タイトル : 『パエリア爆誕』
 作 者 : 【アマ枠】外道 増太様

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<1>

 ごろごろごろごろ・・・・・・。
 キャッチボールをしていた野球部員は。
 準備運動をしていた陸上部員は。
 ゴールを移動させていたサッカー部員は。
 その異音の音源に目を丸くした。
 放課後の瑞穂坂学園、運動場。
 その縁を少女が台車を押して歩いている。
 台車には段ボール箱がたくさん。
 何か重いものでもつんでいるのか? 台車の真ん中がゆがんでいる気がする。
 少女の服は一般の学生服とは明らかに異なっていた。 誰かがつぶやく。

「・・・コスプレか?」
「・・・普通校内でするか?」
「魔法科じゃないの? 背中に竿しょってるし」

 そして何より彼女が異様だったのは。

(がぶり)むっしゃむっしゃむっしゃ・・・
(がぶり)むっしゃむっしゃむっしゃ・・・

「て、手羽先食ってる・・・」
「ていうかどこで買ったんだよ・・・」


<2>

 「魔法使い」を養成する学校、瑞穂坂学園魔法科。
 普通魔法使いというのは魔法を使うための杖−ワンド−を所持している。 ワンドは各人一人々々の性質・性格に合わせて
作られるのが普通である。
 瑞穂坂学園では新入生はまず、いわば『仮免許』として何の変哲もない棒をもらう。 そして1学期の間に生徒の個性を
入念に調べ、2学期になってようやく自分専用のワンドが渡される。 これで初めて一人前の魔法使いとして認識されるのである。
 ちなみに杖は当然オーダーメイドであるため、普通作ってもらうと結構な値段になるはずだが、瑞穂坂学園は入学した
魔法科生徒全員にワンドをプレゼントしていた。 多分にわれわれの世界でも生徒全員にノートパソコンをあげる大学も
あるぐらいだからそんな感覚だろう。

 さて。
 各生徒に渡されるワンドは校内の1室で作られていた。 学校構内の外れ、陶芸窯の隣に建てられた、石造りの建物。
 空に伸びた煙突からは煙がもくもくと湧いている。 煙の色が時々変わって紫色になったり黄色になったりするのが
怪しさ大爆発である。 ちなみに本来は錬金術の実習室に使われている。
 台車押しながら手羽先を食ってた少女はこの建物の前で止まった。 目の前には重そうな鉄製の扉。 台車から手を離し、
食べ終わった手羽先を油紙で出来た袋−なんか先がアルミホイルで包まれたものがまだ5〜6本見えるが−にもどす。
 袋を台車のダンボールに置き、扉の前に立つ。 ゴンゴン、ノックは2回。

「2年魔法科、高峰小雪。入ります」


<3>

 錬金術実習室の中は結構な広さである。 部屋の中央には大きな『炉』が鎮座。 炉の上にはこれまた大きな−直径1m、
高さ3mはあるか? 巨大な甕(かめ)がこれまたデンとおかれている。 炉の右となりには足場が組まれている。
 2m以上はありそうな長い棒が足場に立てかけられているから人間があの棒で甕の中身をかき混ぜるのだろう。
 甕と炉の周り、建物の壁際には今度は小さな炉が3面−右・左・奥にずらりと設置されている。 ほとんどの炉の上には
小さな甕が置かれており、現在中央のものも含めてすべてに火がともっていた。 甕の中身はごぼごぼと音を立てて、
時折甕から怪しい煙が立ち昇っている。 外で見た変な色の煙の正体はこれだろう。
 しかし小さい甕の下にある炉はどちらかというと竈というか寄せ鍋とかに使う卓上用のコンロみたいである。 そして木の蓋が
上におかれて、時折吹きこぼれが見える甕。 そう、これは錬金術というより。

「峠の釜飯・・・(じゅるり)」
「小雪さん、頼まれたものは持ってきました?」

 魔法科の錬金術担当の先生は大きな甕の後ろから現れて小雪に声をかけた。

「はい・・・オリハルコン、ガマニオン、星砂粉(スターダストサンド)。 確かにお持ちしました」
「はい、ご苦労様。 荷物は降ろさなくていいから台車ごと中に入れといて」

 先生は小さい甕を一つ一つ覗いていく。 甕には何か名前が書かれてる。

「うーん、生徒ごとに違う材料が必要なのがつらいところよね〜あ、がまの油がまの油っと」

 ぽちゃん。
 先生は懐から小瓶を取り出すと中身を小さな甕の一つにたらした。
 白い綿アメのような煙が一瞬出現し、また元に戻る。

「(がぶりむっしゃむっしゃむっしゃ)タマちゃんもこうやって生まれたのね」
「ご主人様お行儀悪いですよ」

 小雪の背中のワンドが突っ込みを入れる。

「で・・・小雪さん。あなたは今何をしているのですか?」

 小雪はいつの間にか片手に例の油紙の袋、もう片方で手羽先を握っている。

「(がぶりむっしゃむっしゃむっしゃ)ニワトリの手羽先を食べてます。 外の屋台で一本100円で売ってました」
「買い食いしながら作業を除くなんて失礼だと思いませんか?」
「(がぶりむっしゃむっしゃむっしゃ)皮はぱりっとしした食感で、中の肉はそれでいてジューシー。 とても100円とは思えません」
「いやあなた先生の話を聞いてますか?!」
「(がぶりむっしゃむっしゃむっしゃ)先生もお一ついかがでしょう?」

 ずい。

 いつの間にか先ほどの手羽先は骨だけになり袋にしまわれている。 小雪は先生に代わりの手羽先を目の前に突き出した。

「いやそういう問題じゃなくて・・・」
「どうぞ」

 ずい。
 ずい。
 ずずずずずずずいっと。
 小雪は手羽先を突き出したまま先生ににじり寄る。

「・・・いただきましょう」
「どぞ」


<4>

「(むっしゃむっしゃむっしゃ)先生今何本ぐらい出来ました?」
「(むっしゃむっしゃむっしゃ)10本ぐらいかな。 出来たのはほら、そこに」

 大きな甕の裏側には細長い木箱が積み上げられていた。

「(むっしゃむっしゃむっしゃ)あの中に入っているんですね、一年生たちのワンドが。 タマちゃんもああやって私のところに
来たのでしたね」
「ご主人様・・・ボクにも手羽先食べさせてください」

 背中の竿−小雪のワンド「スフィアタム」が主人たる小雪に非難の声を上げる。

「(むっしゃむっしゃむっしゃ)タマちゃんはこちらで我慢なさい」


 小雪は食べかすの鳥の骨をタマちゃんに押し付ける。

「いやボク犬じゃないんですから」
「(むっしゃむっしゃむっしゃ)主人に忠実な人は犬と呼ばれるのですよ。 だから私に忠実なタマちゃんは犬。
そして犬の好物は動物の骨」
「ご主人様ひどすぎます〜」
「(むっしゃむっしゃむっしゃ)どこをどうやったらそんな論理になるのやら」

 ひたすら手羽先を立ち食いしている2人。 お行儀が悪い。
 気がつけば二人の手羽先はもう骨だけになったようだ。

「あんなにあったのに、ボクはとうとう食べられませんでした・・・しくしくしく」
「もっと買っておくべきでした・・・」
「いやあなた6本も手羽先買ってて全部食べちゃったんですか?!」
「先生ここはゴミ箱ないですか?」
「小雪さん、先生の話も聞きましょう・・・う〜ん、奥の準備室にしかないなぁ」

 小雪は鳥の骨が入った袋を手に、壁際の小さな甕が並んでるところに行く。 甕はふたの開いているもの、閉まっているもの、
既にワンドの材料として取り出されたのか中身がないものまで千差万別だった。
 小雪はその中のふたの開いているか目の前に立ち、中を覗いた。
 甕の中は得体の知れない液体で満たされ、ぶくぶくと泡立っていた。 小雪は中身を見て小首をかしげる。

「先生、魔法の触媒は何でもありえるって話されてたことがありますよね?」
「ええ。 身近なものでも魔法の発動に使うと意外な効果が・・・って、え?」

 小雪は先ほどの鳥の骨が入った袋を甕に向けた。そして・・・。


 どぽどぽどぽ。

「ま¨〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」 
「鳥の骨なんてどうでしょう?」
(ばくばくばくばく・・・)←声にならない
「きっとおいしそうなワンドになりますわ」

 袋をたたみにっこりと微笑む小雪。
 アスキーアートの「orz」のようにがっくりとうなだれる先生。

「けどご主人様。 これって単にごみを処分するための言い訳では」
「タマちゃん。 タマちゃんはいい子ですから私のする事に賛成ですね?」

 といいつつ背中のスフィアタムを外すやいなや先っちょの緑色の玉を大きなほうの炉にかざす。

「あ¨ぢぢぢぢぢぢぢぢ!! ご主人さまぁ〜っ」
「それでは先生。 これで失礼いたしますわ」

 小雪はそういうとスフィアタムを持って扉の前に移動した。 扉を開け、外に出る。 最後に扉から顔だけ出して、一言。

「きっとそのワンドはいい子になりますよ。 では!」
「あ・・・、あ、そうね・・・」

 小雪が去ったあと、先生は小雪が鳥の骨を入れてしまった甕を除く。 中は相変わらず奇妙な色をした液体で満たされていた。
 外見だけ言えば、おかしいところは見受けられない。 先生は甕に書かれていたこれを材料としたワンドの将来の所有者の
名前を確認する。

「あら、この子は・・・、ま、まぁ、少々個性的な子(ワンド)になってもあの子なら使いこなせるでしょう」


<5>

 2学期初め。 1年生全員に専用のワンドが手渡された。みんなが思い思いにワンドをかざしたり持ってみたりする中で、
一人首をかしげている子がいた。

「先生、このワンド、なんかちょっとだけ焼き鳥の匂いがするんですが」
「あ、あらそう? 気のせいじゃない?」
「しかしこの羽・・・なんか羽というにはぱりっとしててどちらかというと皮みたい」
「ぬぅ、わしに不満があるとでもいうのかのう?」 
「わっしゃべった・・・、というか、おいしそう」
「おいしそうとは・・・また変わった感想を言う娘じゃな、ってなにするんぢゃ〜!!」

にぎっ←羽を鷲?み。
ぶちぃっ!←羽を引きちぎる
もぐもぐ←食った

「お、おいしい〜!!」
「い、いきなりなにするのぢゃ!!」
「よし、気に入った! あんたを私の相棒として認めてあげる! え、え〜と・・・と、とりあえず、『名無しのワンド』!」
「おぬしが名前を付けるんじゃ! ・・・ちゃんとした名前をつけてくれるかのぅ・・・」

 ちなみにこの子の名前は柊杏璃。 ワンドは後にパエリアと名づけられる。

「わしゃ炊き込みご飯か・・・」


(了)
 

 
注:この物語は『外道増太』様の想像力でお送りしました!