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ポケット・ストーリー

『約束の夏、まほろばの夢』 共通ルート 7-1

第七話『なりゆきの逃走劇』 (1)




    そして、今日も無事に補習は終了。

    幸い、課題も出なかったので生徒会の片付けを進めたかった――んだけど。


りんか 「それじゃあ、どこに連れて行ってもらおうかな」


    などと、神宮がスマホ片手になにやら検索してる。

    いくら検索しても、このあたりは田んぼと畑と山しかないのに。

    結局、神宮は最後まで補習に付き合って――

    今度は観光に付き合ってくれなんて言い出した。


涼太  「渚沙は図書室、星里奈は道場、祭はバイト、泉実は部活、歩さんは……なにしてるんだろうな」


    とにかく、神宮の案内は俺に一任された。

    なぜだ……?

    別に俺も暇じゃないのに……。



ホタル 「十河先輩にだったら、仕事を押しつけても心が痛まないんでしょう……」


ホタル 「貧乏くじ引いて破滅するタイプ……いえ、人徳があるんでしょう……素敵なことですね」


涼太  「……おまえ、全然フォローできてないからな」


りんか 「お、おおう……また新キャラ登場なの?」




ホタル 「新キャラ、[三雲/みくも]ホタル。この学園の1年生です……」


    と、なぜかホタルが可愛らしいポーズを決めている。

    顔だけは無表情で、ポーズと全然合ってない……。


ホタル 「新聞部所属、唯一の部員にして部長……」


ホタル 「趣味はワイドショー観賞。PCは自作できる程度の知識有り、あと簡単なプログラムくらいなら組めます……」


ホタル 「身長150センチ、スリーサイズは上から77、55、78」


ホタル 「初体験は、去年の夏。十河先輩は優しかったです……」


涼太  「ぶっ!」


りんか 「と、十河君……こんなおとなしそうな後輩ちゃんを毒牙にかけたの……!?」


涼太  「かけてない、かけてない! こいつの冗談は悪質なんだよ!」


りんか 「ていうか、この学園の人たちってみんな悪質なジョーク飛ばしてるよね」


涼太  「程度の差はあっても、昔からの顔見知りばかりだから、距離が近いというか、なんというか……」


    まあ、同い年でも、祭や泉実はここ数年で親しくなったんだけど……。


ホタル 「はい、今後は身体だけでなく、心の距離もぎゅんぎゅん縮めていきましょう……」


涼太  「……おまえな」


    と、ツッコミを入れるとさらにボケるからな。

    話を変えよう。


涼太  「というか、どうしたんだよ、ホタル。おまえは部活じゃないのか?」


ホタル 「ええ、たった今部活中です……」


涼太  「ん? どういうことだ?」


ホタル 「都会からやってきた謎の美少女? がいらっしゃると聞いて、取材に……」




りんか 「今、変なところにクエスチョンマークつけなかった?」


ホタル 「というわけで取材、よろしいでしょうか……?」


りんか 「だ、だいぶマイペースな子だね」


涼太  「この程度で驚いてたら身がもたないぞ」


ホタル 「ですが、もちろん観光にいらしたということですし、美少女さんの邪魔はできません……」


りんか 「美少女っていうのやめてくれないかな……裏を探りそうになるし」


ホタル 「取材を拒否されるのでしたら、とりあえず……24時間態勢でぴったり張りついていいでしょうか?」


りんか 「わたしの答え、関係ないよね! 取材する気満々だ!」


ホタル 「それがジャーナリストです。田舎にもジャーナリズムは存在するのです。いいえ、この私こそがジャーナリズムです」


りんか 「い、意味がわからない!」


    おお、星里奈に続いて、また神宮が押されてる。


ホタル 「都会の学園はどうですか?」


ホタル 「みんな彼氏とかいたりするんですか?」


ホタル 「放課後はカラオケ行って盛り上がったりするんですか、この町はカラオケもないんですがどう思いますか?」




りんか 「え、ええと……とりあえず、君は盛り上がってるね……」


涼太  「こいつ、普段はぼーっとしてるし、いるのかいないのかわからないんだけど」


涼太  「取材となると完全に別人になる。まあ……あきらめて取材されてくれ。それが一番面倒を省ける」


りんか 「ええええーーーっ!」


りんか 「そんな、立て続けに訊かれても……」


ホタル 「この町の学生たちはみんな、都会の情報に飢えてます」


ホタル 「真偽がわからないネットの情報じゃなくて、現場の生の声を伝えたいんです」


ホタル 「というわけで……逃がしません」


りんか 「もう取材に応じるしかなくなってる!」


りんか 「で、でもカラオケとかそんなこと訊かれても……」




りんか 「わたしには無理! 人様には言えない理由で、わたしには答えられないんだよ!」


    と、唐突に神宮は身を翻して走り出す――


涼太  「って、おおいっ!?」


    なぜか、俺の腕を掴んで引きずるようにして走っていく。


ホタル 「じゃーなる!」


    意味不明な掛け声とともに、ホタルも追いかけてくる。

    なんで俺、こんなわけのわからん逃走劇に巻き込まれてるんだ……!


涼太  「なあおい、なんで俺まで逃げなきゃいけないんだ?」


りんか 「ここは、“おまえは俺が守る!”とかってかっこつけるとこでしょ!」


涼太  「いつそんな関係になったんだ!?」


ホタル 「十河先輩と、神宮さんはただならぬ関係……メモメモ……」


涼太  「なんかヤバい情報が流れそうだし!」


りんか 「あの子、足遅いのにいつまでもついてくるね!」


涼太  「ホタルは足遅いし、体力なんてまったくないんだけど、取材のときだけ異様な粘り強さを発揮するんだよ」


りんか 「だったら、スピード上げるよ!」


涼太  「俺もそんなに運動神経よくないんだけど!?」


    ただでさえ補習が大変なのに、どうして今年の夏はトラブル続きなんだよ!

    (to be continued…)