渚沙 「はぁ~……」
渚沙が、身体がしぼんでしまいそうなほどの大きなため息をついた。
涼太 「ど、どうしたんだ……?」
渚沙 「とうとう、言っちゃったな、って思って」
困ったようにそう言って、渚沙はまたまっすぐに俺を見つめた。
渚沙 「……もう、引き返せないわね」
俺を見つめるその目に、強い意志を感じる光が宿っていた。
渚沙 「もう、元には戻れない。……だから、進まなくちゃ」
それは、俺に言っているようにも、自分に言い聞かせているようにも聞こえた。
渚沙 『……だから、もう一度言うね』
渚沙 『あたし、リョータが好き』
涼太 「う、うん……」
我ながら間抜けだなと思うけど、そんな言葉しかとっさには出てこなかった。
渚沙が、赤い顔のままちょっと膨れる。
渚沙 「うん、ってなによ。涼太は……あたしのこと、どう思ってるわけ……?」
涼太 「俺は……」
俺は、渚沙のことをどう思ってるんだろう?
ずっと渚沙のことは双子の兄妹のように思ってた。でも、本当にそれだけなのだろうか……?
渚沙 「その……リョ、リョータは、あたしのこと……嫌い?」
涼太 「嫌いじゃない! ……嫌いなわけ、ないだろ」
渚沙 「じゃ、じゃあ……す、好き……?」
涼太 「そ、それは……」
こういうとき、こんなことを考えるのは男らしくないのかもしれない。
だけど、そもそも“好き”ってどういうこと、なのだろう……。
渚沙 「……嫌いか、好きかで……言ったら……?」
涼太 「それは……好き、だよ。もちろん」
渚沙 「リョ、リョータは、その……他に好きな人は、いる?」
涼太 「い、いないけど……」
渚沙 「ほんとに? じゃあ、あたしじゃダメかな……?」
涼太 「ダ、ダメかなって言われても……」
渚沙 「ど、どっちなのよ? ……はっきり、しなさいよ」
涼太 「そ、そうだよな……」
涼太 「……渚沙のことは好きだよ。嫌いだったらこんなにずっと一緒にいられない」
渚沙 「う、うん……」
涼太 「でも、今まで正直、恋愛対象として見たことがなかったから、急な話で……やっぱり、戸惑ってる」
渚沙 「そ、そっか……」
渚沙 「で、でもじゃあさ……リョータは今まで通りあたしと幼なじみとして付き合っていける?」
涼太 「そ、それは……」
こうして好きだと告白されてしまった今、この先ただの幼なじみとして渚沙を見ることができるだろうか?
“もう、元には戻れない”
そう言った渚沙の気持ちが、やっとわかった。
渚沙 「きっと……難しいわよね?」
涼太 「……そうかも、しれないな」
渚沙 『そ、それなら……。あ、あたしと前に進んでみませんか!?』
涼太 「渚沙と……前へ?」
渚沙 『……リョータはあたしのこと、嫌いじゃないんでしょ?』
渚沙 『あたしは……リョータが、好き』
涼太 「……うっ」
「好き」という言葉には中毒性があるに違いない。言われるたびに、前にも増して渚沙から目が離せなくなる。
涼太 「そ、そんなに何度も言わなくても……」
渚沙 「だって……事実だもの」
渚沙の少し照れたような微笑みの前に、俺はなにも言えなくなってしまう。
渚沙 「好きと、嫌いじゃない同士なら、試しに付き合ってみる、っていうのは……どう?」
渚沙 「そ、それなら、リョータに損はないじゃない?」
涼太 「損……いや、損っておまえ……」
渚沙 「お、お試しでどう? ほら、付き合ってみたら意外と楽しかったり、するかもよ……?」
涼太 「お試し……凄いこと、言うんだな」
渚沙 「そうかしら? でもほら、結婚を視野に入れた同棲、とかあるじゃない……?」
渚沙 「それと同じで、彼女を視野に入れたお付き合い、とかさっ」
涼太 「彼女を視野に入れたお付き合い、って……」
それって結局彼女なのでは? ……そう突っ込みたかったが、できなかった。
……それもいいかなと、思ってしまったのだ。
渚沙 「……ど、どう、かな?」
付き合うということで、俺たちの関係がどう変わるのか、それはよくわからない。
だったら、付き合ってみてもいいんじゃないか。
……そんな風に思った。
涼太 「……わかった」
渚沙 「え!? ……い、いいのっ!?」
涼太 「あ、ああ……。というか、渚沙こそ本当に俺で、いいのか?」
渚沙 「もちろんよ! ていうか、リョータしかダメだし!」
涼太 「そ、それなら、喜んで」
渚沙 「ほ、ほんとに? ウソみたい……」
渚沙 「それじゃ、あたしたち今から恋人同士……。あ、いや、違うか。彼女を視野に入れた……」
涼太 「ここまで来てなに言ってんだ。恋人同士……に決まってるだろ?」
渚沙 「……っ!!」
俺と渚沙が彼氏と彼女……。
そう意識すると、途端にドキドキしてきた。
渚沙 「え、えっと……。じゃあ、これから改めてよろしくね……リョータ」
涼太 「よ、よろしく……渚沙」
ずっと変わらないと思っていた、変わるとすら考えていなかった俺と渚沙の関係……。
それが、思いがけず変わってしまった。
これから俺たちはどうなっていくんだろうか……。
(to be continued…)