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タイトル : 『〜はぢめてのマジックワンド〜』
作 者 : 【アマ枠】じゃんがりあんぶれ〜ど様
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「やれやれ、折角の休みの日に魔法屋に行く事になるとは・・・」
しかし、そんなため息交じりの愚痴を漏らす兄に対して横にいるすももは終始ご機嫌だった。
「ど・ん・な・の、にしようかな〜♪」
兄の袖を可愛くつまんだまま小躍りしているすももの頭の中はこれからの買い物のことでいっぱい。
兄の憂鬱などどこ吹く風だ。
今日のお出かけの目的はすももの為のマジックワンドだ。
普通科に身を置くすももには必要は無いものだが、魔法科の生徒達が持つマジックワンドを見てどうしても欲しくなったという事で
母親におねだりをして買ってもらうことになる。
予定では母と一緒に出掛ける予定だったが急用が入り兄の雄真が随行をすることとなった。
ようやく学園指定の魔法屋に到着した2人は早速中に入る。
一見スポーツショップのようだがスキー板や野球のバットの替わりに魔法の杖が並び、
スポーツウェアの替わりに魔法のローブが飾られていた。
「うわぁ、魔法屋の中ってこうなってるんだ♪」
入店してすもものご機嫌モードは更にテンションアップした。
雄真は店員らしき人を見つけて声をかけると手揉みをしながら店員がこちらに近づいてきた。
「あ、あのっ、魔法の杖を見に来たんですけどっ、はぢめてなんですけどっ」
上付いた声ですももが尋ねてみた。
「そうですか。 初心者の方でしたらこちらの物などはいかがでしょうか?」
店員が手に取って見せたのは金属的なデザインで先端部に赤いオーブがありC字型のフレームがそれを囲んでいた。
「知性を持ったインテリジェンスワンドで、最近の流行ですよ」
それを見たすももは目をキラキラと輝かせて質問する。
「それって、やっぱり喋ったりするんですか?」
店員はニコニコしながら答える。
「もちろんですよ。 しかもアタックモードにすれば・・・」
「ちょっと待てっ、アタックモードでなんだっ?」
慌てて雄真が店員を制止する。
店員は意外そうな顔をしてこう言った。
「最近は物騒ですからねぇ。 コレさえあれば痴漢なんてイチコロですよ」
雄真は顔をしかめて呆れる。
「いや、イチコロって・・・」
しかしすももの方はウンウンと頷く。
「ゴキブリが出た時にも使えそうだよ。 兄さん」
店員に向けていたジト目を今度は妹に向ける雄真。
「ゴキ退治で家を壊す気か?」
「店員さん。 そういうのじゃなくてもうちょっとファンタジックなのは無いんですか?」
雄真にお勧め商品の駄目出しを喰らった店員はちょっと考えると別の品物を持ってきた。
「でしたら、これなどはいかがでしょうか?」
鳥の頭に羽飾りを付けたようなデザインでちょっと小振りの業物だ。
「わぁ、カワイイ。 これいいなぁ」
すももはこのデザインが気に入ったようで身を乗り出して覗き込んでくる。
すもものリアクションに満足げな店員は説明を始める。
「この杖は、こちらのカードセットと対になっていましてカードを杖で叩くことによって魔力が発動します。
言わばこの杖がカードの魔力の鍵のようなものですね」
店員はカードを何枚か選んで2人に見せた。
「やーんっ。 カワイイっ、カワイイっ。 ねぇ兄さん、これにしようよ♪」
大はしゃぎのすももは雄真の手を取って上下にブンブンと振る。
ところが店員が何かを思い出したようで、手をパンと叩き一言。
「そうそう、このカードですがきちんと保管しておかないと1枚1枚に宿っている精が逃げ出すので十分に注意してくださいね」
それを聞いた雄真は妹の手を振り払って「 大 却 下 だ 」
いい加減雄真も疲れてきた。
泥のモンスターに見たくも無い踊りを見せ付けられた後のようだった。
「なぁ、店員さん。 ズブの素人でも”安全に”使えそうなのは無いの?」
やっかいなシロモノをこれ以上出されないように釘をさしつつ別の商品を尋ねる。
そうすると店員は腕を組みうーんと唸り暫くすると手をポンと叩く。
「そういう事でしたら。 いいものがありますよ」
やがて店員が持ってきた物はさっきまでのシンプルなデザインとは打って変わって
派手というかおめでたいデザインだった。
「なんだ? どこかのカルト宗教の神器じゃないのか?」
雄真がそう思うのも無理はない。
紅白の水引きの締めてある胴体の先には数珠と蓮の台座、更にその上には金と銀の亀がハートの飾りを支えている。
怪しいどころか如何わしささえ感じさせる独創的なデザインだった。
でも肝心のすももは気にしていなかった。
「へぇぇー、変わってるけどちょっとカワイイかも」
どうやら結構気に入っているようだ。
(すもも1人で行かせなくてホントに良かった・・・。 どんなシロモノを掴まされるか想像に難くないな・・・)
雄真は自分を同行させた母の先見の明に感謝した。
「それで、店員さん。 この杖にはどんな魔力が込められてるんだ?」
買う気など更々無かったが興味もあったので念のために確認する雄真。
あいも変わらずニコニコしたままの店員は待ってましたとばかりに説明する。
「この杖は、対魔法合成物用で魔力によって結合されたものを分離させる力があります。
しかも、それ以外の用途には使えませんから人体には無害ですよ」
雄真はガクリと崩れ落ちそうになった。
「それって、合成獣(キマイラ)退治に使う魔法戦士用の杖じゃないのか?」
何故か魔法の杖に詳しい雄真であった。
もうかれこれ2時間になろうか。
次々と差し出される杖に精神力を削られていく雄真。
十数本の杖を見せてもらったが”癖のありすぎる”ラインアップにうんざりしていた。
「店員さん・・・。 俺たちが欲しいのは変り種自転車じゃなくてコマ付のママチャリなんだがそろそろ察してくれないか?」
そう言われた店員は1本の杖を持ってきた。
彩色も装飾もしていない木の杖で先端には星型の飾りだけが付いていた。
「杖自体には殆ど魔力は込められていませんが精神集中を助けて術者の念を高める効果があります。
ゼロから始める方にうってつけの品物ですよ」
気の抜けた雄真が店員の言葉を聞いた途端に意識を取り戻した。
「 最 初 か ら そ れ を 出 し と け (怒) 」
店員に殺意に似たような感情を向ける雄真をよそにすももは店員の言葉の一部を反芻していた。
「念を高める」
その一言がすももに決心を促した。
「兄さん。 わたしコレにする。 コレがいい」
魔法屋からの帰り道、相変わらずすももは兄の袖を摘んでいたがもう片方の手は大事そうに
包装紙でつつまれたマジックワンドを抱いていた。
そして雄真にはずっと気がかりなことがあった。
(なんで急に魔法を覚えたいなんて言い出したんだろう?)
雄真は意を決して妹に尋ねてみる。
「なぁ、すもも。 お前さあ、急に魔法を覚えたいなんて言い出したが一体何の魔法を覚えたいんだ?」
いずれは来るであろう質問に何故かすももは急に上気する。
そんな妹は、はにかみながら兄を上目遣いで見つめながら言った。
「えへへ、な・い・しょ♪」
(この杖で自分の気持ちを高めて、いつの日か兄さんに・・・)
すももは兄の袖とマジックワンドを持つそれぞれの手に少しだけ、ほんの少しだけ力をこめた。
(この気持ち、兄さんに伝えられる日がくるといいな・・・)
今、ここに新しい見習い魔法使いが誕生した。
火も風も起こせないがもっと大きな力を秘めた、でもたった1人の為の魔法使い。
彼女の魔法が身を結ぶ日は果たして・・・
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