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ポケット・ストーリー

『約束の夏、まほろばの夢』 渚沙ルート 5-3

第五話『ずっと好きだったの』 (3)




渚沙  「はぁ~……」


    渚沙が、身体がしぼんでしまいそうなほどの大きなため息をついた。


涼太  「ど、どうしたんだ……?」


渚沙  「とうとう、言っちゃったな、って思って」


    困ったようにそう言って、渚沙はまたまっすぐに俺を見つめた。


渚沙  「……もう、引き返せないわね」


    俺を見つめるその目に、強い意志を感じる光が宿っていた。


渚沙  「もう、元には戻れない。……だから、進まなくちゃ」


    それは、俺に言っているようにも、自分に言い聞かせているようにも聞こえた。


渚沙  『……だから、もう一度言うね』




渚沙  『あたし、リョータが好き』


涼太  「う、うん……」


    我ながら間抜けだなと思うけど、そんな言葉しかとっさには出てこなかった。

    渚沙が、赤い顔のままちょっと膨れる。


渚沙  「うん、ってなによ。涼太は……あたしのこと、どう思ってるわけ……?」


涼太  「俺は……」


    俺は、渚沙のことをどう思ってるんだろう?

    ずっと渚沙のことは双子の兄妹のように思ってた。でも、本当にそれだけなのだろうか……?


渚沙  「その……リョ、リョータは、あたしのこと……嫌い?」


涼太  「嫌いじゃない! ……嫌いなわけ、ないだろ」


渚沙  「じゃ、じゃあ……す、好き……?」


涼太  「そ、それは……」


    こういうとき、こんなことを考えるのは男らしくないのかもしれない。

    だけど、そもそも“好き”ってどういうこと、なのだろう……。


渚沙  「……嫌いか、好きかで……言ったら……?」


涼太  「それは……好き、だよ。もちろん」




渚沙  「リョ、リョータは、その……他に好きな人は、いる?」


涼太  「い、いないけど……」


渚沙  「ほんとに? じゃあ、あたしじゃダメかな……?」


涼太  「ダ、ダメかなって言われても……」


渚沙  「ど、どっちなのよ? ……はっきり、しなさいよ」


涼太  「そ、そうだよな……」


涼太  「……渚沙のことは好きだよ。嫌いだったらこんなにずっと一緒にいられない」


渚沙  「う、うん……」


涼太  「でも、今まで正直、恋愛対象として見たことがなかったから、急な話で……やっぱり、戸惑ってる」


渚沙  「そ、そっか……」


渚沙  「で、でもじゃあさ……リョータは今まで通りあたしと幼なじみとして付き合っていける?」


涼太  「そ、それは……」


    こうして好きだと告白されてしまった今、この先ただの幼なじみとして渚沙を見ることができるだろうか?

    “もう、元には戻れない”

    そう言った渚沙の気持ちが、やっとわかった。


渚沙  「きっと……難しいわよね?」


涼太  「……そうかも、しれないな」




渚沙  『そ、それなら……。あ、あたしと前に進んでみませんか!?』


涼太  「渚沙と……前へ?」


渚沙  『……リョータはあたしのこと、嫌いじゃないんでしょ?』


渚沙  『あたしは……リョータが、好き』


涼太  「……うっ」


    「好き」という言葉には中毒性があるに違いない。言われるたびに、前にも増して渚沙から目が離せなくなる。


涼太  「そ、そんなに何度も言わなくても……」


渚沙  「だって……事実だもの」


    渚沙の少し照れたような微笑みの前に、俺はなにも言えなくなってしまう。


渚沙  「好きと、嫌いじゃない同士なら、試しに付き合ってみる、っていうのは……どう?」


渚沙  「そ、それなら、リョータに損はないじゃない?」


涼太  「損……いや、損っておまえ……」


渚沙  「お、お試しでどう? ほら、付き合ってみたら意外と楽しかったり、するかもよ……?」


涼太  「お試し……凄いこと、言うんだな」


渚沙  「そうかしら? でもほら、結婚を視野に入れた同棲、とかあるじゃない……?」


渚沙  「それと同じで、彼女を視野に入れたお付き合い、とかさっ」


涼太  「彼女を視野に入れたお付き合い、って……」


    それって結局彼女なのでは? ……そう突っ込みたかったが、できなかった。

    ……それもいいかなと、思ってしまったのだ。


渚沙  「……ど、どう、かな?」


    付き合うということで、俺たちの関係がどう変わるのか、それはよくわからない。

    だったら、付き合ってみてもいいんじゃないか。

    ……そんな風に思った。


涼太  「……わかった」


渚沙  「え!? ……い、いいのっ!?」


涼太  「あ、ああ……。というか、渚沙こそ本当に俺で、いいのか?」


渚沙  「もちろんよ! ていうか、リョータしかダメだし!」


涼太  「そ、それなら、喜んで」


渚沙  「ほ、ほんとに? ウソみたい……」


渚沙  「それじゃ、あたしたち今から恋人同士……。あ、いや、違うか。彼女を視野に入れた……」


涼太  「ここまで来てなに言ってんだ。恋人同士……に決まってるだろ?」


渚沙  「……っ!!」


    俺と渚沙が彼氏と彼女……。

    そう意識すると、途端にドキドキしてきた。



渚沙  「え、えっと……。じゃあ、これから改めてよろしくね……リョータ」


涼太  「よ、よろしく……渚沙」


    ずっと変わらないと思っていた、変わるとすら考えていなかった俺と渚沙の関係……。

    それが、思いがけず変わってしまった。

    これから俺たちはどうなっていくんだろうか……。

    (to be continued…)