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ポケット・ストーリー

『約束の夏、まほろばの夢』 渚沙ルート 17-1

第十七話『最愛の人たち』 (1)




    翌日――。

    とうとう、りんかの帰る日がやってきてしまった。


りんか 「それじゃみなさん、本当にお世話になりましたー」


    りんかがみんなに向かって頭を下げる。


星里奈 「なんだかんだで楽しかったぞ。あのとき、亡き者にしていなくて本当によかった」


涼太  「初対面のときの話か?」


りんか 「え? わたし、亡き者にされてた可能性があったわけ!?」


星里奈 「運がよかったな」


りんか 「怖い! 一刻も早くこの町から逃げ出さなきゃ!」


    冗談ぽく言ってから、りんかは笑顔になる。


りんか 「……というわけで、わたしは帰るね」


陽鞠  「りんちゃん、もう一泊くらいしていきませんか……?」


涼太  「夏休みが終わっちゃうだろ」


陽鞠  「……夏休みなんて、なかったじゃないですか」


    陽鞠は遠い目をする。魂は山に旅立っているのかもしれない。


涼太  「最後だし、駅まで送るかな」


りんか 「そうだね~。せっかくだから送ってもらおうかな」


    りんかは変に遠慮はしなかった。



渚沙  「みんなで行っちゃう?」


星里奈 「最後は肝心だからな」


陽鞠  「みんなで行きましょうー!」


    みんなも、りんかと別れるのは名残惜しいのだ。


歩   「……私は家の用事がありますので、ここで失礼しますね」


    歩さんとは、ここでお別れ。りんかは、歩さんに笑顔を向ける。


りんか 「歩さんのごはん、本当にすっごく美味しかった!」


歩   「またいつでも食べに来てください」


りんか 「うん! また来るね!」


    結局、記憶はすべて戻ったわけじゃない。

    でも、最初のころにあったわだかまりのようなものは、もうすっかり消えていた。

    これからもりんかがこの町を訪れ続けていれば、いつの日か自然とすべての記憶が戻っていることだろう。


涼太  「じゃあ、ぼちぼち行くかな」


りんか 「うん!」


    それから俺たちは、みんなでりんかを駅まで送って行った。

    道々、この夏にあったことを話しながら、普段よりゆっくり歩いて。

    だが、どんなにゆっくり歩いてもやがて駅には着いてしまう。







りんか 「……じゃあ、本当にお別れだね。名残惜しいなぁ」


りんか 「今度はわたしが案内するから、みんなもこっちに来てね」


渚沙  「絶対行くわ」


りんか 「うん。約束だよ」


星里奈 「都会とやらにはどの程度手練れがいるのか……。楽しみだな」


りんか 「せり、街中で抜身の竹刀なんて持ってたら、お巡りさんにご厄介だからね。……冗談だと思うけど、一応ね」


陽鞠  「りんちゃん! 山は、都会に山はありますか!」


涼太  「都会に山はあるか……。哲学的な質問だな」


りんか 「ひまちゃん、都会に山はないけど、タワーはあるよ! 600メートルくらいの大きなやつ!」


陽鞠  「600メートル!? それはもう、山と言ってしまっても過言じゃないんじゃないでしょうか!?」


渚沙  「どう考えても過言よ……」




陽鞠  「陽鞠、絶対にそのタワー山登ります!」


星里奈 「超高層から見下ろす下界、というのにも興味はあるな」


涼太  「突っ込みどころは色々あるけど、りんかの案内する観光ツアーは開催決定でよさそうだな」


りんか 「そうみたいだね。ふふふ、みんなが目を回すくらい楽しいツアーを計画しておくよ」


渚沙  「ほ、ほどほどにね……?」


    渚沙はりんかの溢れんばかりのやる気に不安を感じているようだった。

    確かに、空回りしてよくわからんポカをやらかしそうなオーラがある……。


りんか 「……うん。じゃあ、きりがないからそろそろ行くね」


渚沙  「またすぐ連絡するわ」


涼太  「まず無事に家に着いたら、ちゃんと俺たちに連絡入れるんだぞ」


りんか 「も~。ちっちゃい子供じゃないんだから大丈夫だよ~」


陽鞠  「……あ、遠くの方に電車が見えました」


りんか 「え、本当!? 急がなきゃだね」




星里奈 「ちなみに逃すと次は2時間後だぞ」


りんか 「マジ!? い、急がなきゃ!」


    りんかは慌ただしく荷物を抱え直す。


りんか 「じゃあ、またね!!」


    しゅぱっと手を挙げて、りんかが駅に向かって走る。

    ドテーーーーーーーーン!!

    そしてコケた。


涼太  「あー、慌てるから」


りんか 「ああああ!? もう間に合わない~~~~~~!」


涼太  「落ち着け! 駅員さんに笑われてるぞ!」


    改札口にいる駅員さんが、こっちを見て笑っているのが見えた。


渚沙  「でも、りんかが乗るって気づいてくれたみたいだから、待っててくれるわよ」


りんか 「そうなの!? 人と人との温もりに感謝!」


涼太  「とはいえあんまり待たせると悪いぞ。急げ」


りんか 「らじゃ! それじゃほんとにバイバイ!」


    最後にもう一度手を振ると、りんかは慌ただしく駅に走って行った。

    駅員さんに謝りながら、無事に列車に乗り込む。


星里奈 「最後までバタバタだな」




陽鞠  「りんちゃんらしいです」


    りんかの乗った列車が走り出す。


りんか 「みんなーーー! バイバーーーーイ!」


    りんかが窓から身を乗り出して手を振る。


涼太  「あんまり乗り出すと落ちるぞ~~~!」


りんか 「あいるびーばーーーーーっく!」


星里奈 「……確かに、これがきっとりんらしさなのだろうな」


    俺たちは、りんかと列車が見えなくなるまで、ずっとそこで見送っていた。

    (to be continued…)