タイトル : 『未定』
 作 者 : 【アマ枠】白銀の風様

------------------------------------------------------------
 
「ふふふふふ、もう逃げられませんよ?」
 
何でこんな事になっているんだ。
今日は特に何も事件もなくまったりと平穏に過ごせた筈なのに!
 
********************************
 
――瑞穂坂学園:教室・放課後
 
今日は珍しく柊はトラブルを起こさなかったし、神坂さんに絡むこともなかった、すももはずれた行動をしなかったし、
上条兄が現れることもなく、準が誰かに抱きつくこともなかった。
つまり八に被害が及ぶこともなかった訳だが(なんだか寂しそうなのは気にしないでおこう)。
しばらくぶりに訪れた平穏! 嗚呼、夕陽が心にしみるぜ……。
こんな日は滅多にあるものじゃない、誰かに絡まれる前にちゃきちゃき帰るに限る。
 
――瑞穂坂学園:2階廊下
 
「…………」
 
廊下に出たとたん俺は思い知った。
……最大の難関が未だ残っていた事に。
 
「こんにちは雄真さん」
 
そう、まるで待ち構えていたかのように(実際待ち構えていたんだろうが)扉を開けた目の前に立っている小雪先輩。
その輝かしいほどの笑顔を見たとたん、自分に平穏な日々が訪れることがないと悟った。
 
「さて、そうですねぇ」
 
そんな自分の葛藤は余所に、小雪先輩は教室の中を覗き込む。
 
「神坂さんと、柊さんちょっと来て貰えますか?」
 
――ビキッ!
楽しそうな小雪先輩の呼びかけを聞いたとたん、今まで雑談していた神坂さんと柊からそんな音が聞こえたような気がした。
そう、楽しそうな小雪先輩ほど危険なものはないのだから。
――ダッ!!
二人は小雪先輩から逃走を計る!
その判断は正しい。
しかし、それも徒労に終わるだろう。
何故なら、廊下いっぱいに先輩のマジックワンド『タマちゃん』の玉の部分が大量に浮いていて逃走ルートを塞いでいるのだから。
というか、これが無ければ自分も逃げている。
 
「逃げようとするなんてひどいですね?」
「な、何で私達まで捕まえるんですか! 雄真だけでいいじゃないですか!!」
 
いや柊、俺は生贄の羊ですか?
 
「杏璃ちゃん。 それはちょっとひどいと思う」
 
さすが神坂さんだな、柊とは大違いだ。
 
「そこ! 何か言った?」
「……イエ、ナニモイッテマセンヨ?」
「そうですね、二人を選んだ理由ですけど……」
 
こちらの言い分をまったく聞かず小雪先輩は話をすすめる。
 
「占った結果です」
『……ワァ、サスガコユキセンパイデスネ』
 
俺は二人に目配せをする。
二人ともこちらが何を言いたいのかわかってはいる様だ。
むしろ、この状況ですることは一つしかない。
 
「柊! 神坂さん!!」
 
俺の号令と同時に二人は行動を開始する。
自由を求め再び逃走という名の戦争へ!
柊の魔法がタマちゃんを吹き飛ばし、神坂さんの魔法が先輩を牽制する!
 
「ははは、何処へ行くと言うのかね?」
 
……いや、そのネタは危なすぎるから先輩。
 
廊下を全速力で駆け抜け、階段を飛び降りる。
後は昇降口まで一直線!!
――しかし。
 
「逃げるなんて酷いですね」
 
目の前には小雪先輩。
 
『なんで!!!?』
 
思わずはもる神坂さんと柊。
さすがは小雪先輩というべきか、神出鬼没だ。
というか毎回この人はどうやって移動してるんだろう。
 
「ふふふふふ、もう逃げられませんよ?」
「……あきらめた方がいいですよ? 今日のご主人様は絶好調ですから」
 
なんだか既に悟ってしまっているタマちゃんがそう提案してくる。
いや、絶好調だから怖いんだけどな。
二人もそれを聞いて真っ青になってるし。
 
「ソプラノ!」
「はい!」
「パエリア!」
「うむ!」
 
二人は小雪先輩を力ずくで突破する道を選んだようだ。
 
――ゴッ!!
二人の魔法によって激しい光と爆音が吹き荒れる。
 
「ふふふ、まだまだ甘いですねぇ」
 
しかし、小雪先輩は何とも無いようだ。
と言うか、俺の真後ろから声がするのですが……。
 
「えー、つまり小雪先輩は幻覚魔法で俺らを足止めしてゆっくりと歩いてきたわけですね?」
「ぴんぽ〜ん」
 
――バシュッ!!
先輩の台詞とともに後ろから光の帯が俺達を拘束しようとする!
と、そこに通りかかるは歩く避雷針もとい我等が救世主!
その名は高溝八輔!!
 
「高溝君!」
 
神坂さんが助けようと一歩前へ出る!
が、俺はそれを止めて叫んだ。
 
「ハチ! 後は頼んだ!!」
「へっ?」
 
ハチを盾にするように、神坂さんの手を引き脱兎のごとく走る。
柊が小雪先輩が追ってこれないように校舎を崩す。
 
「ぎゃーー!!!!」
 
こうしてハチの悲鳴を残して俺たち3人は小雪先輩から逃げ切った。
 
――瑞穂学園:校門
 
「あの〜。 高溝君置いて来ちゃって良かったんでしょうか」
「大丈夫よ。 あいつ体だけは頑丈だし、小雪先輩相手でも生き残れるわよ」
「そうだな、あいつはトラブルを楽しんでいるようなところもあるし」
 
小雪先輩から逃げ切った俺たちはそのまま帰途につき、俺は今日の平穏を取り戻したのだった。
 
次の日、ハチは何故か屋上で守衛さんに発見された。
発見した守衛さん曰く格好はまるでボロ雑巾、しかし顔色は妙につやつやしていたと言う。
なお、小雪先輩につかまったあとの記憶はハチには残っていなかったため、ハチに何があったかは永遠の謎である。
 
ただ、小雪先輩の肌が前よりも瑞々しくなっていたのは此処だけの秘密。
 
 
続く(嘘です)
 

 
注:この物語は『白銀の風』様の想像力でお送りしました!