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ポケット・ストーリー

『約束の夏、まほろばの夢』 共通ルート 3-2

第三話『ないしょのチカラ』 (2)




    と、微妙に不穏な空気を感じつつも、なんだかんだと神宮りんかに付き合ってしまう俺と渚沙。

    そして、足の向くままに歩いてたら、昨日に引き続きまた神社へ来てしまった。


りんか 「……ねえ、十河君」


涼太  「なんだ? 神宮」


    そういえば、名前で呼ばれたのは初めてだな。


りんか 「この神社って、なにか有名だったりする?」


涼太  「いや、特にそんなことは……ないと思うけど」


渚沙  「昔からあるけど、神社ってそんな新築したりするものじゃないから、当たり前よね」


涼太  「まあ、歴史はあるんじゃないか? けっこう古そうだしな」


    あと、どうでもいいけど建物が妙に立派だ。こんな田舎の神社が見栄を張っても仕方ないと思うんだが……。

    昔は大きな信仰を集めていたりしたんだろうか? 今じゃ考えられないことだけど……。


涼太  「有名かって言われたら、違うよなあ。よその街からわざわざ参拝に来る人とかいないし」


渚沙  「地元の人くらいしか来ないわよね。あたしたちも、たまにここでアイス食べたりするけど」


りんか 「神社でアイス! 青春っぽい!」


渚沙  「な、なんでそんなとこに食いつくの!?」


りんか 「ああ、ごめん。それを説明すると悲しくせつなくなるから、そっとしといて」


    なんか、その反応そのものがこっちを悲しくせつなくさせるんだが……。


渚沙  「あたし、お家帰っていいかしら……ベッドでごろごろしたい……」


    さっそくバテ始めた渚沙がぐずり始める。

    ただ確かに、なんだか疲れてきたな……。


りんか 「わたしは、踊りたい……」




渚沙  『ちょっとーっ!』


涼太  『……おまえが1日に続けて能力使うの珍しいなあ』


    内緒話はかえって疲れるから、あんまり使わないのに。


渚沙  『そんなのどうでもいいのよ! というか、この子どっか変よ!』


    まあ、言いたいことはよくわかる。


涼太  『テレパシー使えるとか、渚沙のほうが確実に変だと思うけどな』


渚沙  『あんたが言うな! 覗きをごまかす奴に言われたくないわ!』


渚沙  『ああ、というかこの神宮さん、やっぱりおかしいわよ! なによ、踊りたいって!?』


涼太  『長い人生、たまには踊りたいときもあるんじゃないかな……』


渚沙  『そうだとしても、今じゃないでしょ!』


    まったくそのとおりだな。

    昨日の謎ダンスのことを話してもいいけど、本人は見られたの恥ずかしがってたしなあ。



りんか 『え……なに、これ……?』


涼太  『…………っ!?』


渚沙  『な、なんで……?』


渚沙  『ふ、腹話術……じゃないわよね?』


涼太  『そんなバカな』


    と、思わずありがちなツッコミを入れてしまった。

    確かに神宮の口は動いてなかったけど、頭に響いてきたのも間違いない。

    ……………………って、こりゃ大事じゃないか?


涼太  「ど、どうなってんだ!? 渚沙、おまえ新たな能力にでも目覚めたのか!?」


渚沙  「イベントもなしでのパワーアップなんて認めないわ!」


涼太  「そういう問題か!?」


    と、もう“ひみつでんわ”を解除したのか。



渚沙  「あ、相手を絞らずに話しかけたけど……でも、他の人とも繋がるわけないわ!」


涼太  「朝、歩さんと繋がってなかったよな……」


渚沙  「あのときと同じよ、やってることは」


りんか 「なにを言ってるかわからないけど……」


りんか 「なにが起きてるのかは、もっとわからない……」


涼太  「……こっちもさっぱりなんだが……」


渚沙  「そろそろ真面目に訊きたいわ……神宮さん、あなたいったい何者なのよ……?」


    渚沙が、真剣な目で神宮を見つめていた。

    そうだよな、こうなってしまうと冗談ばっかり言い合っている行きずりのお友達、ってだけじゃ済まなくなってくる。

    昨日の、“こころえのぐ”が通じたことといい……これは[未曾有/みぞう]の事態だ。


りんか 「十河涼太、東渚沙……」


涼太  「ん?」


りんか 「[一ノ瀬/いちのせ][星里奈/せりな]……」


りんか 「[風見/かざみ][陽鞠/ひまり]……」


涼太  「……っ!?」


渚沙  「え、え……!?」


涼太  「ちょっと待て。その二人の名前、神宮に教えてたか?」


渚沙  「あ、あたしは言ってないわよ?」


涼太  「俺だって言ってない」


    わざわざ、その二人の名前を出すような会話は一度もなかったはず。

    神宮抜きで渚沙と話してたときだって、星里奈と陽鞠の名前は口にしてない……と思う。



りんか 「わかんない……急に、浮かんできたんだよ」


りんか 「二人が……知ってる名前なの?」


涼太  「知ってるもなにも……」


渚沙  「星里奈も陽鞠も、あたしたちの幼なじみよ」


    そう――

    一ノ瀬星里奈に、風見陽鞠。

    俺と渚沙、それに星里奈と陽鞠の四人は、物心ついた頃からずっとこの町で暮らしている幼なじみだ。

    町の住人なら、俺たち四人が幼なじみだってことは誰でも知ってるけど……。

    昨日来たばかりの神宮が、なんで二人の名前を知ってるんだ?

    神宮自身、めっちゃ戸惑ってるみたいだし、はっきり言って演技には見えない。

    神宮りんか。

    ……もしかして、自分でも自分が何者なのか、わからないって言うのか?

    だったらいったい、誰ならわかるっていうんだよ……

    (to be continued…)