タイトル : 『未定』
 作 者 : 【アマ枠】naorin様

------------------------------------------------------------
 
魔法がある。
 
人が経験的に得る力の相関関係を真似てシステム的に構築されるものではない。
すべては生得的で持ちえている。
これから聞かせるのは、無から有を生み出せる神秘なんかじゃない。
魔法を非難するからといっても魔法を否定するわけじゃない。
今、私が憂える私たち魔法使いを取り巻く環境をなんとかしたいから。
魔法は神秘じゃない。
魔法は生得的なもの。 魔法は心。 それぞれが持つ本性を意思で統一すること。
神秘なんていう教義が魔法を行使できない人間から魔法全体を拒絶されるし魔法科なんていう制度に隔離されてしまう。
魔法使いから魔法使いが生まれて、そのまた孫ができて。
いつしからか跡継ぎが世の中を席巻していくうちに、心の意味を真実から遠ざけたみたい。
マジックワンドが便利すぎるのも問題のひとつだろうけど。
「・・・?」
まさか! 私はマジックワンドをなくせとか、嫌いとかそんなことは微塵もない。
私は、心から私のワンドを愛してる。
誤解のまま違えた道を歩むことになればいずれ魔法使いを巻き込んで絶滅してしまう。
なのに、ホント一部の人間は魔法使いを否定してる。
そのまた逆も叱り。 清浄な心が神秘と。 一部の魔法使いは説いてる。
 
魔法は二種類。
ひとつは、自分の世界、心から世界に語り掛けること。 世界の精霊と会話すること。
でも心は透き通ったガラスじゃない。
憎しみからくる正義とも、名誉から来るおごりとも、人にはいくつもの善とも悪ともとれない感情が混ざってる。
神秘を信じてる魔法使いは誤解してるけど、精霊たちと正しい心で会話することなんてできない。
精霊との会話で力を得ようというもともとの衝動の根源に、従属させるという悪意があることを知っているから。
神秘説の魔法使いは、清浄な心と等価に力を得ることを信じて疑わず、
清浄な心の行いの元世界の精霊の仕組みの探求に没頭した。
魔法体系の構築の始まり。 その成果は、精霊の酷使でしかなかった。
このままじゃ、精霊に語りかけるためのコトバは、魔法使いの中でかすんで忘れさられてしまう。
だったら私がやることはひとつ。
未熟な自分を知る勇気を込めて、どーんと自分がしたいことを精霊に願うの。
お願い、力を貸してって。
それが私の魔法。
ふたつめは心と心を結ぶこと。
人間は世界へ向けて、コトバを語ることしかできない。
悲しいけど、心を超えるコトバは世界にしか伝達する能力を持たない。
でも、強い想いを世界を通じてコトバで伝えたとき緩やかな結びつきで一つに成れるんだって。
緩やかな結びつきは奇跡を起こすって、偉い魔法使いも言ってたかな。
 
「・・さん!? 高峰さん!」
いけないまだ授業中だった。
「またボーッとしてる、授業中は集中しなさい」
「ごめんなさい」
 
とにかく、私は、あきらめない。
魔法使いなのだから。
魔法を嫌う人間ともきっと、分かり合えるはず。
今度、一般科と共通になったこのラッキーな機会だって逃さないんだから。
それが私のはぴねす。
 
普通科2年雄真、彼の証言。
だいいち、魔法科が臨時とはいえ俺たち普通科に編入されるなんてリスキーだ。
なぜか、魔法科の生徒は女子ばかり。
うんざりするほど毎日がトラブル続き。
 
全学級での女子人数の著しい増加は、さまざまなトラブルを招いた。
たとえば、女子更衣室の不足による諸問題。
 
「魔法科校舎崩壊のおり、そのほかの施設も吹き飛んでしまいました。
ですので、トイレ、更衣室その他もろもろ普通科と共有となります。 譲り合いの精神で融通しあうように」
これが、担任のコメント。 ぶちゃけすぎだ。
体育のある時間に、男子生徒はもっぱら教室で着替え。
クラスが考えたあぶれた女子生徒の救済策として、魔法使いの女子が、魔法で出したカーテンで教室の前後を仕切る、
彼女が言うには絶対防御の加護があるカーテンらしい、そしてあぶれた女子生徒がその教室の片方を使うことに。
トラブルは、この後。 下着ドロが頻発したことだ。
戸は閉めてあるし下着を盗むのは、男子しかいない。 魔法のカーテンを破ることなどできるはずがない。
互いの主張の食い違いがさらに事態を加速させた。
女子の魔法使いの暴走である。
自分の魔法にプライドもあるのだろう。 そのツインテールの悪魔は毎回決まって八輔を魔法攻撃の嵐にさらした。
避雷針の性ゆえか。
暴走の後、なぜか決まって下着は見つかるのでツインテールの悪魔は、それですっきりしてしまうらしく、事件はうやむやに。
だが数日後、魔法のカーテン、実は迫ってくる物体を必ずかわすことの出来るマントと同じ原理で出来てたことが判明した。
・・・、ネコ型?
カーテンをめくるだけでいい訳だから、男性陣が限りなく黒と断定されて冷戦再び。
女子からこの問題が問い立たされるたび、八輔が身を挺して大多数の男子を守ってくれた。 南無。
事態を重く見た学園は、空き教室を女子更衣室に改装して、女子更衣室不足問題を抱えていたクラスに割り当てた。
そうして下着ドロは起こらなくなり、男女冷戦の長期化は避けられた。
あくまで表面上だが。
 
第二のトラブル。 興味本位で、魔法使いの女子に手を出してやけど。
編入したて、魔法科の一年に傘のワンドを使役するちんまい女の子がいるといううわさが流れたが
その女の子がとてつもなくかわいらしいというのだ。 しかも上目遣いのおどけた顔が。
・・・一部の評判である。 俺がそんなのでグッとくるか。
で、その女子にアタックをかけた男子がいたのだが、結果は散々足るもの。
小さくてかわいいと評されるのが、どうも彼女の、比較して見られてるというネガティブな心理に触れた。
さらに、君のワンドはビーチパラソルみたいといわれたもんだから、マスター、ワンドともに火がついてしまった。
これまた、魔法攻撃の嵐。
至急、八輔が用意され、攻撃すべてを受け付ける羽目に。
だめだな、これ以降、かさのワンドの魔法少女は荒くれの印象がついてしまい男子陣のかわいい娘候補から脱落した。
 
トラブルその参。 食堂の怪。
毎昼、食堂にトワライトゾーンが形成されるようになった。
名づけて、ワンドを食う女。
「う〜ん、口の中でゆっくり溶けてゆくシュガーがなんともたまらない、シナモンを振り掛ければなおいいわ」
食う食う、バリバリ食う、ひたすら食う、貪り食う、無限に際限なく食う。
何で食えるのか聞きだせるものはいない。 なぜ無限に増殖し続けるのか問いかける者もいない。
ただ、たった一度だけ、一年の男子がポツリとつぶやいた一言によって、みなが必死に守り通していた静寂が破られたことがある。
「自分の半身(ワンド)を食ってやがる」
ぶちっ。 なにかが切れた。
その後はお決まりの魔法攻撃の嵐。
急遽、八輔を人柱にした奉納の儀式が行われた。
 
最近は、魔法科編入の弊害によって生じているあらゆるトラブルを回避するため歩く避雷針のあだ名で通る高溝八輔を、
必要なときには学年を超えてリースを行うものとする、なんていう闇協定が結ばれているほどだ。
・・・振り返ると、トラブルの半分は、原因と受け手が一対一になっていて実害はないようだ。
でも普通科の人間の不安は増している。
魔法科校舎崩壊の原因は、そもそも魔法使いが起こしたものだと。
そんな危険極まりない原因が学校生活のすぐそばにあるなんて。
動揺を隠せない普通科の生徒を落ち着かせる意図があるないかわからないが、
いっぺんも姿を見せたことがない理事長の言葉が掲示板に張り出されている。
「勇気とガッツで克服しろ」
多分、この学園の理事長は、車椅子に座ったちょっと病弱そうなお嬢様ではなく、眉毛の太い武骨な顔のナイスミドルに違いない。
とにかく、俺は、魔法使いは厄介払いしてほしいと思ってる。
別に魔法は危険なんては思ってない。
魔法を行使するのに必要なワンドは肌身から離せないもので、その効果範囲はずいぶん狭いと聞く。
その常識から考えりゃ、校舎は倒壊したのではなく、木っ端微塵に吹き飛んだのだから、魔法を行使する自身が無事じゃすまない。
トラブルの厄介払いをしてほしいだけだ。
魔法科が厄介事を持ち込むたびに八輔が犠牲になってる。 何しろ彼が可哀相過ぎる。
 

 
注:この物語は『naorin』様の想像力でお送りしました!