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ポケット・ストーリー

『約束の夏、まほろばの夢』 渚沙ルート 16-7

第十六話『勇気の魔法』 (7)




    コンコン……。


りんか 「はーい?」


    ノックすると、すぐに返事が返ってきた。ドアを開けて中に入る。


涼太  「お待たせ」


渚沙  「ど、ども……」


りんか 「あ、なぎ! 出てきたんだ?」


渚沙  「お、お騒がせしました……」


    小さくなって頭を下げる渚沙を、りんかは優しい笑みで見つめた。


りんか 「その様子だと、リョー君はちゃんと返事できたみたいだね」


    なにもかも悟ったような、りんかの言葉だった。


涼太  「ああ、おかげさまで」


りんか 「おかげさまってなに? わたし、なんにもしてないよー」


    りんかはおかしそうに笑う。


渚沙  「あたしたちがなにを話してたか……わかってる、の?」


りんか 「ん~……。んふふ、ひ・み・つ」


りんか 「でも、おめでとう。なぎ」


渚沙  「あ、ありがとう……でも、その……」


りんか 「あはは、そんな気を遣わなくていいよ」




りんか 「あ、でもわたしに少しでも悪いと思うなら、この場でちょっとだけリョー君貸してほしいな」


    渚沙が視線で「いいの?」と聞いてくる。俺は頷き返した。


渚沙  「それは……なんて言っていいか。ど、どうぞ?」


りんか 「うん。それじゃあ遠慮なくお借りします」


涼太  「…………?」


    りんかはいったい、なにを始めるつもりなのだろうか?


りんか 「それじゃあリョー君、覚悟はいいかな?」


涼太  「は? 覚悟?」


りんか 「出来てないなら、深呼吸かな。はい、吸ってー? 吐いてー」


涼太  「すぅー、はぁー」


    言われた通りに深呼吸をする。


りんか 「うんうん。いい深呼吸だね。それじゃあ、いくよ?」




    口調の冗談めかした雰囲気とは反対に、りんかの瞳の奥は真剣さを宿していた。

    その瞬間、りんかがなにをしようとしているのかを感覚的に悟り、覚悟も決まった。


涼太  「ああ。来い」


りんか 「…………」


りんか 「リョー君、好きです」


渚沙  「…………っ」


    渚沙は一瞬肩を震わせたが、結局なにも言わなかった。

    むしろ、なにかを決意した顔で、じっと息を殺してすべてを俺とりんかに任せた。

    一方、りんかは渚沙をいちべつもしなかった。

    ただ、その大きな瞳に俺だけを映して、言葉を紡ぐ。



りんか 「わたしは、リョー君が好き」


りんか 「……わたしの初恋は、リョー君だった」


りんか 「そして、二度目の恋も、リョー君……」


りんか 「初恋の記憶が戻ったとき、わたしはリョー君と再会するためにこの地に導かれたんじゃないか……」


りんか 「そんな乙女チックな妄想をしてしまったくらい」


りんか 「リョー君、きみのことを考えると、胸がドキドキして、切なくなって、たまらくなるの……」


りんか 「昔のわたしが、どうしてこんな大切な記憶を亡くしてしまうことを選んだのか、今のわたしにはわからない」


りんか 「……でも、一つだけわかることもあるよ」


りんか 「今のわたしなら、どんなことがあっても、絶対にリョー君との絆をなかったことになんてしない」


りんか 「きみのことが好きで、きみのことが大切だから。……一生、大事にする」


    りんかの情感のこもった告白が、室内に甘く響き渡る。

    覚悟していてもなお、脳がくらっとくるくらいのハードパンチだった。


りんか 「だから、もしリョー君にとって、世界で一番好きな女の子がわたしなら……」




りんか 「わたしと、付き合ってください」


涼太  「……りんか」


涼太  「ありがとう。こんなに想ってくれて」


涼太  「俺、幸せ者だ。りんかみたいな魅力的な女の子に想ってもらえたこと、誇りに思う」


りんか 「……うん。わたしも、そこまで言ってもらえると、嬉しい。ちょっと褒めすぎで照れちゃうけどね」


涼太  「そんなことない。りんかは魅力的だ」


涼太  「俺にはもったいないくらいだよ」


りんか 「……そうかもね。なんでわたし、わたしを大切にしてくれないこんな男の子に引っかかっちゃったんだろうね」


涼太  「……うん。ごめん」


りんか 「いいよ。許してあげる」


りんか 「それに、嘘。リョー君、とっても魅力的だよ」




りんか 「リョー君は、一番大切ななぎを、ちゃんと守ったじゃない」


涼太  「…………」


    なんと答えても間違っている気がした。なにか言おうとして、しかし、言葉は結局空を切った。


りんか 「だから、はっきりした言葉でわたしを振って?」


りんか 「……わたしの二回分の初恋を、きちっと終わらせるために」


    りんかの瞳は薄っすらと濡れていた。

    俺はその目を見つめて、小さく頷いた。


涼太  「ごめんなさい。俺、りんかとは付き合えません」


涼太  「俺にはもう、世界で一番好きな女の子がいるから」


りんか 「うん」




りんか 「偉いぞ。男の子」


涼太  「……ごめん」


りんか 「もう、ごめんはおわりだよ」


りんか 「許す許す。リョー君、よくがんばったね」


    りんかはニカッといい顔で笑った。

    あまりにかっこよすぎるその姿に、俺は思わずちょっとだけ泣きそうになった。

    ……男の意地で、それだけは堪えたけれども。

    (to be continued…)