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タイトル : 『未定』
作 者 : 【アマ枠】長谷川寅蔵様
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「さて帰るかな。」
ある日の放課後、周りの喧騒を聞き流しながら俺は帰宅しようと教室を出て廊下を歩き出した。
「きゃ。」
俺が階段の踊り場に続く角を曲がろうとした時、向こうから来た人とぶつかってしまった。
「あっ、大丈夫ですか?」
と、俺とぶつかって倒れた人をよく見てみると魔法科の高峰小雪先輩だった。
「高峰先輩だったんですか。」
「…その言い方ですと私ならぶつかって倒れさせても問題ない、と言っているように聞こえますが。」
高峰先輩の目が妖しく光る。 背筋になにやら冷たい物が…。
「そ、そんなことないですよ。 とりあえずスイマセンでした。」
そう言って高峰先輩の手を取り立ち上がらせた。 高峰先輩はパタパタと制服を叩いて身だしなみを整える。
「罪滅ぼしをしてほしいのですが。」
唐突に高峰先輩がそんなことを言い出した。
「つ、つ、罪滅ぼしとおっしゃいますと…。」
「とりあえず付いてきてください。」
俺は冷や汗を流しながら高峰先輩に拉致されることになった。
−間−
連れてこられたのは高峰先輩の教室。 そして俺たちは机を挟んで対面に座っている。
「何を始めるんですか?」
「占いです。 最近、新しい占い方を覚えたのでそれを試してみようと思いまして。」
あ、なんかやな予感…。
「始めますね。」
高峰先輩の目が光り、エプロンのポケットからスフィアタムを引っ張り出した。
「それじゃ…タマちゃん。」
高峰先輩が目を閉じるとスフィアタムの先端のタマちゃんが光り始めた。
「…雄馬さんにはこれから多くの災難が訪れます。」
「ぐ、具体的に言うとどんなことが起きるんですか?」
「…雄馬さんが人とぶつかるっているのが見えます。」
「えっ!?」
「…そして階段から落ちます。」
「ええっ!?」
確か高峰先輩の占いの中で不幸に関する占いって的中率100%だったよな…。 ってことは!!
「それから…。」
「スイマセン高峰先輩、用事を思い出したので帰ります!」
これ以上聞くのはヤバイ! 本能がそう叫んでいる。 なので俺は逃げることにした。
「あっ、待って下さい。 まだ続きが…。」
高峰先輩が話しかけてくるが、聞こえていないふりをして全速力で教室から脱出した。
そして教室から一番離れている階段の踊り場に来ると壁に体重を預けて一息ついた。
「こ、ここまでくれば大丈夫だろ。」
しばらくして、呼吸も落ち着いてきたので俺は壁から体を離して歩き出そうとした。
「あっ。」
「え?」
壁から体を離した瞬間、衝撃が俺を襲った。
「わっ、え、え!?」
ふらついてしまった俺はそのまま階段の方によろめき、
「うそーー!!」
階段から落ちた。
色んな所をぶつけながらごろごろ転がってようやく止まった。 頭の中が回っている。 痛い。 重い。
…重い? ちょっと待った。 なんだ重いって? 確かに体の上に何かが乗っているような感じはするけど。
ん? 唇にやわらかい物があたっているような。 それに何か良い匂いが…。
目を開けた瞬間飛び込んできたのは高峰先輩の顔のドアップだった。 そして俺と唇を…。
「うわわ!」
「きゃっ。」
俺は高峰先輩を引き剥がすと急いで体を起こした。
「え? え? あ、あの…。」
高峰先輩は狼狽する俺を見て一瞬驚いたが、クスクスと笑いながら立ち上がった。
「知っているかと思いますが、確かに私の不幸に関する占いの的中率は100%です。
でもそれを幸せと取るか、不幸と取るかはその人次第ですよ。」
よほどおかしいのか立ち上がってもまだ笑い続けている。 それとも何か嬉しいのか…。
「と言っても雄馬さんに取っては不幸でしたね。」
高峰先輩が俺の後ろ、階段の下に視線を向ける。 つい俺もそっちの方に目を向けると、
「あ・ん・た・ね〜。」
鬼のような顔をした柊が立っていた。
「ちょ、ちょっと待て! これには深い事情があるんだ!」
「パエリア!!」
俺の話なんてまったく聞く様子の無い柊のパエリアに光が集まっていく。
「高峰先輩も何か言って…っていねぇー!!」
いつの間にか姿を消していたらしい。 これで救いの手は無くなった。
「こんな所で…。」
杏璃がパエリアを上段に構える。
「ま、ま、待ってくれ! 俺の話を…。」
「何やってんのよーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!」
大きな花火が上がった。
「あっ、そう言えば雄馬さんに1つ言い忘れてました。 人とぶつかる。 階段から落ちる。
その他に女難の相が見えるって事…。 女難の相に関わってくる人は、春姫さん、杏璃さん、そして…。
ふふっ、春姫さん、杏璃さん、私は負けませんよ。」
夕暮れの帰り道。 高峰小雪はそんなことをつぶやくと笑顔で去って行った
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