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タイトル : 『日々の欠片』
作 者 : 【アマ枠】詩月 空様
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天気の良い昼下がり。
こんな日はゆっくり昼食をとって昼休みを満喫したいものであるのだが…。
「春姫〜。 今日こそ決着つけるからね〜」
いきなり近場で柊の声が聞こえてきた。
「杏璃ちゃん、そんな事言わないでください」
何とかなだめようとしている神坂さんの声も…。
相変わらずの柊の行動に、既に慣れてきている自分が少し嫌になってくる。
そう。思い返すとあの日からだよな…。
*
「いただきます」
いつもどおりの時間に起きていた俺は目の前の朝食を食べ始めていた。
トントントン…
「兄さん起きて下さい。 朝ですよ〜」
俺の部屋の方から妹のすももの声が聞こえてくる。
ちなみに自身はすでに起きており、こうして朝食をとっている。
「あ、あれ? いない…」
トタタタ…
『ん?やっと気づいたか』
ガチャリ
リビングへと入ってきた人物を確かめるまでもなく、
「おう。 すもも、おはよう」
妹に向かって朝の挨拶をする。
「へ? 何で兄さん起きてるんですか?」
一方のすももは目の前にある光景に、まだ目を疑っているようであった。
「いや何でって言われても…。 もう起きてなきゃ遅刻しちまうだろうこの時間じゃ」
そう言って近くの壁掛時計に目を送った。
すでに8時10分前。 我家から学園までは歩いて25分はかかる。
「はわわ〜。 い、いつの間にこんな時間に〜!?」
時計を見て驚いたすももはさらに混乱し始めたようだ。
「とにかく飯を早く食べたほうがいいぞ。 朝食抜きだとさすがにきついだろ」
最後の一口を食べ終えると、すももに一言いって席を立った。
俺の一言に我に返ったのか、すももは席に着くと食べ始めた。
『全く…。 平日は概ねこんな感じだな』
軽くため息を吐くと部屋に鞄を取りに行くためドアノブに手を掛けた
「あ、兄さん。 そういえば今日から魔法科の人たちと一緒になるんですよね?」
「ん? ああ、確かそうだったような…」
魔法科。 …俺たちの通う学園には、普通科の他に魔法科と呼ばれる科が存在している。
その名のとおり魔法を扱える素養のある人物だけが通える科であり、
普通科に通う俺たちにとってはほとんど縁のない学科であった。
だが、先日その魔法科の校舎の一部が突然謎の爆発によって壊れてしまったため、
臨時的な措置として俺たちのいる普通科に併合される事になったのだ。
「楽しみですよね。 一体どうなるのか」
すももはいかにも楽しみ。 といったオーラを発しながら微笑んでいた。
「確かにな…。 それはそうと、早く食べないと本当に遅刻するぞ」
現在8時5分前…。 制服には着替えているが
すももの食べるのにかかる時間を考慮すると完璧に遅刻すると思える時間だ。
「俺も遅刻はできないから先に行くぞ。 お前も遅れるなよ」
リビングを出るとすぐさま鞄を部屋に取りに行きその足で家を出た。
「ちょっと兄さん。 待ってよ〜」
後方からすももの叫び(?)が聞こえてきたが、
さすがに俺も朝から余計な体力は使いたくないので無視して学園へと向かった。
現在8時25分。
8時半までにこないとこの学園では遅刻となる。
余裕とまではいかないが遅刻を逃れることができた俺は昇降口にいた。
『すもものヤツ大丈夫かな…』
そんなことを考えながら廊下へと向かうと、そこに杖(?)を持った女性が歩いていた。
確かに今日から魔法科が併合されるとはいえ、いきなりその魔法科の生徒に会うとは…。
「…!」
『うん?』
目の前にいた女性が何かに引かれたようにこちらへと振り向いて向かってきた。
「…って、俺の前かよ…」
思わず声が出てしまったが、その人は聞こえてないかのように俺の前まで来て止まった。
「……(じ〜っ)」
『何故か俺のことを見てるし!?』
しかもかなり凝視されていた。
その視線に耐えられなくなってきたので声を掛けた。
「あの〜…俺の顔に何か付いてますか?」
それでもいっこうに止めない、というか止める気配がない。
「…………付いてますよ」
「えっ!?」
俺をじっと見たままその人は言った。
「な、何が付いているんですか?」
とりあえず朝、鏡で見たときには何も付いていなかったはずだ。
『葉っぱか何かだろう…』
しかし予想を覆すとんでもない返答が返ってきた。
「…かなり面白い相が。 くすくす、これからしばらくの間とんでもない騒動に巻き込まれますね」
にっこりと微笑みながらとんでもないことを言うと、踵を返して廊下を歩いていった。
あっけにとられた俺はその場で立ち尽くしていた。
後で知ったことであるが、このとき会っていたのが不幸な予言的中率100%という高峰小雪先輩その人だった。
……〜ン、コ〜ン…
「あっ!」
鐘の音に気づいた俺は教室まで走っていった。
*
今思えばあの時の小雪先輩の占いがズバリ的中。
あの後で教室に何とか駆け込み朝のHRに間に合った。
そして併合された魔法科から神坂さんが同じクラスになって、今眼前に広がる光景が…
「…って、何で俺の席の前で口論になってるんだ!!」
まさにトラブルメーカー柊 杏璃…。 更にはトラブルに巻き込まれるのは俺になる確率が高い。
ゆっくりと昼食をとるという願いは果てたようだ。
「う〜ん、しょうがないんじゃない? だって杏璃ちゃんだし」
「つ〜か渡良瀬、お前までもが何ゆえ俺の近くにいるんだ」
いつの間にやら俺の隣にいる悪友…。
ちなみにこいつと柊の相性はある種、最悪と言ってもいい。
「そんなことは気にしちゃ駄目でしょ。 それよりいいじゃない面白いんだし(杏璃の暴走が)」
と言い終わるのが早いか否か、渡良瀬の言葉を聞き取った柊が神坂さんそっちのけで俺の方へ向かってきた。
『あ…、ヤバイ』
そう本能が告げている。
ただ、周りの状況から考えて退路は無いようだった。
「ちょっとあんたね、聞こえてるんですけど!!」
柊の様子を見てみると、顔は笑っているがはっきり言って殺気しか感じ取れない。
「それはそうでしょ。 あたしは杏璃ちゃんに聞こえるように言ったんだから」
にっこり笑って返答する渡良瀬の言葉は、
「…ふ〜んそういうこと」
既に臨戦態勢に入りかかっている柊に油を注いだだけのようであった。
ちらっと柊の後ろを見てみると、神坂さんが心配そうにこちらを見ていた。
それにも気づいていたのか
「ほらほら春姫ちゃんも待っているみたいだし早く決着付けちゃえば?
それとも、今回も相手にされなさそうだから憂さ晴らしにあたしのところに来たのかな〜」
…焚きついていた柊はついに口ではなく手を動かした。
「こ〜〜の〜〜、く・さ・れ・オカマ〜〜〜〜っ!!」
声と同時に繰り出されたパエリアを使った一閃。
そして使用者はトラブルメーカー柊 杏璃…。
さらに柊の起こすトラブルは高確率で
「俺のところに来るんだよ…」
バシッ!!
見事に顔面へのクリーンヒット。
やっちゃったという顔の柊とニヤニヤと笑っている渡良瀬、そして駆け寄ってくる神坂さんの姿が見えた。
『今度小雪先輩に、あの占いの有効期限でも聞いておこうかな』
薄れていく意識の中でそう言うと、俺は完全に落ちたようだった。
*
後日聞いた話によると、あの後俺の介抱をしてくれたのは神坂さんと柊だったらしい。
焚きつけるだけしておいて、渡良瀬の奴はただ俺を殴った柊を茶化していたそうだ。
まあ、柊も柊で悪いと思えばちゃんとその後の対応はしてくれたようだ。
確かに受難の日々は続いているけれど、こう騒がしい毎日を送れるというのも貴重なものなのかな。
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