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ポケット・ストーリー

『約束の夏、まほろばの夢』 共通ルート 17-2

第十七話『待っていた過去』 (2)


    だいぶ長い間、使われてないのは明らかだ。

    あちこち汚れてはいるけど、崩れるほどでもない。

    ガラクタみたいなものがあるくらいで、中はがらんとしてる。


涼太  「ボロいな……」


    そう、ボロいだけのただの小屋なのに、心臓の鼓動はますます速くなっていく。




渚沙  「なんなの……」


陽鞠  「陽鞠なら余裕で寝泊まりできるレベルですが……別に、普通の小屋ですよね……」


星里奈 「五人も入ると、さすがに少し狭いな」


りんか 「……昔はそうでもなかったよ」


涼太  「神宮……?」


    神宮は、ふらふらと部屋の真ん中へ歩いて行く。


星里奈 「……なんだかあの子、“取り憑かれてる”みたいだ」


涼太  「おい、やめてくれよ……」


    巫女さんの幻とか、とんでもないもの見ちゃったあとなんだから。

    さすがに怖くなってくるだろ……。


涼太  「神宮おまえ、なにをやってるんだ?」


りんか 「えーと、たぶん……あ、これだ……」


涼太  「んん……?」


    なにをしているのかと思ったら、小屋の床板を外して、なにかを取り出してる。


渚沙  「ま、まさか埋蔵金……?」


星里奈 「なんの埋蔵金だ。歴史上、埋蔵金を残すような大金持ちはこのあたりにはいなかった」


星里奈 「戦国時代から、ずっと平和だったことだけが取り柄の土地だぞ」


陽鞠  「歴史だけは長いですよね、このあたり。遺跡はあっても、小判はないと思いますけど」


渚沙  「あんたら、なんでそんなに詳しいの……?」


星里奈 「常識だ」


    そうなのかなあ……俺もよく知らないぞ。


涼太  「……で、埋蔵金じゃないなら、なんなんだ?」


りんか 「ここにあるような気がしたんだよ。ああ、自分が怖い……」


涼太  「まったくだ、おまえちょっと怖いぞ……」


りんか 「お姉ちゃんじゃあるまいし、わたしが“怖い”なんて言われる日が来るとはね」


涼太  「おまえのお姉さんはなかなか強烈っぽいな」


りんか 「なかなか、なんてものじゃないけどね。ああ、開いた」


    神宮は、なにやら手元でいじり回してると思ったら――


涼太  「それ、もしかして……」


    やっとわかった。

    これは――




渚沙&星里奈&陽鞠 「タイムカプセルよ!」「タイムカプセルだ!」「タイムカプセルです!」


涼太  「…………!」


    俺が言う前に、三人が同時に――


りんか 「そう、だよね。うん、みんなの言うとおり、タイムカプセルだ……」


    たぶん、クッキーの箱かなにかだと思う。

    元からボロボロだったのか、時間をかけてボロくなったのかはわからないけど……。

    なぜか、これがタイムカプセルだってすぐにわかってしまった……。


涼太  「うっ……!?」


    なんだ、いきなり頭痛が……!

    なんか、頭の奥がチカチカして……

    え……? こ、これは――



涼太  「昔の、俺たち……?」


    神宮に似た、謎の巫女さんの次はなにを見てるんだ……?


涼太  「…………っ」


    と、もう消えたのか……!

    でも、今のは幻でもなんでもないよな……。

    今、見えた光景自体は本物じゃなくても――実際にあったことだ。

    俺は、俺たちはここに来たことがある。

    さっき見えた光景は幻じゃなくて、過去の光景――?


りんか 「みんなの分もあるよ。見てみたら?」


涼太  「みんなの分? なんだ、それ……?」


    と、タイムカプセルの中を覗くと――


涼太  「手紙、か? それもずいぶん古そうだな……」


    神宮に手渡された手紙を確認してみる。


涼太  「うっ……」


    下手くそな字で、“とがわりょうた”って書いてる……。

    いや、“10ねんごのとがわりょうたへ”?


涼太  「それに、この字……」


    そうだ、この字を俺はよく知ってる。

    全体的につたないけど、クセがまったく同じ――間違いなく、俺の字だ。

    これ……差出人も受取人も俺?


涼太  「なに書いてるのか、よくわからん……」


    字はかろうじて読めるけど、文章の意味が通ってないなあ……。


渚沙  「げっ……!」


星里奈 「うむむ……」


陽鞠  「んん……? ああ、これ逆さでした」


    他の三人も手紙を読んでるみたいだ。

    俺と同じ、過去の自分からの手紙なのか――







りんか 「…………うん、うん」


りんか 「やっぱり、そういうことなんだね……」


りんか 「文章が天才的なのはともかく、なるほど……」


    あっちは、ずいぶん感心してるみたいだけど……。


りんか 「ああ、そうなんだ。そう、なんだ……」


涼太  「神宮、それになにが書いて――」


りんか 「ちょっと、びっくりしちゃった……わかってても驚くものなんだね」


涼太  「だから、なにが書いてあるんだ……?」


りんか 「……リョー君も、もうわかってるんじゃないの……?」


涼太  「神宮、言ってくれないと……」


りんか 「りんか、だよ。きっと君は――そう呼んでた」


涼太  「りんか……」


りんか 「そうだよね……それだけじゃない……」


    神宮――りんかは、なにか考え込むような顔をして。


りんか 「なぎなぎ――なぎ、せり、ひまちゃん……」


渚沙  「りんか……」


星里奈 「りん……」


陽鞠  「りんちゃん……」


涼太  「りんか、りんかなのか……そうだ、俺はそう呼んで……」


涼太  「…………っ!」


    まただ、また――




    また、見えてきた――

    さっきと同じ――いいや、違う。


涼太  「りんかだ。この場所に俺たちと、りんかがいた――」


涼太  「みんな、ここで会ってたんだ……」


りんか 「そうだよ、ここがわたしたちの大切な場所だったんだよ」


    そう言って、りんかは手紙を折りたたんで。


りんか 「この秘密基地で、みんな一緒に遊んでたんだよ……」


りんか 「この手紙に書いてある。ここがみんなが集まる場所で、みんなといつも遊んでて――」


りんか 「これからも、ずっと一緒にいたいって」


涼太  「だったら、なんで……」


    りんかが一方的にそう思ってた――なんてことはないだろ。

    りんかがそう思うだけの関係があったはずだ。

    俺たちと、りんかの間には――それだけの関係があったに決まってる。


渚沙  「どうしてあたしたちは、忘れてたの?」


星里奈 「いや、忘れていたのは――“にっきけしごむ”の能力を使われたせいじゃないか?」


陽鞠  「でも、せり姉。それなら、どうして忘れさせられたの……?」


    そうだ、忘れたのはりんかの能力のせいだとしても。

    なぜ、りんかは能力を使って俺たちに忘れさせたんだ?

    この秘密基地のことを。

    そして、りんか自身のことを。




りんか 「わかんない……」


りんか 「でも、わたしはみんなを知ってたのに……みんなを忘れた」


りんか 「この場所も、町のこともずっと忘れてた」


    りんか自身も、俺たちを忘れてた?

    この町のことを、なにもかも忘れてた……?


りんか 「この町に来て、みんなと会って、みんなのことを知って、みんなの力を知って」


りんか 「わたしは、少しずつ思い出してきた……でも、どうして忘れてたの?」


りんか 「わたしは、わたし自身にも忘れさせてたの……?」


りんか 「わたしは、どうしてみんなに忘れさせたの……?」


りんか 「わから、ない……」


涼太  「りんか……」


りんか 「わたしは、みんなの友達だったのに……」


涼太  「おい!」


    と、りんかは突然身を翻して、小屋から出て行ってしまう。

    誰も追いかけられない……そんな余力は誰にも残ってない……。

    友達――そうだ、俺とりんかは友達だった。

    俺と渚沙と星里奈と陽鞠、それにりんか。

    この五人で、ここにいた。

    でも、ずっと四人だった。

    いや、もう何年も前から俺と渚沙、星里奈、陽鞠の二人と一人と一人だったのかもしれないけど……。

    だけど、とにかく俺たちのそばにりんかはいなかった。

    りんかがいないことに疑問すら持っていなかった……。

    どうして、いつ、りんかはいなくなったんだ……?

    (to be continued…)