タイトル : 「す ご い は ぴ ね す ! S S」
 作 者 : 【プロ枠】ARM様(ライター)

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「失くしたぁ?」
「う、うん」
「魔法杖(マジックワンド)の『ソプラノ』を?」
「う……うん」

 それは、一時限目が終わって直ぐ、我が瑞穂坂学園魔法科が誇る天才魔女“プリンセス”神坂春姫サンが席を立って慌てだした
コトに始まった。

「いつもかさばるんで、この間習った物質の量子虚数を利用した伸縮魔法の実験も兼ねて小さくして机の上に置いていたんけど、
ちょっと目を離していたらいつの間にか……」

 神坂サンは困ったふうに笑う。
 質量保存の法則に縛られた伸縮魔法の、並みの魔法使いでは詠唱すら到底無理な難易度の高さなど気にもしないでいるその
笑顔の所為か、とても本気で困っているようには見えない。
 むしろこの困った状況を楽しんでいるようにさえ見える。 天才とは深い存在なのだろう。

「つか、さ」
「?」
「魔女に取って命の次に大切な魔法の道具を――魔法杖は魔女が魔女たらしめるアイディンティティそのものじゃないか!
何でそんな大切なモノになんてコトするんだよ?」
「そ、そんな大げさな……」
「何をおっしゃるウサギさん。 魔女には魔法杖、魔女っ娘には変身アイテム、眼鏡っ娘には眼鏡、バニーさんには網タイツ、
新婚初夜の翌朝の新妻には裸エプロンと、どれも宇宙開闢以来神が定めた必須アイテムなんだから! もっと大切にしないと!」
「な、なんかそれ、もの凄く偏ってるように聞こえるんだけど」
「偏りオッケイ! それこそ男の浪漫よ、なぁみんな!」
「「「おうよっ!!」」」

 俺の熱き問いかけに、クラスの男子どもも声を揃えて魂の底から応えてくれる。 くぅぅっ、泣かせるぜ。

「……ったく、バカばっか」

 そんな、俺を含める野郎どもを見て、神坂サンの隣にいた柊杏璃が呆れたふうに肩をすくめてみせた。

「バカとは何だバカとは。 バカ言うヤツがバカなんだぞ」

 相変わらず可愛げのない女だ。 少しは神坂サンの爪の垢でも煎じて飲め。

「ヤよ、ばっちい」


何故俺の心が聞こえてますかキミ。

「……ふっ。 そんな顔していれば、だいたい考えているコトは判るわよ」
「残念でした。 俺が考えていたのは爪の垢を煎じて飲め、などではない」
「じゃあ、なによ」

 勢いで言ってしまったとはいえ、負けず嫌いが同じ負けず嫌いに妥協出来るべくもない。

「俺が思っていたのは、柊に、」

 以下256秒間に渡り、柊に対してセクハラという言葉など生ぬるい仮想凌辱の数々をぶちまける俺。 即興で吐いたとはいえ、
あまりのエロスぶりにちょっと勃っちゃったのはキミとボクとの秘密だ。
 まだまだ言い足りなかったのにも関わらず、エロエロマシンガンが257秒を越せなかったのは、俺の胸の辺りで突然、
小規模ながら、人一人を天井に叩きつけられるほどの爆発が起きたためである。
 無論、人一人というのが俺であるのは言うまでもない。 神坂サンを始め、他の連中は柊の詠唱に気づいて
さっさと避難していやがった。 オゥシット。

「こ、こ、こ――――こおぅっのぉっ、エロゲ脳男がぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!」

 柊怒りの一撃に吹き飛ばされた俺は、天井に顔面からぶつかり、人間クレーターをそこに穿ってから後、また頭から、
ゆっくり床に落ちる。

「こ……このアマぁ……」
「凄い、凄い、杏璃ちゃん、爆発魔法の威力セーブ出来てる」

 神坂サン、もっと他に言う事あるでしよう?(涙)

「人間、殺す気でやれば何でも出来るのよ……」

 柊は、据わった目で俺を睨み付ける。 先生、それは、殺す、ではなく、死ぬ、が正しい日本語の使い方だと思います。
……怖っ。 ここら辺でからかうのを止めないと、今度こそボク、このツーテールのキラークイーンに爆殺されてしまいます
父さん母さん。

「――だいたい春姫、あんたが魔法杖無くすからこんなセクハラエロゲ脳がいい気になるのよ!」

 柊は勢い余って、その怒りの矛先を神坂サンに向け始めた。

「いや、それとこれとは別じゃないかと……」
「同じよ同じ! 信じられないわよ、授業中に無くすフツー? あんたの躾がなってないから勝手に魔法杖がいなくなったりするのよ!」
「んー、ていうかむしろ私のほうがソプラノに躾けられているような……」
「じゃあ、魔法杖に見捨てられたのよあんた」

 ぴしっ。 笑顔の固まった神坂サンの背景に無数の縦線が降る。(注:イメージ映像)

「そ、そんなこと……な、無いわよ……」
「じゃあ、なんでいないのよっ!?」
「そ、それは…………」

 神坂サン、意外と押しに弱い。

「――見捨てられたんじゃなければ、どこに行ったって言うのよっ!?」
「そ、それは…………」
「問い詰めたって何の解決にもならんだろうが」

 アホらしくなった俺は神坂サンに助け船を出した。

「神坂サン、本当に教室で無くしたかどうかもう一度思い出してみてよ」
「あ……」

 神坂サンは必死に思い出そうとうんうんと唸る。 本当、真面目な優等生だよ。 どこかの……

「誰が――」
「柊先生、何でもなイです、はイ」

 何だかんだ言っても死のギリギリ感を楽しんでいる俺がいる。

「……どうしたの」
「「「うわっ!? 小雪先輩いつの間にっ!?」」」
「んー。 なんかさっき校舎を揺さぶる衝撃と共に、屠殺場の豚の断末魔みたいな声が聞こえてきてね、楽しそうだったから来てみた」

 失礼な。 あなたを心の底からお慕い申す純真無垢な後輩が、爆弾女の魔法で天井にぶつけられた時の悲鳴がブタですか
そうですか。 ぶぅ(涙)

「なにがあったの?」
「あ、実は、神坂サンの魔法杖が突然失くなっちゃって……」
「ふぅん。 そうなんだ」
「そうよ! 小雪先輩にソプラノの行方を占って貰おうよ!」

 ナイスアイディアだ柊杏璃。 やれば出来るじゃないか。 まぁ俺も小雪先輩の顔見た時点で同じコト思いついていた訳だが。
 確かに占いが得意な小雪先輩なら、一発で見つけられるはずだ。

「お願いします、小雪先輩」

 神坂サンはぺこぺことお辞儀してお願いする。 どうやら本気で困ってきたらしく、笑顔を作る余裕も無くなってきたようだ。

「んー。 判った」

 そう言って小雪先輩は、背中のほうから、何処にそんな人の背丈ほどはあろう大きなそれを隠し持っていたのか、愛用の魔法杖
『スフィアタム』を引き出してきた。
 そしてそれを床の上に突き立てると、小雪先輩は目を瞑り、ゆっくりと、呟くように探索魔法の詠唱を始めた。
 その威風堂々たる姿にクラスの全員が見惚れて声を無くしてしまったその時、小雪先輩の目が突然、かっ、と見開かれた。

「…………ここかな」
「どこ?」
「うん」

 と言って小雪先輩が指したのは、

「…………小雪先輩もエロゲ脳?」

 なにを言い出しますかこのアmもとい柊嬢。
 ていうか、思わず現実逃避している俺。
 それほど、小雪先輩が指した場所は衝撃的なものだった。
 ぶっちゃけると、俺の股間。

「なんですとぉぅ? 高峰小雪殿ご乱心ですぞぉ!?」

 俺や小雪先輩のファンでもあるクラスメートたちの困惑を他所に、小雪先輩は俺の股間を指したまま首を横に振った。

「だって、なんかそこ入ってそうだし」
「こ、これは、さっきのエロエロトークの名残というか思春期真っ盛りな青少年男児の哀しい生理現象ですっていうか――なにゆえ
まだ勃ったまま――――っ!?」

 そんなっ? 小雪先輩のはち切れんばかりにエロエロな魔法科制服姿を想像するだけでご飯が3杯頂けるココロトキメキストな
ボクちんですが、ていうか、こんな公衆の面前で、こんな破廉恥極まりない事などっ!

「……あんたさっき、あたしに何言ったかお忘れ?」

 うるさいうるさいだまれだまれこのツーテールキラークイーン。

「だ、だけどっ」

 神坂サンまで顔を赤らめて俺のビ〜ックビックビックビックガメラな股間を指すしっ!

「って――な、なんじゃこらぁっ!?」

 一瞬、確かに俺に名優・松田雄作の魂が降りてました。
 つか、なんだとっ! 俺のデンジャラスゾーンがみるみるうちに巨大化していくっ!
 まるで嘘を吐いた罰で伸ばされているピノキオの鼻が如くっ!

「こ、この、エロゲ脳野郎がぁ――――っ!!」
「ご、誤解だっ――――あ゛?!」

 柊が俺に殴りかかってきたその時だった。
 突然、テントを張っていた俺のスボンが炸裂し、その中から何かが閃いた。

「――うわっ?! なんで俺の股間から、神坂サンが魔女であらんがために大切なアイディンティティ、ソプラノがこんにちわっ?!」

 ボロボロに破れた俺の股間から、パプアニューギニアに住む原住民族の男がつけるペニスケースよろしく、神坂サンの大事な
魔法杖が顔を出しているではないか?!
 だが、それ以上に俺を驚かせたモノが目の前にあった。
 ふわり、と布が舞う音が辺りを一瞬支配する。
 勢いよく飛び出したソプラノの先が、俺の目の前にいた柊のスカートをたくし上げていた。
 拳を突き出したまま固まる柊は、クラスの全員に、自らの水色縞パンを晒していた。

「………………!?」


柊は口をぱくぱくさせながら、ゆっくりと顔を赤くしていった。

「……柊。 なかなかクールな縞パンじゃないか」

 思わず言ってしまう俺。 忌憚のない率直な感想だった。
 無論、頭が混乱していなかったら、決して口になどしなかっただろう。


「ソ、ソプラノ? な、なんであんな……な、所に……」
「いえ、別に春姫がちゃんと仕舞ってくれなかったから、床に落ちてあの方の足下まで転がってしまったとか、授業そっちのけで
あの方の事を気にかけて上の空だったために、転がった事すら気づいて貰えなかったのが悔しかったとかそう言う訳ではないわよぉ」
「ちょ、ちょっと(汗)」
「ましてや、私は、春姫が気にかけている殿方の事を調べる良い機会だと思い、やがて春姫がその身に受け入れるかもしれない
あの殿方の身体的レベル、ぶっちゃけ 大 き さ なんかを調べてみようとしていたなんて、そんな、そんな」
「……ソプラノ。 もしかして実験で小さくしちゃった事、怒ってるの?」
「あーら。 何のことかしら? ほーっほっほっほっ」
「……はぁ。 ………………ゴメンね」

 俺は、溜息混じりにこちらをみて、小さな声で謝る神坂サンには気づいていなかった。
 ブチ切れたツーテールキラークイーン(仮名)の爆発魔法で吹き飛ばされ、黒板にクレーターを生じてめり込み気絶している俺が、
神坂サンとソプラノが何を話しているかなんて知るよしもなかった。

*  *  *  *  *  *  *

 ……ああっ、しまった、これでは、『「すごい」はぴねす!』SSではなく、『「むごい」はぴねす!』SSではないかっ<マテ


おわり
 

 
注:この物語は『ARM』様の想像力でお送りしました!