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タイトル : 『まんじゅう・ザ・ギャザリング』
作 者 : 【アマ枠】覇怒羅阿様
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学校の授業を終え、帰宅路となる街道を俺(小日向雄真)と義妹(小日向すもも)と柊杏璃の三人で
おしゃべりしながら歩いている時だった。
「まんじゅう・ザ・ギャザリング?」
杏璃の口からその名が発せられ、俺は思わず驚いてみせてしまった。
「そう、まんじゅう・ザ・ギャザリング。 最近巷で流行のマジカル・カード・バトルよ! 勿論、知ってるわよね」
テンポの良いノリで話しかけてくる杏璃。 長い髪をツインテールに結わいている少女で、
顔は美少女の部類に問題無しに素通りで行けるほどの美貌を持っているが性格はちょっと問題ありの子だ。
彼女が言うその“まんじゅう・ザ・ギャザリング”は、とあるマスコットキャラクターシリーズで、
饅頭に円らな瞳やリボンをつけて愛くるしい表情のやつで、女子から絶大な人気を誇るグッズだ。
それが最近、カード・ゲーム化されて発売、瞬く間に流行の一つにのし上がったのだ。
勿論、俺も名前だけは知っているので、
「知ってはいるぞ」
「私も知っていますよ、柊先輩」
俺の後に少し遅れてすももも言う。
すももは義母(音羽)同様“まんじゅう愛好家”と言えるぐらい、この“まんじゅう”という存在が好きなのだ。
家にも大きいのから小さいのまで、特大のものまである。
円らな瞳が癒し効果抜群らしいのだが、俺は……まあ、可愛いかな?……というぐらいだ。
「その“まんじゅう・ザ・ギャザリング”がどうしたんだ?」
「うん。 その“まんじゅう・ザ・ギャザリング”の大会があるのよ。
試合方法はシングルとダブルスペアの二つあってね、雄真にね、私のペアとなってダブルスで参加して欲しいの。
言わばパートナー? むさくるしく熱い絆で結ばれた感じでいうならば相棒かな?」
「……どうして、俺を?」
思わず選んだ理由を問いただす。
「どうしてって、一番手頃の相手かな〜と思えて」
「……別に俺じゃなくたっていいじゃないか。 すもももいるぞ?」
「すももちゃんじゃ駄目なの。 2テンポほど時間軸がずれているすももちゃんだと、必勝のタイミングを見逃してしまうでしょ」
「あ、そうだね」
おいおい、義妹よ……
「すもも……そこは怒っていいところだぞ。 それと、だったら、シングルで…」
「それは駄目!」
剣呑な表情で駄目だしを言う杏璃。 いったい、それは……
「どうしてだ?」
「……こ、小雪先輩が出るんですもの!」
杏璃の返答に俺は思わず首を傾げてしまう。
「小雪先輩が? それがまたどうして駄目なんだ?」
「先輩は“毒まん”デッキのエキスパートで、前大会の優勝者よ」
「……優勝者って、それに何だ、その“毒まん”デッキって!!」
思わず声を張り上げて叫んでしまう。 杏璃は恐る恐る語る。
「“毒まん”デッキというのは、小雪先輩が使う緑まんじゅうパワーを主軸に置いた変幻自在、
縦横無尽のトラップ(罠)主体のデッキ。
小さなものから大きなものまで、ありとあらゆる面で抜け目なく張り巡らされた無敵の陣よ。」
「はぁ……そうですか」
真剣そのものの顔で杏璃は言っているが、まったく俺には意味が分からなかった。
まんじゅうパワーって何だよ? トラップって何だよ? ツッコミどころは色々とあったが、それは置いておく。
まあ、分かるとすれば小雪先輩は“まんじゅう・ザ・ギャザリング”の強者であるということか。
もし、戦っても今の自分の腕では勝てないと踏んでいるのだろう。
そうこう考えると、パートナーとして出場することは、杏璃に貸しが出来るということになるのかな?
まあ、ここらで売っておいて損はないだろう。 俺は考えをまとめる。
「しっかたない……まあ、相棒になってもいいが……俺はビギナー(初心者)っつーか、カードすら持ってないぞ?」
俺はなげやりながらも引き受けることにする。
「それは大丈夫。 私のを貸してあげるわ。」
「そうか。 助かる。 一から集めるとなるとお金もかかるからな。」
それに首をうんうんと頷く。 杏璃もこのカード・ゲームに結構お金をかけているのかも知れないと思えた。
「うん。 では、早速準備に取り掛かろう。」
「おう。 で、準備とは?」
「まず、ルールを覚える。 ゲームの流れを覚える。 カードの種類を覚える。」
「所謂、ゲームが出来るようになれってことだな」
「そうそう。 続いて、実戦訓練を積むことね。 こーゆーゲームは手の内の読み合いだから第一に慣れることが重要よ!」
杏璃の言うことはもっともである。 「そうだな」と俺は返事を返す。
「では、私の家に行くわよ!」
「え?」
その杏璃の発言に思わず驚きの声を出してしまう。
「何言ってんのよ。 善は急げ。 時は一刻も争う。 なのに、カードは私の家にある。 ここまで意味分かる?」
「……これから杏璃の家に行かなければ、何も出来ない。 だから、行かなければならない……」
「ピンポ〜ン! 正解! と、言うことで……」
杏璃が俺の手を取り、その俺の後ろにひょっこりいるすももを見る。
「すももちゃん、お兄さんを借りて行きます。 夕飯には間に合うように帰らせるからね、安心して」
と言い放ち、空いている手でバイバイと手を振りまた明日と言う意味を込めながら、駆け出していった。
走り去っていく二人の姿を呆然として見送るすもも。 そこで、ちょっと何か思い出す。 何か、引っかかる。
「……あれ?」
すももは何か言い忘れていることに気付く。 それは、
「あ、思い出した。 私も伊吹ちゃんとタッグを組んで出る約束してたんだっけ?」
話に乗り遅れていた時間軸が通常の時間軸で回った。
その後、俺は杏璃の自宅にて地獄の猛特訓……時間も忘れて夜中まで……が行われた……このウソツキめ。
ルールの説明を受け、カードの使い方などを一通り説明を受けた後、このゲームの出来た由来の説明が始まった。
これが深夜まで話が続いた理由だ。
簡単にまとめると(まとまったと言えるかどうかは分からんが……)、まんじゅうは実在するとのこと。
それは“要町”という町で“まんじゅう”が発生したことが確認されたかららしい。
一ヶ月間、その要町ではまんじゅうが大量発生したのだが、町に住まう好青年(プレイボーイとの噂有り)、
巫女姉妹、魔法使いのメイドさん、秋刀魚好きの天才外科医……等のよくわからない繋がりの方々が活躍し、
まんじゅうをカードに封印したことが起源らしい。
今一よく分からん。
と、言うか、まんじゅうが大量発生したところで怖いのか?
このまんじゅうの面(つら)を拝んでも、悪戯は出来ても犯罪を起こせそうに思えないのだが……
だが、噂ではまんじゅう帝国(地下にあるらしい)は滅んでおらず、再起を謀っているらしい。
いったい、どこまでが本当なのか俺には分からない。
明日からは本格的にやるそうなので、学校の昼休み屋上に来いとのこと。
俺は時間も時間だったので、欠伸をしながら自宅へと歩む。
ふと、何か地面の下から「もきゅもきゅ」という声が聞こえた……
「……話を聞きすぎたかな? 空耳だ、空耳。 家帰って寝よ!」
俺は無視して歩を進めた。
雄真の足下……その地面の……その地下……
雄真が住まう町の地下が蠢いていた。 楕円形をつぶしたような形のものが集い、会談を行っていた……
「もきゅもきゅもきゅ、ももももきゅきゅ!(この地にまんじゅうパワーが集まっていることが感知された。
ついに我らの復活の時がきたのだ!)」
「もきゅもきゅ(そのようだな……)」
「もきゅきゅきゅ、もきゅ(ここでも、前回と同じようにカードを使って、まんじゅうパワーを扱っているみたいですしね)」
「もきゅもきゅ……もきゅきゅきゅもきゅー(そうだな……先の二の前だけはごめんだ……潜入部隊を送り込んで情報を集めろ!)」
「もきゅ〜!(ラジャー!)」
「…………もきゅもきゅもきゅきゅ……もきゅ……(我らまんじゅう帝国の恐ろしさ、思い知らせてくれるぞ、人間どもめ……)」
そう、まんじゅう帝国は再興を果たしていたのだ。 かつての屈辱を返すために……再び……立ち上がったのだった。
そんなことは知るはずもない雄真。
優勝を目指す杏璃。
ミステリアスにこのことを察知する小雪。
まんじゅう大好きなすもも。
実は甘いものに目がない春姫(皆にはナイショ)。
だが、無情にも時は回り始める……雄真は知らず知らずのうちに、まんじゅう帝国の戦いの舞台に踏み入れようとしていた……
役者はそろった。
ここ、瑞穂坂学園を中心に繰り広げられる、伝説の戦いが幕を開ける。
…………
かな?
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