タイトル : 『準と女難がいっぱい』
 作 者 : 【アマ枠】詠月様

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「今日は、女難の相がくっきりと出てますねぇ」
 上条さんに手を出したとか出してないとかでその兄貴に捕まった八輔をおいて、昼の弁当を食べようと屋上に出た。
 俺と準は、そこでであった高峰先輩に、薮から棒にそう言われてしまった。
「ええっと……、それって、もしかして占いですか?」
「そうかもしれませんね」
 そういって高峰先輩は、にこりと微笑んだ。
 柊から耳タコが出きるぐらい聴かされたけど、高峰先輩の不幸な占いに限っては、外れたためしがそうだ。
 それはあの神坂さんですら、口を濁すものの敬遠しているので、間違い無さそうだ。
「あの……、小雪さん? 魔法で余り人を呪うのは、まずいんじゃないかなぁと思うんだけど……」
 そう言ったのは準。 どこから見ても美少女だけど、中身は歴とした男。
 一緒に歩いていると、それを知らずに一目惚れした男が俺に嫉妬して、何度喧嘩をふっかけられた事か……
 バレンタインデーでは、準をお姉さまと慕う女たちが押し寄せ、チョコを独占した。
 挙げ句に皆の前で俺にチョコを渡すものだから、毎年どれほどのやっかむ男女に追いかけられた事か……
 男女双方に人気のある有名人だから、何か起これば相乗効果で、いつも大騒ぎになってしまう。
「占いと呪いは違いますよ? そうですねぇ。 魔術を一つお見せしますね。 たまちゃん」
「なに、なにぃ?」
 高峰先輩はそう言うと、エプロンのポケットから羽根ペンをとり出し、くすぐったがるタマちゃんに何か複雑な咒紋を描き出した。
 インキの代わりに輝跡が綴られ、表面だけでなく内側にまで書込む様子は、魔法陣か何かと言うより蟻の巣の透視模型って感じ。
「出来ました。 準くん、そこを動かないでくださいね?」
 高峰先輩はそう言うと、咒文を唱えながら投石器の要領でワンドを振り回し、咒紋が光るタマちゃんを準へ投げつけた。
「もぎゅっ!」
「きゃぁー」
 準とぶつけられたタマちゃんが一瞬輝くと、何かが弾け飛んで、準がいなくなっていた……
「準? 準? おい、どこに行ったんだ!? 高峰先輩、一体、準をどこに……」
『何言ってんのよ、ユウマ? 私はここにって、あれー? なんか変!?』
「えっ? 準? 一体どこに? 姿が見えないぞ!?」
「あらあら、準くんのカケラの一つは、雄真くんに入っちゃったようですね」
「入ったって、高峰先輩、準に一体……」
『えっ!? わたしユウマの中にいるの? 一心同体?』
「そんなわけあるかァ〜!」
 準に加えて、高峰先輩とまで話し込んでいた俺たちに、屋上中の注目の視線が振りそそぐ。
「準くんは、今いくつかに別れて、準くんが日頃気にかけている子の中に入り込みました。
 雄真くんに入った、心のかけらの場合はお話とかできます。 体のかけらの場合は、姿だけ準くんになってます。」
「戻りますよね?」
「勿論です。 心のかけらを持った人なら、体のかけらを持った人から吸い出せます」
「吸い出す? どうやって……」
「勿論、キスしてに決まってます。 それに……」
「キス! 準の姿をした誰かに? 他に方法は……」
『え〜、ひどいよ、ユウマッ わたしなんかとはキスも出来ないって、ダイ嫌いだって……』
「違うだろ準。 キスじゃなくて、今はお前と元に戻す方法をだなぁ」
「他の方法なんてありません。 それに、1時間以内に全部集めないと、
入り込んだ人に準くんのカケラが定着しちゃって戻せなくなっちゃいます」
「そんな、1時間で……それって、うそ、ですよね?」
「はい、勿論、冗談です。 放っておけば、元に戻りますよ?」
 高峰先輩はそういって、にこりと微笑んだ。
 けど……
「くそー、残りは一体どこに、準行くぞ?」
 高峰先輩のことだ、よくない事の方が本当だってことも……。
 何気にひどい事を考えながら、俺はそう言って、屋上を後にした。
『わたしは、一生ユウマと一緒でもいいんだけどなぁ〜(はぁと)』
「そんなわけにはいくかァー」
「頑張ってくださいねぇ。でも、人前で中の準くんとお話ししていると、アブナイ人みたいですから気を付けてくださいね〜ふふふっ」
 高峰先輩は、屋上から呑気にそんな事を言っていた。
 
 それからが大変だった。
 
「やめてください、渡良瀬先輩。 ボク、そんな趣味ありませんから、放して退いてください!
本当に、ボク、怒りますよぉ……むぐぅ〜」
 廊下で準、の姿をしている誰かに押し倒されキスされてもがいているのは確か……
『あの娘って、すももちゃんのお友達の伊吹ちゃんだよね。 式守伊吹ちゃん、魔法科の。』
「準、お前、可愛ければ見境無しなのかよ」
『あれはわたしの姿しても、わたしじゃないってばぁ。でもだれなんだろう?』
 答はすぐに判った。
 準モドキが、駆け寄る俺(達?)に気づいたからだ。
「あれぇ〜、兄さん? なんでこんなところに? 今日は、すももとOasisで食べる日だっけ? わぁ〜 伊吹ちゃん、伊吹ちゃんだぁ」
「え? 渡良瀬先輩? すももちゃん? 一体…」
 準モドキのすももを式守から引き剥がし、俺は彼女に斯々然然と…
「それで判りました。 今度は高峰先輩が絡んでいたとあっては、納得行きますけど…すももを元に戻すには、一体どうすれば?」
「それが、高峰先輩が言うには、キスして吸い出すしか…、って、すもも?」
「わぁ〜 兄さんの瞳の中に準ちゃんがいる?」
「うわぁー ってぇ!」
 ぼけぼけとろんとした目をした、準モドキのすももが鼻息が届かん余りに顔を近づけていたのに驚いた俺は…
 ドガァン
 ブチュ!
「ふにゃぁ〜」
 何があったのか、順を追って話すと…
 ボケて顔を近づけてきた準モドキすももに驚いた俺は、驚いて思いっきりのけ反った。
 そこで壁に思いっきり後ろ頭をぶつけて、今度は身を屈めるとそこにすももがいて…額同士をぶつけるお約束が、
準の顔をしたすももと、その、唇が…
『ユウマって、わたしが腕組もうとすると怒るのに、すももちゃんとはキスするんだぁ?』
「って、事故だ事故。 やりたくてやったんじゃねぇ」
「にいさん… すもものこと、そんなに嫌いだったの?」
「それも違う。 嫌いとかじゃなくて… じゃなくて…」
「どうしたの兄さん?」
 そう言って覗き込んできたすももは、すももの顔をしていた。
『高峰先輩の言っていた事。 本当みたいだったね』
 俺の中の準がそういった。
 すももも、さっきのぼけっとした感じがなくなって、今ははっきりとしているようだ。
 どことなくズレているのは、いつもの事だけど…
「小日向さん? ダイジョウ…」
「あっ、伊吹ちゃん。 お昼まだでしょう? 一緒に食べようよ」
「いや、ボクはいいから…失礼します、先輩。」
「あー、待ってよ、伊吹ちゃん!?」
 とかなんとか言って、すももたちは行ってしまった。
『うーん、なんか濃くなったかな。 夢見心地だったのが、地に足がつき始めたって言うか…』
「次行くぞ、次」
 野次馬たちのどことなく醒めたような視線に気づいて、俺はその場を後にした。
 現れたり消えたりしている準と、外野からは危ない電波と話しているような俺。
 魔法科と共学になっても、世間は非常識には冷たい。 トホホ…
 
 準モドキの柊のときはひどかった。
 自分に人気が出てきたのを妬む神坂さんの所為にして、
 「春姫ぃ〜、春姫ぃ〜、パエリア、まだ見つからないの」って練り歩いていた。
 恐る恐る理由を話しても、高峰先輩が絡んでいて神坂さんは関係ないところは納得してもらえて、けど…
 治すにはキスをするってところで、やっぱりそんな事出来るかって怒っちゃって、自分で解呪してみせると言い出した。
 それで振り返ったところで、柊のワンドのパエリアが思いっきり俺の向こう脛を引っぱたいて…
 後は、マンガかゲームのように俺が柊を巻き込んで倒れ込んで、きずけばキスしていて、思いっきり引っぱたかれた。
 準は準で、思いっきり笑いやがるし…
 くそぉー
 
 準モドキ神坂さんのときは、事故だった。 俺的には。
 怒った柊が、「自分がなったくらいだから、絶対春姫もなっているわよ」なんて言って引きずられて行ったら…
 確かにそこに準モドキがいて、上条が生ハムイチゴパン片手に、妹に手を出したとか言って絡んでいた。
 上条さん、沙那さんの方に窘められて離れたまでは良かった。 その後、準ボケしていた神坂さんが正気づいた時までは。
 理由と治し方を話したところで、柊の時と同じく、案の定…
 皆の前でキスするなんてとか、そんなことをしなくても解呪できるとか言い出して…
 タイムリミットも迫っているのに、御薙先生を探して相談するとか、正論だけど悠長な事を言い出すものだから。
 しびれを切らした柊が、蹴り入れて、その、お約束でやってしまっていた。
 柔らかくてあったかい…、なんて思っていたら、準がにやけて不潔だと言い出すし。
 一体、誰の為に苦労しているんだろう、俺って…
 
 神坂さんで最後かと思ったけど、準は元に戻らなかった。
 何が足りないのかと思って、時間も差し迫っているし、俺達は屋上の高峰先輩の元へ戻った。 そして…
「あら、簡単な事です。 最後の準くんの心のカケラは、わたしの中にあるんですよ?」
「ええっ! それって、じゃあ?」
「雄真くん、わたしとも、キス、しますか?」
 高峰先輩はそう言ってにっこりと微笑んだけど、背中が気になった。
 柊は「わたしは押し倒したくせに」とこれ見よがしにつぶやくし…
 神坂さんは神坂さんで、「好きでもないのにキスするのは…」とか「やっぱり、御薙先生に相談した方が…」とか言うし。
 いつの間にか合流していたすももだけは、「そろそろ、時間じゃ」とか、まともなのかズレているのか判らない心配をしている。
「でも、淑女としては、殿方と無闇に淫らと接吻を交わすのは…うふふ、どうしましょう?」
『ユウマ、鼻の下伸ばしているでしょう? そんなにわたしとじゃなくて、小雪さんと、キス、したいの?』
「ばか、お前を元に戻す為だろう、準。 だから俺は悩んで…」
「あらあら、雄真くんは、そんなにわたしと、するのが嫌なんですか?
 それとも、春姫ちゃんや杏璃ちゃんの前だと恥ずかしいんですか?
 でないとすると、すももちゃんがいるから照れているんですか、お兄さん?」
「いやそんな事は…」
 とそこまで言って、後ろからの視線の温度が、メラメラと上がるのが判った。
 ううっ、俺が何したんだよぉ。
 そりゃ事故もあったとはいえ、彼女らとキスしてしまったのは確かだけど…
 助けている筈の準も、プンスカ怒っているらしい。一体誰を助ける為にだなぁ…
 
 結局、高峰先輩がワンドのタマちゃんに準のカケラを吹き込んで、タマちゃんと俺が受け渡すと言う関節キッス方式に。
 でも、俺達は高峰先輩を誤解していました。
 今日の俺には、女難の相が出ているって、高峰先輩が言ってたっけ。
 思い出したのは、事が終わって、昼休みに屋上で高峰先輩と逢って占いを聞いた事を後悔した後。
 
 高峰先輩は、タマちゃん暴れちゃいけないといいながら、俺の方へよろめいて…
 倒れ込んだように抱きついて、柊より豊かで神坂さんくらいありそうな胸のふくらみを、むぎゅっと押し付けて来て…
 『きゃあ〜』と、白々しく叫んだ挙げ句、これ見よがしにその叫びを、俺の口で包み消した。
 つまり、俺に抱きついた高峰先輩と、その唇が俺の唇に… 押し付けられていて、その…、キス? してた。
 たっぷりと、1分位続いた静寂が、誰かの悲鳴、復活した準だったかも、神坂さんか柊だったかもしれない、で破られて…
 
 気づいた俺が最初に見たのは、夕焼けで赤く染まる保健室の天井と、おろおろあたふたしているすももの顔だった。
 痛む身体を引きずって、夕飯にすべくOasisに寄れば、しっかりと音羽さんに騒ぎを知られていて笑われるし…
 でも一番悲惨だったのは、明くる日だったかもしれない。
 
 どこで見ていたのか、八輔が俺と準(モドキとだ)が、これ見よがしに学校中でキスしていたと言いふらしてた。
 柊と、いつもは止める筈の神坂さんになぜか準も交えた3人に、ボコボコにされてはいたけど…
 準を救った筈なのに、準FCと思しき男女と柊さん達の痛ク冷たい視線に、その後しばらく晒されるハメになってしまった。
 
 高峰先輩には、占われてはいけない。
 この日から、俺はそう堅く胸に誓った。誓った筈だった…
 

 
注:この物語は『詠月』様の想像力でお送りしました!