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タイトル : 『小日向すもも』
作 者 : 【アマ枠】◆MTTCBqHbWk様
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「お兄ちゃん、私、どうしたらみんなみたいに行動早くできるのかな。」
すももがそう聞いてきたのはみんなで遊園地に遊びに行った日の夜だった。
すももはいつも何故か行動がワンテンポ遅れる。 今日も電車に乗り遅れたり遊園地でもみんなで乗ろうとしてた乗り物に
片っ端から乗り遅れて一人で乗ってた。
俺はまたいつものことかと思っていたが、本人はかなり気にしてたようだ。
「うーん、むずかしいなー。」
行動がワンテンポ遅れるといってもタイミングが少し(時々かなり)遅れるだけで行動のスピード自体はいたって普通なのだ。
「スピードが遅いなら何とかなるかもしれないけどディレイはどうすればいいのか・・・」
「ごめんね、お兄ちゃん。 いつも迷惑ばかりかけて・・・」
すももがすごくしょんぼりしながら謝ってくる。
「何も、謝ることないのに。」
しばらく考えても何も思い浮かばない。 こういう時自分の頭の弱さに嫌気が差してくる。
「こうなったら魔法で何とかするしかない!」
出てきたのはすごく他力本願な発想だった。
「明日、春姫あたりにきいてみるか。」
翌日、春姫に聞いたところ、病院に池。 とのことだった。
なんでも「そういうのは私にも思い浮かばないし、私の魔法で何とかしても一時的にしか良くならないはずだから。」という理由らしい。
そして、おすすめの病院の住所と医師の名前を書いた紙を渡されたのだった。
休日、その病院に行くことにした。
電車に揺られること1時間。 郊外にある、ぽんと立った高台が目立つ小さな街についた。
祭りの時期になると結構賑わうらしいが、今はわりと静かな感じだ。
「私、別に病気じゃないんだけどな。」
「まあ、春姫には考えがあってのことなんだろ」
そんな話をしながら病院へと向かった。
「いらっしゃい、あなたがすももさんね。 わたしは菅原といいます。 よろしく。」
診察室に入ると優しそうな女医さんに迎えられた。
なんでも指折りの外科医らしい。と聞いていたのでもっと凄みのある人かと想像してたけど、物腰のやわらかいきれいな先生だった。
「早速、すももについてなんですが・・・」
・・・一通り説明が終わると先生は少し考えてから口を開いた。
「なるほど、スピードは普通だけど他の人とタイミングがずれててそれを本人はすぐに感知できないと。」
「何とかなりますか?」
「詳しく診察してみないとね」
1時間後、診察が終わってまた診察室に入ると、
「何とかなりそうね。 今日、時間があるけど手術して行く?」と言われた。
「どれくらいかかるんですか?」
「今日は仮の状態で試すから1時間。 あと、念のため今晩は入院ということで。」
入院1日だけ?
「大丈夫なんですか?」
「魔法だから。」
なるほど。 春姫のつてだからやっぱり魔法使いなのか。
「すもも、どうする?」
「1日で済むならやってもらう。」
こうしてすももは手術を受けた。
なんでも時間調整器なるものを埋め込むらしい。
最終的にはすももと一体化させるらしいが今回は埋め込んで様子見らしい。
次の日、すももは無事に退院した。
「また1ヵ月後いらっしゃい。」
先生はメイドさんの格好をしている娘さんと一緒に送ってくれた。
「これでよくなるといいんだけど」
「お兄ちゃん、朝だよ。 起きて。」
朝。 すももが起こしに来た。
「あれ、すもも?」
どうやら効果は抜群のようだった。
それから数日、すももの行動は常にスピードもタイミングも的確。 みんなからは「別人になったみたい」と言われるようになった。
さらに数日がたった。
「お兄ちゃん、朝だよ。 起きて。」
朝。 すももが起こしに来た。
「あれ、すもも?」
時計を見るとまだ5時。
「ちょっと早くないか?」
「あれ? へんだなぁ。」
朝食を食べていると
「お兄ちゃん。 そろそろ行かないと遅刻しちゃうよ。」
まだ出て行くまでに30分はある。
「まだだいじょうぶだよ。」
「あれ? おかしいなぁ」
その日は何かちょっとすもものペースが早い。 でも少し自分で早めに行動するようにしてるんだろうと思った。
さらに数日がたつとはっきりと異常に早くなっているのが分かった。
「お兄ちゃん、朝だよ。 起きて。」
まだ夜中の12時だっつーの。
休日まで待てなかったので休みを取って病院へと向かった。
先生は
「そっかー。 今度ははやくなりすぎちゃったのかー。 ハハハ」といった。
「笑い事じゃないですよ。」
「やっぱり天使も12年かけて変化するんだし、短期間でと言うのは難しいわね。」
「でも、有益な情報は得られたし、改良できそうね。」
「本当ですか?」
「ええ、今度はゆっくり時間をかけて慣らすようにするわ。」
「すぐできますか?」
「いつになるかわからないわ。 でも必ず直してあげるからね。」
時間調整器を取り外して帰ることになった。
「うまくいかなかったね。」
「でも、いつかうまくいくよ。 それに少しぐらいみんなとタイミングがずれてても大丈夫だから。」
すもものまた、みんなとはワンポイント遅れた日常が始まる。
いつか直る日を待ちながら。
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