


渚沙  「……ケジメ、つけなきゃ、だよね」


    なんとなく雰囲気で、りんかのことを考えているのだとわかった。


涼太  「悲壮な覚悟を決めているところを申し訳ないが、りんかはたぶん事情全部察してるぞ」


涼太  「おまえがごめんなさいすれば、それで終わりだ」




渚沙  「ううん。ビンタの1発や2発、あるいはもっと……。それくらいは覚悟しなくちゃ」


涼太  「……うん、まあ、そうだな。ビンタくらいは覚悟しておけ」


    今回、最大のとばっちりはどう考えてもりんかなのだから。

    (to be continued…)