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ポケット・ストーリー

『約束の夏、まほろばの夢』 共通ルート 14-1

第十四話『りんか、流れる』 (1)




りんか 「ふああ……美味しかった……いいお肉だったね」


歩   「ふふ、よく食べていましたね。たくさん食べる子は好きですよ」


    河原でのバーベキューは最高だった。

    歩さんが用意した肉、ずいぶんいい肉だったみたいだしなあ。


陽鞠  「うーっ、ちょっと食べすぎました。寝たい……」


渚沙  「食べてすぐ横になるんじゃないわよ。あんた、ホントにケモノっぽくなってるわね」


祭   「涼しい河原でのお昼寝かー。確かに悪くない!」


泉実  「みんな、欲望のままに生きてるなあ……」


涼太  「ま、遊びにきたんだから少しくらいハメを外してもいいだろうけどな」


    陽鞠あたりは甘やかすと調子に乗りそうだが。


星里奈 「私は魚もあるとありがたかったがな。せっかくだから、なにか釣ればよかったか」


陽鞠  「せり姉、川魚は騒がしくしてると釣れないです」


    と、陽鞠はそう言ってから――



陽鞠  「無理ですね」


祭   「なんで私を見たの!?」


    まあ、みんな騒がしいからなあ……。


ホタル 「ですが……神宮さん」


りんか 「んん?」


ホタル 「都会のちゃらい人たちは、週1でバーベキューしたりしてるんじゃないですか……?」


りんか 「それも偏見だなあ」


りんか 「わたしはやったことないよ。だって、だって……」


りんか 「わたし、友達いないし!」


涼太  「…………」


    おいおい、遂に認めちゃったよ。

    言葉の端々から、なんとなくそんな気がしてたけど。


ホタル 「そんな垢抜けた格好して、無駄なくらいに明るいのに、不思議な話ですね……」


りんか 「それ、ディスられてるのかな……」


祭   「だ、大丈夫だよ! 一緒に遊んで一緒にご飯食べたんだから、私たちがもう友達!」


渚沙  「そ、そうね。ここはクールな都会とは違うんだから。ウェットな田舎で、しっとりした関係を築けばいいのよ!」


涼太  「わけのわからんフォローだな」




りんか 「そうか、ウェットかー。ぬれぬれかー」


    と思ったら、言われた本人は納得してるらしい。

    ま、このメンバーは騒がしいけどいい奴らだからな。

    神宮も寂しがる暇はないだろう。

    とりあえず、神宮のフォローも一通り終わったところで。

    適当に片付けをしていた間に、みんながばらけてる。


涼太  「協調性がないメンバーばっかりだな」


    いや、わかりきってたことではあるけど。


歩   「あら、涼太さん。お片付けは終わったんですか?」


涼太  「ああ、泉実と祭も手伝ってくれたから」


歩   「うちの子たちはマイペースですね。まあ、手伝うと足を引っ張りそうですけど」


涼太  「だから手伝わせなかったんすよ」


    渚沙たちもそこまで要領が悪いわけじゃないけど、祭はバイトで片付けには慣れてるし、泉実は器用だからな。

    慣れてる奴らでやったほうが速いし、確実だ。

    ホタルは、片付けをする俺たちをスマホでパシャパシャ撮影してた。

    次の校内新聞で労働にいそしむ俺たちの写真が載ったりするんだろうか。


歩   「そうそう、涼太さん。この前も言いましたけど、渚沙さんたちのお世話もちゃんとやらないといけませんよ」


涼太  「お世話って……」


歩   「星里奈さんと陽鞠さんもせっかく参加させたんですしね。遊んであげなさい」


歩   「大人の遊びでもいいですが、屋外なのであまり励みすぎると声でバレますからね?」


涼太  「なんの話ですか!?」


    ニッコリ微笑みながらしれっと下ネタ混ぜるの、本当にやめてもらえませんかね!?

    ……とはいえ、そうだなあ。

    大人の遊びはともかく、ちょっと渚沙たちの様子も見てくるか。

    なにをやらかすかわからん奴らだし……。





涼太  「えーと……あれ? 神宮がいないな」


    渚沙たちもだけど、神宮も放っておけないよな。

    あいつは、急に俺たちの中に放り込まれたわけだし……。

    さっまでの様子なら気にする必要もないかもしれないけど、もしかすると知らない人だらけの環境で疲れてるかもしれない。


涼太  「あ、祭。神宮、見かけなかったか?」


祭   「あの子、川に落ちて流されてたよ。一応、助けといた」


涼太  「ちょっと目を離した隙に、そんな大事件が!?」


    なにをさらっと言ってるんだ、さらっと。


祭   「魚が見えたから、よく見ようとして身を乗り出して落っこちたっぽい。よくある、よくある」


祭   「救出には成功したんだけど、どっか行っちゃったな。あっちのほうへ歩いてったよ」


涼太  「そ、そうか……」


    なんでもなかったみたいだけど、声くらいかけといたほうがいいか。


涼太  「お、あそこかな……?」


    今、岩場の陰でなんか動いたな。


涼太  「まさか、おぼれて凹んでるわけじゃないだろうけど……」




りんか 「ふー、油断しちゃった……自然は怖いね」


涼太  「…………」


    神宮が、岩場の陰で今まさに着替えようとしている。

    服をめくって、ブラジャーがほとんどはっきり見えちゃってる……。


りんか 「びっくりしたけど、なんかちょっと楽しいな」


りんか 「ああでも、祭ちゃんいなかったらヤバかったし、気をつけないとね」


りんか 「十河君にでも助けられて、恩を着せられてHなことでも要求されたら乙女の乙女の大ピンチだし」


    あいつ、人をなんだと思ってるんだ……?


涼太  「まるで性欲のかたまりみたいに……」


りんか 「ん……?」


りんか 「あれ……なんで……?」


涼太  「…………っ!」


    しまった、つい声に出したせいで気づかれた!

    ていうか、俺、完全に覗いてた!?


涼太  「いやでも、ブラジャー越しでも凄い胸だったし!」


りんか 「いきなりなに言ってるの!?」


りんか 「なっ、なんで十河君がそこにいるの!?」


涼太  「祭に聞いて、川に落ちたっていうから、その……」


涼太  「心配になって見にきたというか……」


りんか 「そ、それはその……ありがとう?」


涼太  「こっちこそありがとう、みたいな……?」


りんか 「そこでお礼を言われると、凄くいやらしい!」


りんか 「ていうか、いったいいつまで見てるの!? わたしはいつまでこの胸をじーっと見続けられるの!?」


りんか 「もしかして見られるだけでは済まないの!? 今日、わたしは少女の時代にさよならするの!?」


涼太  「いやおまえ、なに言ってるんだ?」


りんか 「ああっ、わたしもなにを言ってるのかわからなーい!」


りんか 「なにもなかったことにするから、あっち行ってー!」


りんか 「わたしはもうダメ! これ以上は頭がもたない!」


涼太  「あ、頭が……」




りんか 「はははー、ホントにもうダメだー。わたし壊れちゃう!」


涼太  「ま、待て、落ち着け。とにかく、俺が悪かった。ごめん」


涼太  「とりあえず、俺はこれで失礼するから。ごゆっくりー!!」


    というわけで、くるりと後ろを向いて、全力ダッシュ。

    いやあ、いいものを見せてもらった……じゃなくて、えらいことをしてしまった……。

    なかったことにしてもらえるらしいから、こっちも忘れることにしよう……。







歩   「はい、というわけでみなさん今日はお疲れでした!」


歩   「ですが、帰るまでが遠足ですからね。最後まで気を抜かないように」


涼太  「遠足だったんすか、これ」


    初耳だぞ……っていうか、歩さんも適当なこと言うな。


渚沙  「まあ、たまにはアウトドアも悪くないわね」


祭   「私は自宅もアウトドアみたいなもんだよ!」


陽鞠  「陽鞠は人生がアウトドアみたいなものです。もう陽鞠の人生にドアは必要ないレベルです」


ホタル 「今日はいっぱいネタがたまりました……どうお話を盛るか、ワクワクが止まりません……」


涼太  「さらっと捏造発言するなよ!」


星里奈 「心配するな、なにか起きたら私が剣にものを言わせて解決する」


泉実  「一ノ瀬さんと三雲さん、どっちが物騒なのかな……」


涼太  「どっちもじゃないか……?」


    確かにこのメンバーじゃ、帰るまでは油断しないほうがいいかも。


りんか 「ああ、でも楽しかった……こんなに遊んだの久しぶりだったな……」


涼太  「…………」


    うん、神宮も楽しんでくれたんなら、俺も嬉しい。誘った甲斐があるってもんだ。

    正直、神宮には訊きたいこともいろいろあるけど……今日のうちに妙なこと言って楽しい気分に水を差すこともないか。

    また先送りだけど……今日はいいよな。

    (to be continued…)