渚沙 「はー……やっぱり家が一番だわ……」
涼太 「旅行帰りのオカンか、おまえは」
とりあえず、家に帰り着いたものの――
渚沙は完全にぐったりしちゃってる。
渚沙 「なんとでも言って。もう山なんか二度と行きたくないわ。山なんて全部消えてなくなればいいのに」
涼太 「無茶を言うなよ。まあ、俺も疲れたけど」
渚沙 「でも、星里奈はマジでどうかしてるわ。身体を動かし足りないから、素振りしてくるとか……」
渚沙 「なにでできてるの? なにを食べて大きくなったの?」
涼太 「だいたいおまえと同じものじゃないかな」
なにしろ、俺たちみんな、昔からこの蒼森家にお世話になってる身だからな。
涼太 「まあ、発育に多少の差はあるが……」
渚沙 「…………っ!」
渚沙 「ど、どこを見て言ってるの!? そりゃ、星里奈には負けるけど!」
渚沙 「巨乳ばかりじゃバランスが悪いのよ! 通常サイズがあるからこそ、巨乳も微乳も輝くの!」
涼太 「それを力説する必要あるのか……?」
というか、まだ元気が残ってるじゃないか。
陽鞠 「ただいまです」
涼太 「ああ、おかえり」
よかった、帰ってきてくれたか。
姿をくらまされたらまた山登りだからな……本当によかった。
渚沙 「おかえりー、あんた汚れてるからさっさとお風呂に――って、なに普通に帰ってきてるの!」
涼太 「あっ! そうだ、神宮を見つけたら連絡しろって言っただろ!」
陽鞠 「うっ、ごめんなさい。つい、うっかり……」
涼太 「…………」
渚沙 「ま、まあ、わかればいいんだけど」
そんなしょんぼりするのはずるいよなあ。
陽鞠は、俺たちと同い年、同学年。
でも――幼なじみの間では、一人だけ年下扱いを受けている。
小柄だし、性格もおっとりしてて、強気な渚沙や星里奈と比べれば一歩後ろに引いてるし。
妹っぽいというか、マスコットっぽいというか。
陽鞠も俺らを兄だの姉だのって呼んでるしな。
だから、あまり殊勝な態度を見せられると俺たちは強く出られない。
俺たちの間じゃ、陽鞠が妹で星里奈が姉って感じかな……。
涼太 「それで……神宮は?」
陽鞠 「無事に見つけて、町まで送ってきたんですけど……」
陽鞠 「さりげなく家に連れ込もうとしたんですが、逃げられちゃいました」
涼太 「連れ込むって……」
涼太 「とりあえず、無事に下山はしたんだな。それならいいんだ」
渚沙 「陽鞠はハイキング感覚で登ってるけど、あの山も迷ったら大変だものね」
渚沙 「あたしなんて、一人だったら余裕で遭難できるわ」
涼太 「なにを自慢げに……」
陽鞠 「なぎ姉、よかったら陽鞠が鍛えてあげましょうか? 山岳ゲリラもびっくりの体力馬鹿に仕上げてみせますよ」
渚沙 「仕上がりたくないわ!」
山岳ゲリラって……なんだ、その発想。
陽鞠 「でも、あの神宮りんかってお姉さん……不思議ですね」
陽鞠 「どうして、陽鞠の能力が通じたんでしょう……でも、あの人は確かに嘘をついてました」
陽鞠 「お兄さんたちが嘘をついたときと同じように、はっきりわかったんです」
涼太 「……そうか」
陽鞠 「何者なのか気になりますね……山奥に連れ込んで、“無事に帰りたければ正体を白状しろ”とか、脅してみます?」
涼太 「おまえ、たまにヤバすぎるよな!」
なんで、普段はおとなしいのにこうも発想がぶっ飛んでるのか。
涼太 「でも、確かに放っておけないよなあ……」
もうこれで、全員分の能力が神宮に通じたことになる。
陽鞠 「特に大きな嘘が、“観光で来た”ってところですよ」
陽鞠 「そこになにか、重要な真実が隠されてる――そんな気がします」
涼太 「…………」
陽鞠は、嘘を見抜くだけじゃなくて、なんというか、勘も鋭い。
……神宮りんかには嘘がある。
俺たちがまだ知らない正体が隠されてる。
少なくとも、なにも知らない普通の女の子って可能性は皆無だ。
陽鞠が嘘を感知した、ってことは、本人に隠し事があるってことだしな。
……まあ、それは今考えても仕方がないので、一旦置いておくとしよう。
涼太 「ところで陽鞠、おまえ補習が始まってるの知ってて、帰ってこなかったな」
陽鞠 「ぎくぅっ!」
渚沙 「そうだったわ! なにが“ぎくっ”よ! あたしだってサボリたいのに羨ましい!」
涼太 「渚沙、話が逸れてる。……神宮のことも気になるけど、まずは陽鞠のことだ」
涼太 「今日はとりあえず、俺たちから説教だ。いいな」
陽鞠 「あ、あううう……」
何日も姿をくらまして、心配もかけたんだしな。
たまには兄っぽい存在として、お説教の一つもさせてもらおう。
(to be continued…)