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ポケット・ストーリー

『約束の夏、まほろばの夢』 共通ルート 8-1

第八話『涼太の日常』 (1)




    そして、今日も今日とて学園で補習――


渚沙  「う、うーん……微妙……」


    今日は数学の小テストがあって、答案が戻ってきたところだ。


祭   「ふーん、アズはいつもどおり、よくもなく悪くもなくだなあ」


泉実  「そういう嵐野さんは、もの凄く意外だけど成績いいんだよね」


涼太  「しかも理数系が得意とか詐欺みたいな話だよな」


祭   「こいつら……」


祭   「田舎って意外と村人同士の仲が悪かったりするよなー……。距離が近すぎるのが逆によくないんだよね……」


    いや、ここは村じゃないけど。

    昔は村だったらしいが、けっこう前にいくつかの村が合体して町になったとか。

    ちなみに、祭は成績がよくて、俺と渚沙と泉実は割と平凡。

    俺は英語・国語が得意で、泉実は美術がずば抜けている。渚沙も国語“だけ”はかなり成績がいい。


星里奈 「ふーん、まあこんなものか」


    独り言をつぶやきつつ、星里奈が通り抜けていった。

    あいつはめちゃくちゃ成績いいんだよなー、歴史とか古文系が得意なんだっけか。

    まあ、星里奈とはあまり勉強の話はしないから、今も得意かどうかは謎だけど。



渚沙  「いえ、祭ちゃんのことはどうでもいいわ……」


祭   「私としては、できればいじってもらったほうがおいしいんだけど」


渚沙  「そんな妄言もどうでもいいわ……うう、こんな点を取ってたら補習が追加されてしまう……」


涼太  「できるようになるまで教えてくれるんだから、いいことじゃないか」


    渚沙は、たまに平均を下回ることもあるしな。


涼太  「追加料金を取られるわけじゃないんだし、補習はどんどん受けておけよ」


渚沙  「あんたは、それで喜べるの!?」


涼太  「喜べるわけないだろ。なに言ってるんだ?」


渚沙  「あんたこそ自分が嫌なことを人にすすめないで!」


涼太  「2年を代表して生徒会長なんて面倒を引き受けた男だぞ、俺」


    少しくらい、人をおちょくってもバチは当たらないはずだ。


涼太  「っと、そうだ。今日こそ、少しは生徒会の仕事を進めておかないと」


泉実  「僕は仕方ないから、どっかで金髪のヤンキーでも捜してスケッチしてこよう」


祭   「金髪ならなんでもいいの? 恐るべき習性だね、ズミー」


祭   「私はバイトに行こーっと。お金を稼いで、来年は電動自転車で華麗に登校するぜ!」


渚沙  「みんな、へこんでるあたしに冷たいわね!」


    とか言ってるけど、渚沙もどうせすぐに立ち直るし。むしろ機嫌悪いときに近くにいると八つ当たりされる。

    俺もこの場はさっさと退散して、自分の仕事をやりに行くとしよう。






    生徒会室には、ぱたぱたとキーボードを叩く音だけが響いている。


ホタル 「んー……んん? うんうん」


    他の音といえば、たまにホタルがなにやらうめいてるくらい。

    今日は、古い資料の整理&データ化の作業中。


涼太  「整理はいいんだけど、データ化して保存する必要なんてあるのかな……」


涼太  「30年前の予算表とか、文化祭の出し物一覧とか……今後の役に立つ場面がまるで想像できないんだが」


    紙が傷んできてるから古い書類をデータ保存せよ、とのミッションが学園から出てるんだけど。

    なんの意味があるのか、さっぱりわからん……。

    なかなかはかどらないけど、とりあえずホタルが手伝ってくれて助かる……。


ホタル 「……十河先輩」


涼太  「ん?」


ホタル 「暑いので、脱いでいいですか……?」


涼太  「脱ぐな」


ホタル 「はい」


    素直に頷いて、作業に戻るホタル。

    前は勝手に脱ぎ出したりしてたので、許可を求めるようになった分、まだマシだな。

    といっても、考えが読めない相手だけに、油断はできないけど。


ホタル 「あの」


涼太  「ん?」




ホタル 「ブラだけ外す、というのは……?」


涼太  「却下」


ホタル 「はい」


    再び素直に頷く後輩。


ホタル 「……実は先輩がみずからの手で外したい、という説も?」


涼太  「ない」


ホタル 「はい」


    本当にこの子は、無防備すぎる……。




歩   「……この生徒会室では、いつも今みたいなセクハラトークが展開されてるんですか?」


涼太  「うおっ……」


涼太  「あ、歩さん。なんでここに?」


涼太  「いや、違うから。ていうか、セクハラがあるとしても、俺がやってるんじゃないっす!」


歩   「私も現役時代にセクハラしたかった……」


涼太  「なにを羨んでるんだ……」


歩   「はっ……!? いえ、今からでも遅くない……!?」


涼太  「衝撃の事実に気づいた、みたいな芝居はいりません!」


歩   「涼太さんへのセクハラなら特に問題にはなりませんしね……」


涼太  「問題あるよ! どういう結論なんすか!」


ホタル 「“先代生徒会長が現役生徒会長を調教しちゃうぞ”……イイ」


涼太  「よくない!」


    話を聞いてないようで聞いてるな、こいつ。

    息をするように記事の見出しを考えるのはやめてくれないかな……。


涼太  「冗談を言いにきたんじゃないんでしょ、歩さん。どうしたの?」


歩   「ただの陣中見舞いです。手土産は私の笑顔で」


涼太  「それは最高デスネ」


    棒読みにもなるってものだ。


歩   「そんなに褒められると照れますね。もう、涼太さんはお上手なんですから」


涼太  「…………」


ホタル 「“ショック! 元美人生徒会長はチョロかった”……微妙」


涼太  「本当に微妙だな!」


    あと、しょうもないことを言いながらも手は動いてるから、文句も言いづらい。


歩   「あら、だいぶ進んでるみたいですね。私の1年分の仕事を1ヶ月で追い抜く勢いです」


涼太  「歩さん、勤勉なのか適当なのかわかんないな……」


    家ではパタパタと働いてるイメージが強いんだが。




歩   「まあ、こんな穴を掘っては埋める刑罰みたいな仕事はともかく」


涼太  「やっぱりそう思うよな!」


    ちらっと頭をよぎったけど、考えないようにしてたのにっ!


歩   「綺麗なお姉さんが遊びにきたからってそう興奮しないでください」


涼太  「解釈が都合良すぎる……」


    この仕事を押しつけたのが歩さんだから、ちょっとエキサイトしてるんですが。


歩   「ここのお仕事、ちょっと代わってあげますよ」


涼太  「え? なんで?」


歩   「大丈夫ですよ。もの凄く面倒くさいだけで、誰でもできるような仕事じゃないですか」


涼太  「いや、そういうことを訊いてるんじゃないから……」


    というか、押しつけた張本人が“誰でもできる”とか言わないでほしい。


歩   「涼太さん、ここ何日かは神宮りんかさんに振り回されたり、神宮りんかさんの世話を焼いたりでしょう」


涼太  「同じことだけど、確かにそうっすね」


歩   「幼なじみとの時間も大切にしなさい。渚沙さんは大嫌いな補習で弱ってますし」


歩   「星里奈さんも帰ってきたばかりですし」


歩   「二人ともかまってあげないと、拗ねますよ」


涼太  「……渚沙はともかく、星里奈もですか?」


    あいつ、むしろかまってほしくないんじゃないかな。


歩   「さあ、そこまではわかりません。でも、かまってあげても損はないでしょう?」


    損はない……いや、損はないかもしれないけど、得とか損とかそういう話なのか?

    別に、俺はあの二人の兄貴でも保護者でもないんだが。まあ、歩さんがやれというなら……。


涼太  「じゃあ、とりあえず二人を探してみるっす」


    俺がそう言うと、歩さんはニッコリ笑って手を振った。

    うん、まあ、全然やりますよ。生徒会の仕事よりは、あいつらと会話してる方がちっとは楽しいだろうし。

    (to be continued…)