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ポケット・ストーリー

『約束の夏、まほろばの夢』 渚沙ルート 17-2

第十七話『最愛の人たち』 (2)




渚沙  「……本当に行っちゃったわね」


涼太  「だなあ」


    騒がしい奴だったけど、だからこそいなくなるとその存在感の大きさが嫌でも感じられてしまう。


涼太  「……もうすぐ、夏も終わりか」


    ふとそんな感傷が胸に迫ってきて、俺は頭上の空を仰いだ。

    気づけば、午後の空気はどこか秋めいて感じられた。


陽鞠  「ちっとも休みじゃなかった夏休みが終わります」


星里奈 「不条理だな」


涼太  「振り返ってみたら、俺は楽しかったぞ」


渚沙  「……冷静になると恥ずかしいことたくさんしちゃったけど、あたしも」


陽鞠  「陽鞠だって楽しくなかったとは言ってません!」


星里奈 「ま、悪くはなかった」


    みんな楽しかったのなら、問題なしだ。


涼太  「……さて、俺たちも帰るか」


渚沙  「そうね」


陽鞠  「……お兄さん、なぎ姉」


涼太  「? どうかしたか?」




陽鞠  「陽鞠はちょっと、山に行ってきます」


涼太  「またか。ほどほどにしておけよ?」


陽鞠  「また数日はこもっているかもしれません」


渚沙  「かも、ってあんた……。なにか目的でもあるの?」


陽鞠  「いえ、りんちゃんがいたから生活拠点がお家になっていましたが……」


陽鞠  「やっぱり陽鞠のホームは山かなと思っただけです」


涼太  「いや、山に生活拠点があっちゃダメだろ……」


陽鞠  「そんなこと言われても……山が陽鞠を呼んでいるんですー!」


    そう言って、陽鞠は野生動物のような俊敏さで駆けて行ってしまった。

    向かったのが家方向なのは、装備を取りに帰るためか……。


渚沙  「あれ、また当分帰って来ないんじゃない?」


涼太  「うーむ……」


    すぐに学園が始まるんだが……?


星里奈 「私も、しばらく休んでいた出稽古を再開させるとしよう」


涼太  「星里奈も帰らないのか……」


    なぜ制服なのかと思っていたら、そのまま出かける気だったらしい。


星里奈 「りんがいたから後回しになっていたが、やはり人との試合もしたいしな」


星里奈 「それに、実家の道場もしばらく掃除できていない。今日から数日、私も蒼森の家をあける」


渚沙  「そ、そっか。家のこともあるもんね……」




星里奈 「なにか困ったことがあれば連絡してこい。……また新学期に、学園でな」


    そう言い残して、星里奈も家とは別方向へ去っていった。

    そして、俺と渚沙は二人きりになった。


渚沙  「みんなまっすぐ帰らないのねぇ」


涼太  「俺たちはどうする? どこか行くか?」


    自分で訊いてみたものの、渚沙の答えは訊かなくてもわかる気がした。


渚沙  「んー……特に行きたいところもないから、家に帰るでいいんじゃないかしら」


涼太  「じゃあ、帰って家でのんびり過ごすか」




渚沙  「賛成~」


    俺たちは、二人きりで元来た道を引き返す。

    子供の頃から歩きなれた道を、二人並んで。

    子供の頃とは違う、肩が触れ合うような距離感で。

    ……どちらからともなく、手を繋ぎ合いながら。

    (to be continued…)